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安倍政権で始まった社会保障国民会議の焦点

(「全国保険医新聞」2013年1月25日号)


批判をかわすため多くは参議院選挙後に
 安倍内閣は6月に経済、財政、社会保障に関する「骨太の方針」を策定し、社会保障制度改革国民会議も8月21日までに結論を出すとしている。
 「国民会議」の議論の焦点となるのが、医療・介護の保険給付の範囲の「適正化」である。
 ▽風邪などを「軽い」疾病として保険給付から外す▽保険適用の医薬品で市販類似薬は保険給付から外す▽先進医療など混合診療の拡大▽軽度者への介護サービスの縮小・保険外し▽軽度者や一定所得以上の人の利用料(1割)の引き上げ▽終末期医療の見直し―が狙われている。
 一方、国民世論の批判をかわすため、患者・国民負担の実施の多くを7月の参議院選挙後に先送りするとしている。
 70〜74歳の窓口負担の1割から2割への引き上げは2014年度に延ばす方向だ(1割負担の維持に必要な予算は2000億円)。年金の2・5%削減も10月に実施する。
 「社会保障は自助が第一」という自民党政権で、社会保障・税「一体改革」路線が加速し、社会保障の解体へ進む恐れがある。

医療費「適正化」など5項目の改革課題
 昨年12月7日に開催された第2回社会保障制度改革国民会議では、医療分野の取り組み状況と今後の課題、方向性についての議論が行われた。医療改革の課題として示されたのは5項目で、医療サービス提供体制(「機能強化」と「人材確保」)、健康増進、医療費適正化の推進、在宅医療と終末期医療、医療保険の財政基盤(「市町村国保の財政基盤」と「保険給付の対象となる療養の範囲の適正化」)高齢者医療制度などについて報告が行われた。以下各項目について解説する。

医療サービス提供体制の「機能強化」
 機能強化対策の中心は、病院・病床の機能分化と入院患者の集約化である。いわば「川上」に位置付けられる「急性期病床群」を医療法に位置付け、その限定化をてこに、その他の一般病床の機能分化・連携と在宅医療の推進で再編を進めようとしている。
 急性期における平均在院日数の短縮=病床稼働率を高め、病床を絞り込んでいく。そこで余った病床は、亜急性期や慢性期の病床に振り向けるとともに、これらの病床にも平均在院日数によるインセンティブを与え、病床削減を進める方向である。
 2013年度からの次期医療計画では、「在宅医療に積極的な医療機関」を計画へ位置付けて、「在宅医療の体制構築に係わる指針」に基づき、都道府県が達成すべき「在宅死亡率」の数値目標や連携体制を記載する。市町村も積極的に関与させる方針である。

医療費「適正化」の推進
 医療費適正化の名で、医療機関の機能分化・連携、在宅医療の推進による平均在院日数の削減を目指す。次期の医療費適正化計画では、「医療機関における入院期間の短縮を目指す」としている。
 2012年4月には、こうした医療提供体制を誘導する診療報酬・介護報酬同時改定が行われた。今後、第6次医療法改定、医療計画と医療費適正化計画を通じてさらに具体化を進め、診療報酬・介護報酬改定で誘導していく計画である。

医療サービス提供体制の「人材確保」
 看護師の業務範囲を拡大するため保助看法を改定し、看護師特定能力認証制度(いわゆる特定看護師)を導入する。医師の「具体的な指示」を「包括的な指示」へ変更し、「特定医行為」を改定保助看法および省令に位置付ける。特定看護師による45項目程度の「特定医行為」が実施可能となる。
さらに、歯科衛生士の「業務範囲の拡大」を打ち出している。
 歯科衛生士法を改定し、歯科医師との「密接な連携とその指導の下に」業務を行うよう見直す。歯科衛生士が開業することや、医師の指示で業務を行うことを認める可能性もある。

在宅医療と終末期医療
 社会保障制度改革推進法第6条3項で、「医療の在り方」として、「人生の最終段階を穏やかに過ごすことができる環境を整備する」とされている。国民会議でも長期療養や終末期の患者をターゲットに、病院から地域、生活の場へ移行させる方向が示された。
 厚労省は「日常生活圏で適切な医療・介護サービスを受けられる体制」を構築するとしているが、その狙いは、病院・病床と患者の集約化による「入院から在宅へ」の強化、維持期リハビリを突破口にした「医療から介護へ」の移行、「在宅看取り」を誘導する仕組みなど、「低コスト」の提供体制づくりである。

医療保険の財政基盤
 「保険給付の対象となる療養の範囲の適正化等」が議論の中心となる。 ▽風邪などを「軽い」疾病として保険給付から外すことや、医療費が一定額以下は給付しない保険免責制の導入▽保険適用の医薬品のうち市販類似薬は、窓口負担を増やすか、保険給付から外す▽先進医療の保険適用を制限し、混合診療の状態に留め置く▽給食給付を原則、自己負担化する▽スイッチOTCの促進(医療用医薬品の一般用医薬品への転用)、などが議論されるものと見られる。
 厚労省は、社会保障審議会・医療保険部会に、かぜ薬や湿布薬など市販薬と類似する医療用医薬品について、▽保険給付外として全額自己負担とする▽医薬品の治療上の貢献度・有用度に応じて窓口負担を変動させる▽処方薬剤の種類の数によって窓口負担を増やす、などの案を例示している。
 また、「市町村国保の財政基盤」の安定化として、2015年度から都道府県単位に広域化する計画である。現在、1件30万円を超える医療費は都道府県内の全市町村が共同で負担しているが、その対象をすべての医療費に広げることで、財政運営を都道府県単位化する。
 厚労省は、都道府県に国保運営(保険料収入と保険給付費)と、医療提供体制(医療サービスの供給量)の管理責任を負わせ、国による指導・監督は残す一方で、「地域性」の名のもとに国の責任を放棄する狙いだ。
 低所得者対策として、市町村国保の低所得者への財政支援を恒久化し、2200億円程度の国費を投入する。国保料の軽減対象となる世帯の軽減額は、単身者で年間1万円程度、4人世帯で数万円と見込まれているが、実施は2015年4月1日からとされている。消費税率10%への引き上げによって、国保料軽減の拡充分は吹き飛んでしまうことになる。

高齢者医療制度
 厚労省は、75歳以上の高齢者のみを対象とする「高齢者国保」を都道府県単位で設けるとしている。「高齢者国保」を創設することで、現在の後期高齢者医療制度は形式上廃止される。しかし、75歳以上の高齢者の医療費(給付)と保険料(負担)が連動する仕組みという根本問題は、存続される。
 また、70〜74歳の窓口負担の2割への引き上げは、低所得者対策と併せて実施するとしている。

以上