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【政策解説】医療保険制度改革1
国民皆保険は名ばかりに─医療保険制度改革の骨子

(全国保険医新聞2015年1月25日号より)

 

 厚生労働省は 1月9日、社会保障審議会医療保険部会に医療保険制度改革の骨子案を示した。「『自然増』も含めて聖域なく見直し、徹底的に効率化・適正化していく」(骨太方針2014)に沿って、給付減・負担増計画を打ち出している。政府は13日の社会保障制度改革推進本部で骨子を決定。26日召集の通常国会に関連法案を提出する方針だ。保団連は9日、「給付減・負担増計画を撤回し、国民皆保険の充実を求める」との三浦清春政策部長談話を発表している。骨子の問題点を解説した。

全ての世代で負担増

 医療保険制度改革骨子には、「負担の公平化」の名で、給付減や負担増メニューが並んでいる(表)。医療保険部会では、「結論ありきの進め方だ」との意見が出された。

 在宅医療との公平性を理由にした入院時の食事代の自己負担引き上げは、1食260円から2倍近い460円に引き上げる方針だ。2016年度、18年度の2回に分けて100円ずつ引き上げる(図)。


 紹介状なしで「特定機能病院及び500床以上の病院を受診する場合」に、1〜3割負担とは別に定額負担を導入する。現行の「選定療養」の仕組みにより「5000円〜1万円」の定額負担を義務化。負担額や対象病院の規模などの詳細は今後、中医協で議論して決定、療養担当規則などで定める。
 75歳以上の高齢者865万人の保険料は大幅に引き上げる。低所得者に対する保険料の「特例軽減」を2017年度から廃止する計画で、2倍から10倍もの負担増を強いられる。
 全ての世代に負担増を押しつける計画だが、個人の健康や疾病には社会的・経済的要因も大きく影響する。経済的理由で"患者になれない病人"が増加しているのに負担増を強行するならば、重症化が進み、医療費はかえって増大することが懸念される。

自己責任の混合診療を導入

 現在の保険外併用療養費制度の中に、「患者申出療養(仮称)」を創設し、患者の自己責任による混合診療を2016年度から実施する。
 現行の「先進医療」と同等の有効性・安全性を確保するとされているが、先進医療の対象外の患者や、先進医療で実施されていない療養なども対象とされている。安全性・有効性が未確立なまま実施されている自由診療や、なんらかの理由で先進医療として実施できない臨床研究まで、混合診療を拡大し、医療保険の財源が流用されることになる。患者の安全性や医療の倫理性が蹂躙されることが危惧される。

都道府県に責任押し付け医療費抑制

 医療介護総合法に基づく供給体制再編計画、医療費適正化計画、国保見直しを軸にした新たな医療費抑制策が盛り込まれた。都道府県にその責任を押し付けるものとなっており、必要な医療の提供が制限されることが懸念される。
 医療費適正化計画の見直しでは、都道府県単位で医療費水準の目標、医療の効率的な提供の目標を設定することを法定化する。都道府県に医療費の支出目標を新たに設定させることで、医療介護総合法の地域医療ビジョンによる病床再編・削減、国保運営の都道府県化とリンクさせて医療費抑制に駆り立てようとしている。医療保険部会では、「目標として設定し、都道府県に結果責任を負わされても責任は持てない」「都道府県を拘束する懸念がある」として反対する意見が出されている。

「自助努力」の強調で皆保険崩す

 「社会保障プログラム法」に基づき、保険者が加入者の予防・健康づくりの「自助努力」に応じて「保険料への支援」を実施できることが盛り込まれた。医療保険部会の資料では、医療機関を一定期間、受診しなかった加入者を対象に、現金給付などを行うとの考えが示されている。財政的な増減を生じさせない仕組みとされており、健康づくりを怠り、疾病リスクが高くなった加入者の保険料は増額される方向だ。
 予防・健康づくりの取り組みを客観的に判断できるのか極めて疑問である。保険料は所得に応じて、保険給付は平等にという国民皆保険の原則を崩すことは認められない。

 「今後さらに検討を進めるべき事項」として、@患者負担、A保険給付の範囲、B医療費適正化に関する施策を挙げている。「社会保障・税一体改革」路線のもとで、さらなる給付減・負担増の道筋をつけようとするもので、国民皆保険の崩壊につながりかねない。「必要な医療が公的保険で受けられる」という国民皆保険の本質を守り、充実させる改革に向けて、広く国民的な議論と合意形成を進めるべきである。

以上