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民間保険商品の「現物給付化」…命の沙汰も金次第に

(「全国保険医新聞」2013年4月25日号)

 

保険金の直接支払い可能 
金融庁は4月4日の「保険商品・サービスの提供等の在り方に関するワーキンググループ」に、介護や葬儀のサービスの「現物給付」化は、生命保険金の直接支払いサービスとして可能との「議論の整理」案を示した。
金融庁の「議論の整理」案は、保険商品の契約者が介護サービスを必要とした場合、生命保険会社の提携事業者(保険会社の子会社や資本関係のない事業者)から提供されるサービスを利用することができ、その費用が保険会社から事業者に支払われる方式である。契約者が指図する事業者のサービスを利用することもできる。
生保会社は、提供するサービス内容・水準などを提携事業者と定めるほか、サービスの質の確認、必要に応じた提携事業者の入れ替えなどを行うとしている。契約者は、提携事業者が提供する介護サービスなどを優先的に利用できるとしている。

金融庁は法改正不要と解釈
保険法と保険業法では、生保会社が契約者に代わり、保険金から介護や葬儀にかかる費用を、介護事業者や葬儀会社に支払うことは、サービスの「現物給付」にあたるとして禁じられている。
金融庁は、「現在ニーズがある事項については、全て直接支払で整理することが可能であり、むしろ、さまざまな検討すべき課題が指摘されている現物給付で整理するよりも、現行の法体系の下でも実現可能である直接支払で整理し、対応することとしてはどうか」としている。
直接支払いサービスは保険商品の付加サービスであり、生保会社は保険金の支払い先を契約者の指図でサービスを提供した事業者に変更するだけなので、現行法の下でも可能だというのが金融庁の解釈である。しかし、契約者が利用した医療サービスの費用の全額を直接支払いすれば、運用上は現物給付と変わらなくなる。
金融庁は、6月を目途にまとめる予定の報告書に、監督指針の見直しによる直接支払いサービスを盛り込む方針である。販売開始は2014年以降となる見通しだが、なし崩し的に拡大されることが懸念される。

公的医療保険縮小のおそれ
今後、保険金の直接支払いが一般化していけば、医療分野では、提携事業者=生命保険会社と提携する医療機関が増加し、生保会社による提携医療機関の選別と“囲い込み”が広く定着する可能性が高い。
生保会社と提携する医療機関が広く定着した段階で、提供する医療サービスの対象を拡大し、「将来の価格変動に関わらず」あらかじめ定められた医療サービスの提供を行う保険商品の開発・認可が十分考えられる。自由診療ではあるが、初期医療から先進医療までの医療サービスをカバーする民間医療保険が出現する。公的医療保険の縮小も一気に進む危険性がある。

民間企業の市場拡大の狙いも
政府の産業競争力会議では、「健康長寿社会の実現」と題した報告書を公表し、「『健康寿命伸長産業』を確立する」目標を掲げた(表参照)。公的医療・介護の給付削減・負担増計画であり、一方で民間企業の市場拡大を目指すものとなっている。
医療保険では、風邪は7割負担など「疾病の種類によって自己負担割合を変える」ほか、一定額以下の医療費は「全額患者の自己負担」とすることも打ち出している。
介護保険では、「軽度者」へのサービスは公的保険の対象から外して「民間保険(自己負担)でカバーする」方向を打ち出している。 
また、日米経済協議会では、「ヘルスケア・イノベーション」を提言(2012年11月)。「医療診断薬産業」を掲げ、「治療への診断薬の使用」の拡大を打ち出した。
安倍内閣は、公的医療保険の範囲縮小、医療の市場化・営利化の動きを強めている。公的医療保険の縮小により、民間医療保険の保険料を負担する能力のある人しか、十分な医療を受けられなくなることが懸念される。

以上