○提言1 第三期事業計画は、利用者・事業者の声に基づき作成を
@第三期介護保険事業計画は、厚生労働省の施設整備等の数値目標に合わせるのではなく、地域における高齢者と事業者の実態に基づいたものとし、策定にあたっては住民・利用者・事業者の意見を十分に反映させる仕組みを設けること。「市町村整備(交付金)計画」を公表すること。
A「地域介護・福祉空間整備等交付金」による国の交付金にとどまらず、自治体による積極的な財政保障をおこない、在宅・施設の必要な基盤サービスの整備をすすめること。
B介護保険料は、これ以上の引き上げをおこなわないこと。また、所得に応じた負担とし、定率制をめざすこと。減免制度を拡充すること。
厚生労働省は、地域支援事業と新予防給付によって、要介護者を縮減する目標数値を押しつけています。しかし、これは介護予防の効果が実証されていない中ではじき出された「霞が関官僚の皮算用」でしかありません。また、施設・居住系サービス利用者を1割カットする介護施設整備計画も、特養ホーム待機者34万人という深刻な実態を見ないものです。
第三期事業計画は、厚生労働省の施設整備等の数値目標に合わせるのではなく、地域における高齢者と事業者の実態に基づいたものにしなければなりません。そのためには、住民・利用者・事業者の代表が計画策定に参画するなど、利用者・事業者の意見を反映させる仕組みを設ける必要があります。
第二期事業計画(現在)の介護保険料は平均3300円ですが、厚生労働省は第三期では平均4300円(30%アップ)になるとの推計を出しています。さらに第四期(2009年〜)は平均5100円、第五期(2012年〜)は平均6000円になるという試算も示されています。
高齢者世帯の60%以上は年収300万円以下であり、現在の保険料水準でもたいへん重い負担となっています。さらに2004年以降の税制改革で老年者控除の廃止や年金控除の縮小がおこなわれ、収入は変わらないのに税・保険料などの負担は増大しています。
多くの高齢者の生活実態からすれば、これ以上の保険料引き上げはもう限界を超えるものといわざるをえません。
○提言2 新予防給付は見切り発車せず、十分な検討・準備期間を
@新予防給付は十分な検討・準備をおこない、体制が整うまでは実施しないこと。
A介護予防効果の十分な検証を自治体独自でおこなうこと。
B新予防給付を実施する場合、運動機能の向上、口腔機能の向上、栄養改善については、医師・歯科医師等から運動処方せんや指示書等の交付を受けるようにすること。
C軽度者への介護サービスについては、必要なサービスはひきつづき現行水準で受けられるようにし、筋力トレーニングなど予防給付メニューは本人が希望しない場合はケアプランに含めないこと。
厚生労働省は、市町村での介護予防事業の実施について、準備が整わない場合は2年間の猶予措置を認めています。新予防給付は2006年4月に無理に間に合わそうとせず、社会福祉士、主任ケアマネジャー、保健師等の必要な人員配置を満たすなど十分な体制が整うまでは実施すべきではありません。
準備が整わない場合は、新予防給付、要介護認定(要支援1、要支援2の認定)等はおこなう必要がなく、利用者は、従来どおり「予防給付」「介護給付」の給付を受けることができます。
新予防給付の予防効果については、すでに実施された市町村モデル事業の結果を見てもその有効性がほとんど検証されていません。自治体独自でモデル事業をおこない、地域全体の予防効果を検証する必要があります。また、新予防給付を介護サービス抑制の手段とさせない運用をするためにも、利用者と事業者の実態に合ったシステムを時間をかけて構築すべきです。
○提言3 日常生活圏域は視野の届く範囲に
@日常生活圏域は、高齢者の日常の活動範囲をもとに利用者・家族の視野の届く範囲に設定すること。
A地域支援センターは少なくとも中学校区単位に、日常生活圏域(地域密着型サービスの整備単位)は少なくとも小学校区単位に設定すること。
