【政策解説】さらなる医療費抑制策4
―政府の医療改革を考える―
(全国保険医新聞2015年6月25日号より)
政府は6月10日、経済財政諮問会議(議長・安倍首相)を開き、「骨太の方針2015」の骨子案を示した。今後5年間の「経済・財政再生計画」を策定し、「歳出改革は聖域なく進める」と明記。社会保障を「重点分野」として、社会保障費の伸びを抑制する姿勢を鮮明にした。財務省は社会保障の伸びを年間5000億円程度に抑え、3000〜5000億円を削減するよう求めていた。2020年に向けて社会保障削減と「産業化」を一体で進める『安倍医療改革』を解説した。
病床削減進まない地域の診療報酬引き下げ
骨子案では、@病床削減など「医療・介護提供体制の適正化」、A診療報酬を引き下げる「改革」、B所得だけでなく資産も踏まえた「公平な負担」、C保険外しを広げる「給付の適正化」、D医療の市場化を進める「公的サービスの産業化」などを盛り込んだ。
経団連の榊原会長ら民間議員が示した「今回の主要論点」では、第1に、「病床再編・削減の手段」として、「進まない地域における診療報酬の引き下げ」や、都道府県の「権限強化」を挙げた。「標準的な外来医療費」を医療費適正化計画へ反映することや、「効果的な医療サービス提供のインセンティブになるよう、窓口負担の仕組みを工夫」することも求めた。
第2に、「保険償還額(薬価)の後発品価格に基づく設定」や、湿布や目薬などの「市販品類似薬の保険除外」など、さらなる患者負担増を挙げた。
第3に、診療報酬を引き下げる「改革」では、「過年度分のデフレ分についての段階的なマイナス調整」を行うことや、「原価算定を基本」とした「個別サービスの単価設定」などを求めた。
第4に、「社会保障サービスの産業化」として、公的保険外の健康産業に、「医療機関(一般医療法人)が本来業務の一部として、関与できるような仕組み」や、薬剤師・看護師等の業務範囲を拡大し、「民間の健康サービスへの関与を拡大する」ことを挙げた。
負担増で重症化のおそれ 国民皆保険が形骸化
厚生労働省の懇談会は9日、中長期的な医療費抑制策を盛り込んだ「保健医療2035提言書」をまとめた。
提言は、医療費抑制の強化策として、第1に、地域ごとに病床数などのサービス目標量を設定し、上回った場合、診療報酬の「減算を行うなど、サービス提供の量に応じて点数を変動させる仕組みを導入」する。
第2に、医療費適正化計画で推計した医療費の伸びを上回った場合、「診療報酬の一部(加算の算定要件の強化など)」を都道府県ごとに設定する。
第3に、都道府県ごとに「地域差是正」へ取り組む。医療費の「一定の地域差分」については、当該地域において負担するという考えを導入。医療費水準が高い都道府県に対しては、財政的な負担を求める―などを打ち出した。
患者負担増では、@カゼなどを「軽度の疾病」として負担を増やすなど、「疾病に応じて負担割合を変える」、A在宅と入院・入所で「異なる」自己負担とする、B「総合的な診療」の「かかりつけ医」に受診時の「費用負担」は、「他の医療機関を受診した場合と比較して差を設ける」、C「一定の自己負担」を設けることで、フリーアクセスを管理する、などを盛り込んだ。
給付と負担に格差を広げ、受診抑制と患者の重症化をさらに深刻化させるだけでなく、地方自治体に医療費抑制を競わせる仕組みを導入するなど、国民皆保険制度の本質である「必要な医療が公的保険で受けられる」ことを形骸化させる内容となっている。
「安倍医療改革」での検討項目 |
外来受診時に通常の窓口負担に定額負担を追加 |
「軽度な疾病」は負担増、疾病に応じた窓口負担 |
75歳以上の窓口負担を1割から2割に |
先発品の保険給付は後発品価格まで。差額は患者負担 |
湿布や目薬など市販品類似薬の保険外し |
在宅と入院で窓口負担に差 |
全ての病床で入院時の居住費を負担 |
病床削減が進まない地域の診療報酬引き下げ |
慢性期病床の報酬・人員配置を老健施設並みに |
標準的な外来医療費を算出。医療費適正化計画に反映 |
診療報酬本体のマイナス改定。サービス単価の大幅抑制 |
高齢者医療確保法14条(都道府県単位の診療報酬設定)の運用 |
受診、投薬が少ない加入者は保険料を軽減 |
以上