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「一体改革」路線進める医療・介護総合法案A

(「全国保険医新聞」2014年5月5・15日号)

 

早期の在宅復帰を強めるも受入体制は脆弱
■法案の概要

医療・介護提供体制再編のもう一つの柱が「地域包括ケアシステム」である。全国1742の市区町村において、「30分以内で医療・介護・保健・福祉・住まいが提供されるネットワーク」という構想である。地域包括ケアシステムの運営は市町村が担い、地域包括支援センターや地区医師会に委ねられる。市町村は「地域ケア会議」で個々の対象者について、「公的サービスのみならず他の社会資源も積極的に活用しながら、在宅生活の限界点を上げるための支援を検討」するとしている。
在宅医療を支えていく看護師の養成を目的に、看護師に医療行為を委ねる研修制度を導入する。医師・歯科医師が患者を特定した上で、研修を終了した看護師に手順書(メール可)により(包括的な)指示を行い、看護師は「特定行為を行うことができる『患者の病状』を確認」し、「病状の範囲内」で特定行為を実施。その結果を医師・歯科医師に報告するとしている。
歯科衛生士については、「歯科医師の直接の指導の下に」から、直接を削除し、「歯科医師その他歯科医療関係者との密接な連携を図り」に変更するとしている。歯科医師の直接の指導を要しないことから、歯科衛生士が単独で予防処置などの業務が行えるようになる。
また、要支援1、2を対象とした訪問介護と通所介護を介護保険給付の対象から外し、市町村が行う地域支援事業へ移行する。提供するサービス内容や価格などは市町村が決めるが、保険給付以下にし、利用料は1割以上になると思われる。サービスの提供もボランティアやNPOなど専門職でない人に任せようとしている。認定者数3%削減目標を達成するため、要介護認定を省いて、市町村事業を利用するよう申請者を誘導していく方向である。また特別養護老人ホームの入所要件を要介護3以上にすることも予定されている。

地域支援事業は市町村任せ、必要なサービスの保証なし
■保団連の見解

退院患者の受け入れ体制は脆弱だが、川上での病床削減と平均在院日数の短縮は強引にすすめられる。川下に流される患者の不安は増すばかりである。地方ではマンパワーの確保を含めて効率的なネットワークが成り立つような実情にはなく、大都市部と地方の医療機能や介護基盤などの違いを無視した構想である。しかも、厚労省は、医療と介護の区域について、医療は都道府県もしくは二次医療圏単位、在宅医療・介護は市町村単位と説明しており、医療と介護を同一域内で総合的に確保することをはじめから放棄している。
在宅医療の普及度合いにより慢性期の病床数は変化し、在宅患者の急変時の受け皿になる病床機能や必要量も変化する。病院・病床機能を4区分にパターン化して、患者を移動させることはそぐわない。在宅での看取りも選択肢の一つであり、介護施設など含め選択肢を用意することが必要である。総合法案は一面的でこれらのことが欠落している。
看護師の養成・定着を抜本的に強めるのではなく、規制を緩和して増大するニーズに対応させようとしているが、医行為の中には患者の様態によっては危険性の高いものも含まれている。医行為を医師から看護師へ、看護師から介護職員へ移行し、安上がりの医療提供体制を作ろうとするものである。歯科衛生士については、専門的口腔ケアの担い手として、その役割はますます重要であり、病院・歯科診療所への配置を促して、診療報酬上の評価を高めるべきである。
4月からの診療報酬改定では、地域包括ケアの要をつくることを目的に、主治医機能を強化する地域包括診療料・同加算が新設され、健診、調剤から介護まで管理させようとしている。外来医療においても、専門外来・紹介外来から主治医、その他の外来という階層化を導入するものであり、患者像に応じた診療形態を取らせようとしている。こうした診療の効率化を具体化するのが、フリーアクセスの制限とゲートキーパーづくりである。
地域支援事業については市町村任せであり、必要なサービスを受けられる保証はない。全国一律の介護予防サービスに市町村間や市町村内で大きな差がでることが懸念される。中央社会保障推進協議会が実施したアンケート調査(2013年11〜12月末)では、移行「可能」の市町村は16・1%で、「不可能」が31・3%、「判断不可」が39・4%を占めている。財政健全化法によって自治体の事業と人員を中心に歳出抑制が強化される一方、1742の市区町村の経常収支比率(一般財源に対する必ず支出しなければならない経費の割合。100%に近いほど財政にゆとりがない)は90%を超過し、実質公債比率の平均値は9・2%に上っており、財政状況を理由に介護保険料あって介護なし≠フ状態となることが危惧される。
「健康・医療戦略」(2013年6月、閣議決定)では、疾病予防、疾病と関わる生活支援(家事代行サービス、高齢者向け住宅等)を担う産業を創出する方針であり、生活支援サービスは、専門職のヘルパーから、ボランティア・NPO、企業へ移行するとしている。病院やサービス付き高齢者向け住宅などを投資運用の対象とするヘルスケアREITも拡大する計画である。一方で、特養待機者52万人のうち、17万人以上に上る要介護1〜2の人を、原則として入所の対象外にしようとしている。必要なケアを受けられずに重症化する高齢者を増やし、重度の待機者を増やす悪循環となる。
介護保険への公費の追加投入を行い、利用料の2割への引き上げ(所得160万円以上)と「補足給付」への資産要件の追加は撤回し、保険給付としての訪問介護と通所介護を充実させる。
特養の抜本的な増設を行うとともに、特養以外の多様な介護基盤の整備や在宅介護の充実を本格的に展開する。
介護療養病床の2018年度廃止を撤回し、長期に療養できる病床を確保すべきである。地域包括ケアシステムは、国の責任で公的な施策として財政と人材配置に責任を負う事業として実施する。
地域包括支援センターは、医療機関・介護事業所や住民福祉活動のコーディネーター機能を発揮できるようにするとともに、地域の公的な拠点としての医療・介護・住まい・福祉・保健等のセンターの創設も検討されるべきである。
医療・介護を担うマンパワーの質と量を抜本的に引き上げるために、医療・介護従事者の専門性を重視し、その確保と処遇改善、就労環境の整備について国が責任を持ち、その実施は自治体が担うことが必要である。

以上