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シリーズ 患者申出療養A

申出療養は患者のためになるのか

(「全国保険医新聞」2014年9月25日号)

 患者申出療養について、規制改革会議の答申(2014年6月13日)では「保険診療にかかる経済的負担が治療の妨げにならないように、治療の選択肢を拡大する」としている。本当に患者の経済的負担が軽減し、治療の選択肢が拡大するのか。

高額化する自費負担
 厚労省の先進医療の実績報告(2013年度)では、先進医療(自己負担)の額は5年間で倍増しているのに対し、保険外併用療養費(保険診療分)は逆に減少している。
 抗がん剤などの未承認薬が使いやすくなるとの報道もあるが、国立がんセンターの調査によると、薬代は非常に高額なケースが多い。患者申出療養で保険診療分の患者負担は軽減されたとしても、先進医療の高額な費用を負担できる人は限られてしまうことに変わりはない。
 医療保険財源の視点からみても、本来は全額自己負担の自由診療に公的医療費が使われることになり、高額な自由診療を利用できる一部の人のために、多くの患者・国民が支払っている保険料や税金が充当されることとなる。

メーカーの開発着手の遅れ
 患者申出療養創設で、国内未承認医薬品等を迅速に保険外併用療養として使用できるようにするとしているが、未承認薬のドラッグ・ラグの主な要因は、短縮されている薬事法の承認ラグではなく、製薬メーカーによる開発(申請)ラグにある。実際、この5年間で開発ラグは1年以上も伸びている。この課題の解消が優先されるべきではないか。

患者から反対・懸念の声
 政府は、制度案の取りまとめにあたって、安全性、有効性を国が確認し保険収載に向けた制度とすることで患者の声を反映するので患者団体への個別のヒアリングは実施しなかったと述べている(6月27日牧山ひろえ参議院議員の質問主意書に対する政府答弁書)。
 しかし、「卵巣がん体験者の会スマイリー」代表の片木美穂氏は「この制度では、医療知識の乏しい患者に、副作用などのリスクを自己責任で追わせることになる」と述べ、悪性リンパ腫の患者会「グループ・ネクサス・ジャパン」の天野慎介代表は「治療薬の保険収載をきちんと担保すべき」と述べるなど、患者団体からの反対や懸念は消えていない。
 この状況は、規制改革会議の岡素之議長が「救い切れない患者を救う」と強調する中で、記者から「制度を求める患者の姿や声が見えない」、「新制度創設の理由が薄弱」(4月23日記者会見)との厳しい指摘が出されていたことを裏付けるものともいえる。
 安全性、有効性の確認は国が行い、速やかに保険導入して欲しいとの患者の願いに逆行する患者申出療養は創設すべきではない。

以上