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社会保障・税共通番号制度の問題点…連載第1回
導入費用に見合う効果あるか

(『全国保険医新聞』2011年9月5日号より転載)

弁護士 坂本 団(さかもとまどか)
1990年司法試験合格。91年京都大学卒。93年大阪弁護士会登録。現在、日弁連情報問題委員会副委員長、大阪弁護士会情報問題委員会委員長。大阪大学法科大学院非常勤講師。住基ネット差止め関西訴訟弁護団事務局長。

 


  今秋の臨時国会にも提出が予定されている「共通番号制度」。保団連は、社会保障給付の抑制につながるとして反対している。同制度の問題点は何か。本号より、坂本団弁護士に解説してもらった。

番号制度とは

  6月30日、政府は「社会保障・税番号大綱」を公表した。今年秋の国会にも法案を提出し、2015年1月以降、社会保障分野、税務分野で番号の利用を開始するとしている。
  「大綱」によると、この番号制度は、全国民に「番号」を付け、これを活用して所得等の情報を把握し、それらの情報を社会保障や税の分野で効果的に活用すること、効率的かつ安全に情報連携を行える仕組み(情報連携基盤)を整備することを目的とするとされている。
  番号制度を活用することにより、所得情報の正確性を向上させることができ、社会保障制度や税制において、国民一人ひとりの所得・自己負担等の状況に応じたよりきめ細やかな制度設計が可能となり、また、真に手を差し伸べるべき者に対する社会保障の充実や、負担・分担の公正性の確保等が実現できるとされている。
  本当だろうか。 

番号制度でも所得の把握には限界がある

  番号制度を導入すれば、自営業者等の所得が漏れなく把握され、脱税がなくなる、というような議論も見受けられるが、そんなことはない。「大綱」も「全ての取引や所得を把握し、不正申告や不正受給をゼロにすることなどは非現実的であり、また、『番号』を利用しても事業所得や海外資産・取引情報の把握には限界があることについて、国民の理解を得ていく必要がある」としている。
  「番号」で所得を把握するのは、次のような仕組みだ。すなわち、@各種取引の際に、「番号」を取引相手に告知する、A取引相手が税務当局に提出する資料情報(法定調書)と、B納税者が税務当局に提出する納税申告書に、それぞれ「番号」を記載することを義務付ける、C税務当局は、納税申告書の情報と法定調書の情報を同じ「番号」で名寄せし、D突合する、という仕組みである。
  したがって例えば、海外の取引は把握できない。海外の取引相手が、日本の税務当局に対して「番号」を記載した法定調書を提出することは期待できない。
  また、一般消費者相手の小売業・サービス業などの売り上げの把握にも限界がある。私たち一般の消費者が、誰から、いくらで、何を買ったかなど、業者の「番号」とともに漏れなく正確に申告するだろうか。
  「大綱」もそれは認めた上で、「完全には実現できないにしても<CODE NUMTYPE=SG NUM=52DD>一定の改善には大きな意義がある」のだと言う。しかし、今よりましになるというだけで意義があるというのはおかしい。多額の費用(構築だけで6000億円ともいわれる)と多大な手間(番号の告知や税務当局への法定調書の提出など)を押し付けて、それに見合うだけの効果があるのか、きちんと示すべきである。
(つづく)