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生活保護切り下げで社会保障も切り下げ

(「全国保険医新聞」2012年10月25日号)


 生活保護は6月時点の受給者が211万人を超え、過去最多を更新した。厚生労働省は9月28日、社会保障審議会の「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」に、政府が策定する「生活支援戦略」の素案を公表した。「生活支援戦略」素案には、社会保障制度改革推進法が打ち出した方針に沿って、生活保護基準を切り下げ、制度から国民を締め出す内容が盛り込まれている。「全ての社会保障の土台」である生活保護を縮小することは、社会保障水準の後退につながり、国民全体に影響する大問題である。その問題点を解説した。

医療扶助への自己負担導入
厚労省は来年度予算の概算要求で、保護基準の見直しを「予算編成過程で検討する」と明記している。
厚労省は生活保護費3兆7000億円の約48%を占めている医療扶助について、「受診率が高いため、1人当たり医療費は国保等よりも高額となっている」と問題視し、指定医療機関を受診した際の「患者負担のあり方」を論点にあげている。三井辨雄厚生労働大臣と桜井充副大臣も、就任後の初会見で、医療扶助への自己負担の導入について言及した。
受給者全体の8割は、医療扶助を利用して治療をしており、仮に自己負担が導入された場合、経済的な理由から治療を受けることができず、症状が悪化し、自立から遠ざかる悪循環となる。
本年度は、電子レセプトの機能を強化し、すべての自治体で一定条件(過重な多剤投与ケースなど)の抽出を容易に実施できるようにするとともに、後発医薬品の使用促進を進める方針だ。

低所得者層にも連動しサービス低下
生活保護基準の切り下げは、生活保護を受けていない低所得者層にも大きな影響がある。保護基準額が他の社会制度や医療・福祉サービスに連動するためだ。
住民税の非課税限度額は、最低生活費を下回らないよう設定することが決められている。保護基準額の引き下げで、収入は変わらないのに課税世帯に繰り上げられる低所得層が増えると予想される。
さらに住民税非課税世帯であることは、国保料、介護保険料、高額療養費制度、保育料、公営住宅家賃などさまざまなサービスでも減免措置の要件になっている。
経済的に厳しい家庭の小中学生に給食費や学用品などを支援する就学援助制度を受ける子どもは156万人を超える。対象は生活保護を必要とする「要保護者」と、それに準じる家庭の「準要保護者」で、準要保護者が141万人と全体の9割を占める。生活保護基準の切り下げは、同制度の対象世帯の縮減につながりかねない。
都道府県ごとに決められる最低賃金(全国加重平均額は749円)は、生活保護施策と整合性があるべきだとされている。現在の物価水準で、最低賃金の収入で暮らすこと自体が相当困難だが、保護基準額が引き下げられると、最低賃金の引き上げはいっそう難しくなる。

非正規雇用の拡大など、政治的要因
厚労省は、「政府が最低限の生活を保障する」対象は、「どうしても自立できないほどの困窮に陥る」国民だけに限定化する方向を打ち出している(「社会保障制度改革の方向性と具体策」2011年5月12日)。
しかし、保護基準額を下回る所得にあって、実際に生活保護を受けている世帯の割合を示す「捕捉率」は2割程度で、受給者は全人口の2%に届かない。イギリスでは人口の19%が公的扶助を受け、捕捉率は90%に上る。フランスは捕捉率が9割を超え、人口の9・8%が受給している。日本の現状は、生活保護が必要な世帯に保護がいきわたっていないことを示している。
受給者が増え続けている背景には、非正規雇用の拡大などで賃金がへっていることがある。生活保護基準の切り下げは、保護を受けずにいる層も直撃する。貧困・低所得者対策を実効性あるものにするためには、保護が必要な人が利用でき、自立に向かえるような制度の抜本的改革が必要である。