【政策解説】負担増のオンパレード
―医療保険制度改革関連法案とは@―
(全国保険医新聞2015年3月15日号より)
政府は3月3日、国民健康保険法、健康保険法、高齢者医療確保法などを一括した医療保険制度改革関連法案を閣議決定した。同法案には社会保障プログラム法に基づき、国保の都道府県化、保険給付の縮小と患者負担増、医療費抑制策の強化などのメニューが盛り込まれている。内容を順に解説する。今回は保険給付の削減と負担増である。
◆入院時食事代は2倍近くに
入院時食事代の自己負担は、入院医療と在宅医療との負担の公平の名目で、現行の1食260円から2倍近い460円に引き上げる。2016年度と18年度に100円ずつ引き上げる方針だ(図1)。低所得の人や難病患者は据え置く。厚労省は、食事の調理費相当額を負担させると説明しているが、1日3食として600円の引き上げ。1カ月(30日)入院すれば2万3,400円から4万1,400円へ跳ね上がる(図2)。しかも患者負担を軽減する仕組みである高額療養費制度は適用されない。
入院時の食事は医療の一環
管理栄養士や栄養士の指導のもとで提供される入院中の食事と、在宅での食事を比較することはできない。入院中は患者一人一人の症状や体質などを踏まえて食事の提供や栄養管理が行われる。栄養管理は全身の状態を整え、治療効果を向上させ、症状の重症化を抑えるなど、医療の一環だ。この間平均在院日数が短縮される一方で「治癒」率が半減しているが、負担増によってさらに短縮しようとしている。入院と在宅の公平を言うなら、在宅でも入院並みの栄養指導が受けられるような体制を作るべきだ。
図1 入院時食事療養費等の見直し 図2 入院中の患者の食事代の引き上げ案
(1食あたりの負担額。一般所得の場合)
◆紹介状なし大病院受診が最大1万円
紹介状なしで大病院を受診する患者から、窓口負担に追加して5,000円から1万円の定額負担を徴収することを義務化する。初診時は救急の場合を除いて、再診時は病院側から別な医療機関を紹介する申し出があったにもかかわらず再度受診した場合に、それぞれ定額負担の徴収を義務づける。
対象となる大病院は、特定機能病院(全国83病院)のほか、入院ベッドが500床以上の大病院(全国450病院)が示されているが、200床以上の大病院(全国2,656病院、全体の31%)にまで対象が広がる可能性もある。
経済力により受診できる医療機関に差
今でも入院ベッドが200床以上の大病院では、初診や再診のときに 窓口負担に上乗せして、「特別の料金」を徴収することができる。保険外併用療養の制度にある保険導入を前提としない選定療養(10種類)の仕組みの一つだ。厚労省の最新の報告では、「特別の料金」は初診で平均2,130円、再診で平均1,006円。金額の設定や徴収するかどうかは病院の判断に任されており、負担を義務づけていない。
法案では、選定療養の仕組みを用いて、定額負担を義務化するとされているが(図3)、任意のものである選定療養を義務化することは重大問題だ。
厚労省は、大病院の外来へ通院する患者を、診療所や中小病院へ移していくことを理由に挙げているが、地域によっては個人の病状に対応する診療科が身近になく、大病院に行かざるを得ないところもある。最大1万円払いさえすれば大病院に自由にかかることができるということは、受診できる医療機関が個人の経済力によって左右されるということだ。
図3 紹介状なしで大病院を受診する場合等の定額負担の導入
◆75歳以上の6割に保険料値上げ
75歳以上の高齢者の保険料軽減は、法律上の軽減に加え、国の予算措置で軽減特例が行われている。低所得者(691万人)と74歳まで被扶養者であった人(174万人)が対象で、保険料の均等割の9割軽減、8.5割軽減と、所得割の5割軽減が実施されている。国は毎年約810 億円を支出しているが、これを17年度から段階的に廃止しようとしている(図4)。75歳以上の高齢者の6割、865万人に保険料値上げを強いる計画だ。
図4 紹介状なしで大病院を受診する場合等の定額負担の導入
◆協会けんぽの国庫補助を見直し
協会けんぽに対する国庫補助率は、健康保険法の本則で16.4%〜20%の範囲内で定める割合とされ、附則の規定で2014年度までは16.4%とされている。法案では、法律上の国庫補助率の下限を13%に引き下げ、附則の規定で16.4%としている。しかも、法定の準備金を超過する残高がある場合は、超過分の一定割合に相当する国庫補助を減額する。協会けんぽの保険料引き上げにつながることが懸念される。
以上