日常生活圏域は、地域密着型サービスの整備単位となり、地域包括支援センター設置の目安となるものであり、また、事業者のネットワークや福祉のまちづくりの基本となる単位です。行政が一方的に線引きをして設定するのではなく、住民参加、利用者・事業者参加で決めることが大切です。
○提言4 地域支援事業の財源は公費で
@地域支援事業の財源は公費を基本とし、保険料からの支出は極力しないこと。
A任意事業である「その他の地域支援事業」は、保険料ではなく公費で実施し、施策の拡充をはかること。
B地域支援事業については、利用者から利用料の徴収をしないこと。
C地域支援事業の事業内容及び性格に鑑み、利用にあたっては介護保険料の滞納者を排除しない扱いとすること。
D地域包括支援センターに社会福祉士が配置できない場合は、権利擁護事業等の社会福祉士が担当すべき事業については、地域支援事業ではなく、市町村の福祉事業として公費で行うこと。
地域支援事業は、従来の「老人保険事業」「介護予防・地域支えあい事業」「在宅介護支援センター運営事業」の三つを再編して創設されるものです。財源は、これまで公費でおこなわれていたものを、介護保険給付費の3%を使って、地域の高齢者人口の5%を対象に事業を推進するとしています。これらの事業はどれをみても保険制度になじまないものばかりで、財源に保険料をつぎ込むべきではありません。また、保険料滞納者が利用から排除されるようなことがあってはなりません。
市町村の任意事業とされた介護虐待・介護放棄の早期発見、介護予防方法の指導・介護者支援などは、まさに自治体が公的責任を負う事業内容です。
また、「市町村は利用料を徴収できる」としていますが、とんでもないことです。現在これらが公的責任でどのようにすすめているのか、また今後仕組みが変更される場合にどういう問題を発生させるのか等をきちんとしておく必要があり、公的責任を明確にさせ拡充をはかるべきです。
○提言5 地域包括支援センターは自治体直営を基本に
@地域包括支援センターは、自治体直営で運営することを基本とすること。直営でも運営協議会を設けること。
A委託する場合は、(1)既存の在宅介護支援センターの役割を再評価し、その機能を高めて地域包括支援センターに移行させること、(2)運営協議会を母体とするNPOなどを新たに設置して「共同受託」とすること。
地域包括支援センターの機能は、前述のように、どれをとっても自治体が公的責任を果たさなければならないものであり、自治体が直営で役割を果たしていく必要があります。
また、委託する場合でも、公正・中立性が確保され、地域包括支援センターにふさわしい機能を満たした法人(在介C)に委託すべきです。その際は、運営協議会を母体とするNPOなどを新たに設置して共同受託とするなど、公共性を持たせることが必要です。また、運営協議会には、当該地域の事業者がすべて参加でき、利用者・住民・事業者の声が十分に反映できる仕組みがつくられるべきです。委託料についても、公的責任を担保するだけの水準が保障されるべきです。
新予防給付を実施する時点では、新予防給付プランの作成については、従来の事業所のケアマネジャーに委託することを原則とし、実際に利用者と接しているケアマネジャーの判断とプランを最大限尊重し、一方的な管理はおこなわない運営にすべきです。
○提言6 地域密着型サービスの基準の充実を
@認知症グループホーム等の地域密着型サービスの運営基準・介護報酬基準は、国基準を最低基準とすること。
地域密着型サービスには、今後増加が見込まれる認知症高齢者に対する通所介護やグループホーム、夜間対応型通所介護、小規模多機能型居宅介護など重要なサービスが組み入れられます。
サービスを提供する事業所の運営基準(従事者・設備・運営の基準)や介護報酬の基準は市町村長が定めてよいとしています。高齢者が住み慣れた地域で尊厳を守られて生活するためには、国の運営基準・介護報酬基準を最低基準とし、市町村の責任でサービスの充実をはかる必要があります。
○提言7 実効ある利用料軽減措置を
