共通番号制の問題点D…番号制度は費用対効果を度外視
弁護士 坂本 団(さかもと まどか)
(「全国保険医新聞」2011年10月15日号)
番号制度は大規模なシステムです。厳しい財政事情の中、多額の税金を使って新たなシステムを作ろうというのですから、本来であれば、「番号」制度による便益を試算し、これがシステムの構築や運用にかかる費用を上回る、と言えて初めて導入を決定する、という順番でなければならないでしょう。
かつて政府は、番号制度構築のための初期費用として最大で6000億円を超える費用が必要という試算をしていました。また番号制度により年間数千億円のコスト削減効果が見込める、としていました。この試算は、運用にかかる費用や民間側のシステム開発費用、不正使用・漏洩対策に要するコスト等を無視していますし、コスト削減効果を過大に評価しているという問題もありますが、一応の試算は示していました。
ところが今や政府は、費用と便益に関する試算を示そうともしません。「社会保障・税番号大綱」でも「(番号制度導入には)相応のコストが発生せざるを得ない。我が国の厳しい財政事情を踏まえれば、番号制度の導入に伴う国および地方公共団体の各種事務の一層の行政効率化により、より大きなコスト削減効果の実現を図らなければならない」と精神論が述べられているだけです。
費用を上回る便益があるかどうか、試算することすらせずに、構築だけで数千億円以上もの巨額の費用が必要なシステムが導入されようとしているのです。
世界の動き
「大綱」は「…番号制度は、既に諸外国の多くで導入されているものである」として、スウェーデン、韓国、アメリカ、オーストリア、ドイツの例を挙げています。そして「我が国では、未だ番号制度がない…」ので、今回導入する、としています。
しかし、ドイツは近年納税者番号を導入しましたが、他分野での利用や情報連携には慎重です。ナチスや旧東独の秘密警察の経験から、国家権力が個人を管理することに対して極めて慎重なのです。そのドイツを「番号制度の国」と言うのであれば、日本もすでに立派な「番号制度の国」です。住基ネットにより全国民には既に11桁の番号(住基コード)が付番されています。基礎年金番号などほかにもたくさんの番号がついています。
一口に「番号制度」といっても、その内容は国によってさまざまです。それぞれの国の内情や歴史的経緯、近隣諸国との関係、プライバシー保護に関する問題意識などの影響を強く受けています。他国が導入しているから、というだけで、国情がまったく異なる他国の制度をつまみ食い的に導入してもうまくいくはずがありません。
番号はあくまで道具です。日本の税制、社会保障制度をどうするのかをまず確定し、そのためにはどの範囲で個人情報を名寄せする必要があるのかを具体的に検討し、その手段として番号を使うことが必要かつ合理的かを検討する、のでなければなりません。 (了)
*日弁連情報問題委員会副委員長、大阪弁護士会情報問題委員会委員長