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成長戦略が狙う医療の市場開放
安倍政権の社会保障「改革」

(『全国保険医新聞』2013年11月5日号)



 安倍政権がアベノミクスの第3の矢と位置付ける成長戦略。医療分野の市場開放、企業への規制緩和などを定める国家戦略特区の創設などが目玉だ。他方、臨時国会では医療、介護などの社会保障制度の「改革」スケジュールを定めた「プログラム法案」の成立を狙っている。安倍政権の進める「改革」は医療をどう変えるのか。検討した。

2020年に医療を26兆円の市場に
 安倍内閣が「成長戦略」(日本再興戦略)の柱の一つにするのが、医療分野に新しい市場を作ることである。具体的には、医薬品、医療機器、再生医療と、健康予防を加えた関連市場は、2020年に国内で26兆円、30年に37兆円、海外市場は、20年311兆円、30年525兆円と予想している。これこそ「成長戦略」の売り物だとしている。
 特に「iPS細胞」技術を使った再生医療、医薬品・医療機器で市場創出する計画で、保険外併用療養費制度を大幅拡大し、活用することが打ち出されている。そのために、先進医療の評価実施機関を規制緩和して、外部機関化し、期間も現在半年くらいだが、半減し3カ月程度に圧縮するとしている。
 民間の事業者に丸投げ、効率性優先で、安全性、有効性の検証が形骸化し、想定外の薬害や医療事故が起きる危険が増えることが懸念される。
 医療機器も審査期間の短縮が出されて、現在では、心臓に関わる心臓ペースメーカーや人工心臓弁などの「高度管理医療機器」は、特別に審査することになっているのを民間の機関に任せるとしている。
 さらに医薬品、医療機器と合わせて、病院そのものをインフラとして輸出する、場合によっては人材もセットという形にもっていこうとしている。
 産業競争力会議の民間議員から、疾病の種類で負担を変え、風邪など「軽度」の疾病は7割負担にする、あるいは市販薬と類似している場合は、保険適用を外すなどの意見も出されている。初期医療といわれる部分は保険から外し、一方で先進医療は大幅に拡大し、輸出し、産業化しようという方向である。
 医療費負担増への国民の不安を見込んで、民間保険会社が、「医療費負担連動」型や「先進医療」といった保険を現在も盛んに売り込んでおり、この市場を拡大していこうとしている。金融庁は、生命保険会社による「現物給付化」を促す見解を表明したが、これは保険金支払いに代えて、医療の直接提供を可能にするための規制緩和を促すものである。

混合診療、外国医師診療解禁、―「国家戦略特区」
 安倍内閣は「国家戦略特区」の関連法案を臨時国会で成立させるとしている。
 特定の地域を限定して規制緩和や税制優遇を行う特区制度は以前からあるが、従来の特区は、地方自治体が計画を作成し、国に申請するものであった。今回の「国家戦略特区」は、「次元の異なる規制改革を国主導でパッケージ化」するとしており、地域も規制緩和の内容も政府が指定する「トップダウン」型である。
 特区の地域を指定し、規制緩和の内容を決める「特区諮問会議」は安倍首相が議長を務める。規制を所管する厚労省などの関係大臣は、意思決定から外し、必要に応じて意見を述べるだけにとどめる。特区ごとに設ける「特区会議」は、特区担当大臣と関係自治体の首長、民間事業者で構成し、特区計画を作成する。
 医療では、特区内で「国際医療拠点」として相当数の外国人患者を受け入れ、高度な医療水準を提供する医療機関に対して、@医薬品等についての混合診療(保険外併用療養費制度)の拡大、A外国医師の診療、外国看護師の業務解禁、B病床の新設・増床を容認するほか、医学部の新設についても検討するとしている。
 これらの規制緩和が実施されれば医療の安全性がないがしろにされ、儲けの対象とされる。特区の中で営利目的の危険な医療を行うことはあってはならない。国民皆保険制度に風穴をあけることになりかねない。
 医学部新設も、国民が必要としているのは地域の医師不足や偏在の解決である。そもそも経済成長のために医学部を新設することは問題がある。

健康、疾病は自己責任―「プログラム法案」
 安倍内閣が臨時国会での成立を狙う「プログラム法案」は、「個人の自助努力を喚起させる仕組み」や「個人の健康管理、疾病予防」が条文に盛り込まれ、健康・疾病における自己責任を法律で定めている。
 一方で政府の責務については、「住民相互の助け合いの重要性を認識し、自助・自立の環境整備を推進」するとして大幅に後退させている。
 政府の産業競争力会議の「健康・医療戦略」では、「健康寿命伸長産業の創出」を目標に掲げている。これまで保健行政で行ってきた「健康」分野を、民間企業に大規模に開放していく狙いである。
 特区を活用した「健康産業」化の方向が出され、市町村向けや、健保組合向けに、健診データを活用して、「健康づくり」のモデル事業をつくっていく計画である。健康づくりに参画して、成果が上がった住民には、「ヘルスケア・ポイント」を付与して、それが貯まると、何か出しますというサービスだが、そこでは、「健康づくり」は、「長寿」「疾病予防」と必ずセットとなっている。つまり自己責任で、健康管理をしない人には、ペナルティが課されるのは当然というわけである。
 個人の健康や疾病には社会的・経済的な要因も大きく影響することを無視するものである。

以上