@利用者の負担軽減をはかるために、市町村独自の減免制度を設けること。また、月1万円の介護手当など実効ある軽減措置を講じること。
A居住費、食費の自己負担を軽減するため、市町村独自の減免制度を設けること。社会福祉法人減免制度の一般化を公費負担でおこなうこと。
B食費・居住費に関しては、入所者の実態や具体的な影響を把握し、制度の周知については自治体の責任で行うこと。
C低所得者に対する負担軽減にあたっては、申請の負担軽減を図るため、初回のみの申請でよいものとし、その際に領収証の添付は不要とすること。
食費・居住費の自己負担化と、訪問介護の経過措置が切れたことにより、サービス利用者の負担は大幅に増え、サービス利用の抑制がいっそうすすむことが危惧されます。
厚生労働省は、特定入所者サービス制度(申請主義)をつくって低所得者対策をおこなうとしていますが、訪問・通所系サービスには何の負担軽減もありません。わずかに社会福祉法人が実施するサービス(特養、短期入所、通所介護、訪問介護)利用者で低所得の人を半額減免する制度の拡充(非課税で年金150万円以下)を口にしているだけです。サービス提供主体によって減免がおこなわれるなど不公平極まりない制度です。
社会福祉法人の一部のサービスのみの減免措置をすべての事業者の全サービスを対象とするよう拡大し、それに必要な財源を公費で負担する仕組みとし、低所得者がどこの事業所でも、どのサービスでも減免措置が受けられる仕組みをつくるべきです。
○提言8 介護予防は多面的で豊かな施策展開を
@介護予防は、敬老パスやいきいきサロンなど多面的な施策展開を一般財源でおこなうこと。
厚生労働省は、要介護・要支援となるおそれのある高齢者(全体の5%)に地域支援事業をおこない、その20%の要介護・要支援化を防止するとしています。あまりにも狭く、機械的な介護予防です。高齢者が地域でいきいきと生活し、要介護状態とならないようにするためには、敬老パスなどの外出支援や、いきいきサロン、ミニデイなどの集まりの場への援助をはじめさまざまなとりくみが重要です。転倒予防や認知症予防などのメニューはその一つとして位置づけられるべきです。介護予防はそうした多面的で豊かな施策展開を一般財源でおこなうべきです。
○提言9 介護サービスに関する苦情窓口を市町村に設置を
@保険給付に関する不服審査機関(介護保険審査会)、サービス利用全体にかかる苦情処理機関を市町村に設置すること。
現在、保険給付に関する不服審査機関(介護保険審査会)、サービス利用全体にかかる苦情処理機関がありますが、介護保険法では都道府県での設置を規定しているだけです。
介護サービスに関する住民からの苦情を受け付け、解決をはかることは、本来実施主体である市町村が担当すべき課題です。これらの窓口を市町村に設置する必要があります。
○提言10 良質な介護のために介護労働者の雇用・労働条件の改善を
@介護労働者の処遇が適正におこなわれるよう、関係機関と連携して必要な対策をおこなうこと。
A介護事業所の情報開示に掲載された介護労働者の労働条件等の項目については、自治体による指導の対象とすること。
Bホームヘルパーなど介護労働者の養成・研修に対し自治体による助成をおこなうこと。
厚生労働省は、2004年8月27日に「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」という、訪問介護労働者が適正な労働条件のもとで就労されるよう是正を促す趣旨の通知を発しました。しかし、現在でも訪問介護労働者の多くは劣悪な処遇下にあり、雇用契約すらない場合も見られます。管轄の労働基準監督署や都道府県労働局と協力・連携して、各介護事業所に対する講習をおこなうなど、自治体として必要な施策を講じるべきです。
また、「情報開示の標準化」としておこなわれる介護事業所の情報開示の中で掲載される介護労働者の労働条件等の項目については、自治体による指導の対象とし、一年おきに実施するようにすべきです。