社会保障・税共通番号制度の問題点…連載第2回
番号制度では公平・公正な税制は実現できない
(『全国保険医新聞』2011年9月15日号より転載)
弁護士 坂本 団(さかもとまどか)
1990年司法試験合格。91年京都大学卒。93年大阪弁護士会登録。現在、日弁連情報問題委員会副委員長、大阪弁護士会情報問題委員会委員長。大阪大学法科大学院非常勤講師。住基ネット差止め関西訴訟弁護団事務局長。
今秋の臨時国会にも提出が予定されている「共通番号制度」。保団連は、社会保障給付の抑制につながるとして反対している。同制度の問題点は何か。前回に続き、坂本団弁護士に解説してもらった。
政府が6月30日に公表した「社会保障・税番号大綱」では、番号制度で公平・公正な税制を実現することができる、とも言われている。
しかし、公平・公正な税制を実現するためには、まず、今の税制のどの辺りが不公平・不公正なのかを明らかにする必要がある。
この点、いわゆる「クロヨン」(注)という言い方で、自営業者等による不正申告がまん延しているかのように言われることがある。
しかし、そもそもそのような実態は実証されてはいない。「大綱」も、「番号」制度でクロヨンを解消する、とは一言も言っていない。
まず問題にされるべきなのは、高額所得者に対する過度の優遇であろう。国税庁が公表している「申告納税者の申告所得に対する所得税負担率(平成19年)」という資料によると、一定の所得までは所得が上がるにつれて負担率も右肩上がりに上がるが、そのピークは所得が1億円の層で、これを超えると、所得が増えるにつれて逆に負担率は急激に下がっていることが分かる。
所得が多いほど税率も上がる累進課税が採用されているにもかかわらず、所得が1億円を超えるような超高額所得者になると、逆に所得が増えれば増えるほど税負担率が下がってしまうのである。これは明らかに「不公平」であろう。
このような事態が生じるのは、近年、最高税率の引き下げや金融所得の源泉分離・低率課税などの高額所得者に対する優遇税制改革が進められてきたからである。
したがって、この「不公平」を正すためには、これらの優遇税制を見直す方向での税制改革を行うという方法によるしかない。番号など使う必要はまったくないし、番号を使ったとしても、優遇税制をそのままにしていたのでは、この「不公平」はまったく解消されない。
また、高額所得者の中には、海外で投資をするなどして利益を上げている者もいるが、「番号」で捕捉できるのは日本国内の取引だけである。この点でも「番号」は、「不公平」の解消につながらない。
むしろ「大綱」は、「従来、番号制度は、ともすれば高額所得者に対する所得の補足といった観点から議論されることが多かったが、今回導入する番号制度は、主として給付のための『番号』として制度設計することとされている」としており、高額所得者に対する過度の優遇という不公平を是正する気がないことを述べている。
番号制度では公平・公正な税制は実現できない。
(つづく)
(注)「クロヨン」
課税対象である所得のうち、税務署が把握している割合が、給与所得者では9割、個人事業者では6割、農民では4割と、格差があることを示す言葉として用いられる。