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金融庁 現物給付型医療保険を議論…公的医療保険を
縮小、民間保険を受け皿に

(「全国保険医新聞」2012年12月25日号)

 

民間保険が医療・介護へ参入
民間保険会社が医療、介護などの事業へ参入することに道を開く動きが金融庁のもとで進んでいる。
TPPへの参加も念頭に、公的保険縮小の動きと軌を一にして、民間保険の拡大が議論されている。
今年8月に成立した社会保障制度改革推進法は、@社会保障の基本を自立・自助と助け合いとし、A公費負担は保険料負担の「適正化」に限定、B国民皆保険に例外を容認する記述を加え、C保険給付の対象範囲縮小を明記するなど、国の責任を大きく後退させている。
さらに、政府の「日本再生戦略」は、「公的保険外の医療・介護周辺サービスを拡大する」ことを重点施策として掲げている。

直接支払いサービスを認可の方向
金融庁の金融審議会は、「保険商品・サービス検討のあり方に関する作業グループ」で7回にわたり検討を進めている。作業グループのメンバーには、日本経団連、コンサルタント会社などが並び、生保・損保会社もオブザーバーとして参加している。
現在、民間保険の定額保険契約では、金銭給付しか認められていない。公的医療保険に関連する商品では、厚労省が認めた混合診療の一つである先進医療などについて、患者の自己負担部分を補填するタイプや、歯科医療の窓口負担と自由診療を対象とする民間医療保険が販売されている。
これまでの議論では、「保険金直接支払サービス」と「現物給付型保険」の2種類について議論が進んでいる。
「保険金直接支払サービス」とは、保険金の支払先を契約者から医療サービス提供者に変更するもので、受取人からの指示に基づき、保険会社から医療機関に対して直接、保険金が支払われる。医療費全額を直接支払いすれば、運用上は現物給付と変わらない。
金融庁は、当面、「保険金直接支払いサービス」を認める方向で、医療費窓口負担の代理受領を想定しているという。来年夏ごろまでに議論を取りまとめ、保険業法の改定でなく、運用方針の見直しで対応する予定だ。
「現物給付型保険」は、保険会社が、価格変動にかかわらずあらかじめ定められた医療サービスの提供を行うことを保険契約で約定する。医療サービスの提供は、保険会社が委託した医療機関が行う。保険会社は、受取人へ提供された医療サービスの対価を医療機関に支払うという仕組みである。現行法上、生命保険では認められていない。

現物給付型で混合診療解禁の危機
「現物給付型保険」は、2007年にも議論され、当時は保険法(法務省所管)と保険業法(金融庁所管)の改正が必要とされていた。このときは保団連や神奈川県保険医協会などが、現物給付型の民間医療保険が認可されれば、混合診療の全面解禁への道が開かれ、アメリカ型の医療制度になることを指摘。再三にわたり要請した結果、▽現物給付されるサービスの質の保証▽将来の価格変動リスク(特にインフレリスク)などの問題から、保険法、保険業法ともに、現物給付型の民間医療保険を認めなかった。
今回、金融審議会の作業グループの議論でも、「サービスの質の監督がどうなるのか」との指摘や、「保険会社とサービス提供者の間に直接の関係ができると、保険会社とサービス提供者が組んで、提供できるサービスをコントロールすることも考えられる」との懸念が示されている。

保険会社が医療機関を囲い込み
「保険金直接支払サービス」が一般化していけば、保険金の直接支払いを通じて、保険会社と委託医療機関との連携が進行することは想像に難くない。
保険会社による委託医療機関の“囲い込み”が広く定着した段階で、提供する医療サービスの対象を拡大し、その対価である保険金額に上限を設けない保険商品の開発・認可が十分考えられる。自由診療ではあるが、初期医療から先進医療までの医療サービスを現物給付できる民間医療保険が出現する。
社会保障制度改革推進法が、国民皆保険に例外を容認したことをきっかけに、こうした民間医療保険が、縮小される保険給付の対象範囲の受け皿になることが危惧される。さらに、民間保険会社が医療内容や給付に関与することで、アメリカのように民間保険会社による管理制限医療に向かうことが懸念される。
生命保険協会の松尾憲治会長は、2012年7月の会長就任時に、「現物給付型商品の認可を政府に要望したい」と表明。最近も「継続して議論していきたい」(『週刊東洋経済』2012年12月8日)と述べている。
保険業法の運用方針の見直しで「保険金直接支払サービス」を認め、それをてこにして、現物給付型の民間医療保険の開発・認可に向かう危険性が高い。公的医療保険の縮小・解体へ道を開く動きに警戒が必要である。

以上