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「一体改革」路線進める医療・介護総合法案@

(「全国保険医新聞」2014年5月5・15日号)



 医療・介護総合法案(「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する」法案)の国会審議が4月23日から衆議院で始まった。政府は今国会での成立を目論んでいる。同法案の趣旨は、政府によれば、2025年を目途に「効率的かつ質の高い医療提供体制」と「地域包括ケア」を構築することで、地域の医療と介護を確保するというものだ。しかし、その内容は趣旨に反し、医療・社会保障を後退させるさまざまな問題を含む。保団連は法案の徹底審議と廃案を強く求めるとともに、4月20日の理事会で法案に対する「見解」をまとめた。本紙4月25日号で法案の全体像を解説したのに続き、今号で法案の要ともいえる医療提供体制再編に関する2つの問題点を解説する。

「病床の機能分化」の名で病床削減、平均在院日数短縮
■法案の概要
 厚労省は2025年モデルで必要と見込む202万床に対して、43万床削減して159万床に抑え込む予定である。とくに36万床ある7対1病床を「高度急性期」に再編し18万床に半減させる計画で、当面2014年度から2年間で9万床を減らそうとしている。高度急性期については、都道府県に1病院、多くても全国344の2次医療圏に1病院とするという方向である。
 さらに「病床の機能分化」では、新たに「病床機能報告制度」と「地域医療構想」を導入する。病床数の削減と平均在院日数の短縮による「効率的な医療提供体制」への再編をすすめる。財務省は、入院サービス量の削減で2015年度に4400億円の国費の削減を見込んでいる。
 都道府県は、病院・有床診療所対象の病床機能報告制度を活用し、「医療需要」を反映した地域医療構想を策定する。「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」の4区分の病床の必要量を明らかにして、必要量を超える病床は、他の医療機能の病床に転換させ、その病床の新規開設は認めないことを通じて、地域医療構想で定める病床数に収れんさせていく。診療科や高度医療機器の配置、医師や看護師等の偏在についても、同様に「必要数」に収れんさせていく。そのために設置される「協議の場」への参加と、合意事項に協力することを医療機関に強制し、合意事項に従わない場合には、当該医療機関に対するペナルティを科す(許認可権の行使、補助対象からの除外など)。医療需要については、DPC対象病院データ、医療機関レセプト、特定健診データを用いて、入院・外来・疾患別の患者数をもとに推計する。
 また、都道府県に基金を新設し、診療報酬との両輪で、医療・介護提供体制の再編に向けて医療機関を誘導していく計画である。都道府県が医師確保のため、労働者派遣業を行うことができる条項が盛り込まれた。

医療需要を過小評価…入院難民・看取り難民あふれる

保団連の見解
 行政の権限で強引に医療提供体制をコントロールすることについては、極めて慎重な対応が必要である。医療需要は、経済的理由で治療中断した人や受診を控えた人が増えているもとで、表面的なデータだけで需要をはかることはできない。厚労省は「有病率」調査すら実施しなくなって久しく、保健所の機能後退と相まって、地域で潜在化している需要はほとんど把握不可能になっている。DPC対象病院の治療データを集積するとしているが、そもそも平均在院日数短縮のために、治癒していなくても退院せざるをえない治療データ(2004年度と12年度を比べると平均在院日数は短縮、治癒割合は半減)が、科学的な医療需要データになり得るのかについても疑問が残る。地域の医療実態が過小評価されれば、医療提供体制の大幅削減となる。さらに、こうしたデータが、診療科や高度医療機器、医療従事者の「適正配置」に使われることも危惧される。
 厚労省は、4月からの診療報酬改定で、7対1病床の自宅等退院患者割合は75%以上、療養病棟には50%以上の在宅復帰加算を設けた。重度の認知症患者も1カ月間という期間を目安に退院させると評価される。早期退院を促し、地域に押し出していく計画だが、入院が必要な患者を排除することになり、急性期病床以外の病床や在宅、外来にも重度の患者が増加することになる。地域で退院患者を受け入れる施設は不足し、自宅には戻りようがないため、結局、病院や施設を転々とせざるをえない。行き場のない入院難民や看取り難民を増大させるおそれがある。
 7対1病床削減の対象は明らかに民間の中小病院である。中小病院は2次救急の大半をカバーしており、7対1病床による収入を財源とすることで成り立っている。地域で守備範囲の広い医療を提供しているのが中小病院である。こうした実態を無視して7対1病床がある病院を機械的に削減し、「慢性期病院」に転換させていくならば、中小病院は2次救急を担うことができなくなり、それは同時に3次救急体制も崩壊に導くものである(2次救急:398地区3259医療機関、3次救急:249医療機関、2012年3月31日現在)。
 政府は地域の医療機関・介護施設を系列化する「持ち株型」法人の創設を準備し、三井物産が医療関連に特化した米国の人材派遣会社を買収するなどの動きもある。こうした中で、都道府県に人材派遣業を行わせることは、安上がりの提供体制づくりに利用される可能性がある。
 医療資源の分布、人口密度、地勢など、地域の医療の諸条件は千差万別であり、患者の病状も重なり合うのが実態である。4区分の病床に合わせて患者が入院することは本末転倒である。4区分に当てはめて無理やり再編すれば、実情に合わなくなり、地域医療を衰退させかねない。

 地域医療の実態に応えて、国の責任で様々な医療機能に対応できる病床や介護施設、住まいなどを確保すべきである。厚労省が2025年モデルで示した「地域に密着した一般病床」(24万床:人口5〜7万人の自治体100人当たり1床程度を整備)を拡充することも検討される。
 地域医療構想は、医療需要と必要量の抑制を目的とせず、2025年の高齢社会を見すえた地域の医療提供体制とする。都道府県内の各種医療関係団体、市町村の参加・参画を保障するとともに、「協議の場」は医療機関の意向を尊重した上で、国や都道府県の命令・指示によらない合意形成を追求し、医療機関等へのペナルティは法制化すべきではない。
 基金は、病床削減への政策誘導を目的とせず、医療と介護の連携強化と、地域の基盤の底上げを実現するためにも、都道府県と市町村にとって利用しやすく、自由度の高い基金とする。都道府県の財政負担を考慮して国庫負担率を決定し、都道府県負担分については地方交付税措置を行うべきである。

以上