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医療・介護総合法…医療費抑制 都道府県にやらせる

(「全国保険医新聞」2014年9月5日号)

 6月に成立した医療・介護総合法は、病院・施設でも、地域・在宅でも、少ない医療・介護給付と住民の「自助と互助」の組み合わせでカバーする安上がりな∴纓テ・介護体制作りを目指している。政府の病床再編計画は、地域の4つの病床区分ごとに基準病床数=必要量が決められることになる。必要量を超えている病床は削減し、過小な病床へ移行させ、全体の病床を43万床抑制しようとしている。政府の医療制度改革の柱が、提供体制再編と一体で、都道府県を医療費抑制に駆り立てることである。内容と影響について解説する。

国保財政運営を都道府県へ
 都道府県を医療費抑制に駆り立てる仕掛けの第一は、国保の都道府県化だ。政府は、国民健康保険の財政運営の責任を、2017年度末までに市町村から都道府県へ移す計画である。
 都道府県に国保財政と給付、医療提供体制の両方に管理・運営責任を持たせることで、医療費抑制の実効性を高め、国保の給付抑制と一層の保険料引き上げをねらっている。
 厚労省の「国保基盤強化協議会」が8月8日に取りまとめた中間整理(案)では、都道府県と市町村で役割分担していく方針が示された。
 主な役割については、国保の「被保険者の資格管理」「保険給付の決定」「レセプト審査・医療費適正化関連事務」の3項目は、「引き続き検討」することになったが、都道府県が受け持つ方向である。
 市町村は、引き続き「保険料の徴収」「保健事業」「各種届出や申請の受付」を担うことになる。
最大の焦点とされている「保険料の算定・賦課」については、「分賦金方式」を導入することで合意した。分賦金方式とは、@都道府県は県内の医療給付費等の見込みを立て、それに見合う保険料の収納必要額を算出する、Aその必要額を各市町村に割り振って、市町村が県に納める額(分賦金)を決めるという仕組みだ。
 市町村は、分賦金を賄うために必要となる保険料率を定め、保険料を被保険者から徴収して、県に上納する。保険料の収納率目標が下回り、県に納める額(分賦金)が不足する部分は、市町村が一般会計から繰り入れて賄うことになる。  
 都道府県移行によって、県は市町村との協議を通じて、保険料の市町村間格差を高い方にならしていくので保険料は引き上がる。都道府県全体で保険料算定方式を統一し、統一保険料になれば、保険料は一層高騰する。
 都道府県が国保の財政運営に責任を持つというが、分賦金方式の導入では、市町村に対する上納額を決めるだけにすぎず、国保の財政問題の解決にはつながらない。
 国の公的責任が、地方自治体に転嫁され、国保事業の後退を招き、地域間格差が一層拡大することが懸念される。

医療ビッグデータを利用…支出目標で頭抑える
 都道府県を医療費抑制に駆り立てる第二の仕掛けが、医療ビッグデータを利用して、新たな医療費抑制策や病床削減計画を進めることだ。
 政府は2025年までに医療・介護費を計5兆円抑制する方針を掲げ、医療費の低い地域を「標準集団」と位置づけ、都道府県が支出目標を決める。
 医療費の支出目標設定に当たっては、レセプト情報・特定健診等情報データを医療ビッグデータとして利用し、「妥当な医療費」を算出するとしている。
 国は目標を超えた都道府県に対し、将来的にはペナルティを設ける方向だが、都道府県別に医療費の上限を決めて抑制すれば、患者にとって必要な医療を受けられない事態を招くことになりかねない。

医療機関経営に手を突っ込む
 都道府県を医療費抑制に駆り立てる第三の仕掛けは、安上がりな∴纓テ・介護体制作りを目指して、地域の医療法人(医療機関)と社会福祉法人(介護施設)を経営統合し、グループ化する「非営利ホールディングカンパニー型法人(HD型法人)」の創設だ。
 都道府県ごとに1つか2つの大規模事業体をつくり、地域で独占的に医療・介護サービスを供給していくことが狙いだ。

営利産業化で命はカネ次第
 都道府県を軸にした新たな医療費抑制と一体で、「公的保険外サービスの活性化」(骨太方針2014)を図る計画だ。
 「個人の健康管理、疾病の予防等の自助努力が喚起される仕組み」(社会保障プログラム法)を具体化するものである。
 日本再興戦略2014では、保険者は予防・健康増進に積極的な加入者に対して、@ヘルスケアポイント付与や現金給付を行う、A財政中立な形で各被保険者の保険料に差を設ける(積極的に取り組んだ人の保険料を軽減し、無関心な人の保険料は引き上げる)ことを検討するとしている。
 さらに、「患者申出療養」制度を新設し、混合診療の拡大と医療の営利産業化を進める計画である。
 公的保険外の医療が拡大し、公的給付範囲が縮小する。命は財力次第≠ノなることが懸念される。国民皆保険の本質である「必要な医療が公的保険で受けられる」ことを守り、充実させていく声を待合室から、地域から広げていくことが求められている。

以上