【政策解説】さらなる医療費抑制策
―政府の医療改革を考える―
(全国保険医新聞2015年5月5・15日号より)
患者負担増や都道府県に医療費抑制を推進させる仕組みづくりが盛り込まれた医療保険制度改革関連法案の審議が国会で進んでいるが、政府設置の諸会議ではさらなる医療費抑制計画が検討されている。経済財政諮問会議と規制改革会議の議論から、今後の医療改革の流れを探る。
国保の国庫負担削減が焦点
政府の経済財政諮問会議(議長・安倍晋三首相)は、「医療・介護を中心に社会保障給付について、いわゆる『自然増』も含めて聖域なく見直し、徹底的に効率化・適正化していく必要がある」(「骨太の方針2014」)として、医療費抑制の新たな仕組みづくりの検討を開始した。今夏に策定する「財政健全化計画」に盛り込む方針だ。
4月16日に開かれた同会議で、経団連会長ら4人の民間議員は、@「医療サービス標準化・包括化」によって医療費抑制を「一層推進」する、A「診療報酬による大胆な誘導」で病床再編・削減を「加速する」、B後発医薬品の利用目標60%(2017年度中)の達成、などを財政健全化計画に盛り込むよう求めた。
また、国保の医療給付費の実績に応じた国庫負担(医療給付費の9%、15年度予算ベースで7900億円)について、「最も効率的な保険者群の医療費を基準とした額」に変更し、国保加入者の「受診、投薬等」を抑制することを要請した。
参議院で審議中の医療保険制度改革関連法案では、国保の財政運営を市町村から都道府県に移す計画で、医療費抑制に積極的に取り組み、成果を出した自治体を優遇し、支援金を交付する仕組み(保険者努力支援制度、700〜800億円程度)を創設する。
民間議員の提言は、1人当たりの医療費と国庫負担等について、都道府県の順位付けも行って、医療費の最も低い都道府県に合わせて、それ以外の都道府県の国保の国庫負担を削減するものである。
「医療費の地域差の見える化」として、地域特性を無視した一律のキャップをかけて、自治体を医療費抑制に駆り立てる仕組みづくりが狙われている。。
患者の安全揺るがす薬の保険外しと市販化
一方、規制改革会議(議長・岡素之住友商事(株)相談役)は4月7日、健康・医療ワーキンググループを開催し、@市販品類似薬の保険給付の見直し、AスイッチOTC化(医療用医薬品を一般用医薬品に転用)の促進について、論点の提起が行われた。6月に取りまとめる答申に反映させる方針だ。
市販品類似薬については、健保連による調査結果を踏まえ、「湿布薬に関し保険給付に一定の上限を設ける」として、給付上限を超える部分は患者負担とすることや、サルチル酸メチルなどを主成分とした第一世代湿布薬について保険給付から除外することが示された。湿布薬を突破口に「参照価格制」の導入や、市販品類似薬の保険外しが狙われている。
スイッチOTC化については、「日本再興戦略改訂2014」で「公的保険外サービス産業の活性化」のひとつとして、「米国など海外の事例も参考に」して、新たな仕組みを構築することが閣議決定されている。今回のワーキンググループでは、医療保険者からの意見も反映される仕組をつくることが示された。
消費者庁の発表では、市販薬による副作用症例が昨年3月までの5年間で1225件あり、うち15件の死亡例も報告されている。医療用医薬品の市販薬への転用をさらに進めることは、市販薬市場の拡大を優先し、患者の安全性や副作用の回避を軽視するものである。
社会保障給付費の抑制策
■病床再編(高度急性期から一般急性期や回復期等へ、さらには療養病床から在宅医療・看護へ)を加速するため、診療報酬による大幅な誘導(例えば、7対1病床要件厳格化に加え、同入院基本料や各種加算を引き下げて15対1病床等との収益差を縮小など)
■医療費適正化・効率化を促す一環として、医療サービス標準化・包括化を一層推進
■国保に対する「保険料調整交付金(7900億円)」の配賦額算定基準を医療費実績ではなく、年齢・性差等のみを基準とした額、または最も効率的な保険者群の医療費を基準とした額に変更。保険者機能を強化し、受診、投薬等を適正化
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第4回経済財政諮問会議(2015年4月16日)説明資料から作成
以上