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【政策解説】マイナンバーが施行
―地域医療をどう変える@―

(全国保険医新聞2015年10月5日号より)

 

 国内に住む全ての人に12桁の番号が割り振られる「マイナンバー」制度が10月から施行された。来年1月から社会保障と税、災害対策の分野での利用を開始。個人情報をデータベース化して国が一元的に管理・利用する。今通常国会では特定健診や予防接種、預金口座の個人情報を追加するマイナンバー改定法が成立した。また、閣議決定した「日本再興戦略2015」には、マイナンバー制度のインフラを利用して、医療情報を電子データ化し、民間利用していく方針が盛り込まれた。マイナンバー制度が地域医療へどのような影響を及ぼすのか解説した。

特定健診情報も対象

 マイナンバー法で定めていない分野では、マイナンバーを収集・利用することは禁止されている。社会保障分野では、@保険給付の支給、A保険料の徴収に関する事務等、B出産一時金などの現金給付での利用に限定されている。これらの個人情報を同一人物の情報としてひも付けするのがマイナンバーだ。
 医療情報は、病歴や服薬歴、検査データなど機微性の高いプライバシー情報であることから、マイナンバーの利用範囲から除外されていた。
 ところが政府は、マイナンバー法の施行前にもかかわらず、今通常国会にマイナンバーの利用範囲を拡大する法案を提出し、40〜74歳が対象の特定健診情報を利用範囲に追加した。
 政府の説明は、@特定健診情報の管理は保健事業に該当する、A保健事業は保険者が行う行政事務である、B保険者はマイナンバーの利用事務実施者でもある、Cしたがってマイナンバー法の趣旨に合致している、というものである。
 しかし、特定健診情報には服薬歴や血圧、血液検査、尿検査の結果など個人情報が含まれている。これらはまぎれもなく医療に関する情報である。情報漏洩のリスクなど極めて問題が大きい。これを突破口に、医療情報のマイナンバーへのひも付けを進めようという政府の意図は明らかだ。
 マイナンバーを利用した特定健診情報の管理・連携は2016年以降に行われる予定で、18年をめどに、個人が自らの特定健診情報を閲覧、把握し、利用できるようにする計画である。同時に、特定健診の個人データを民間利用できるようにして、例えば、フィットネスクラブに個人データを提供して、運動や健康の指導を受けることも検討している。これによってヘルスケア産業の市場拡大につなげていくねらいである。

負担増に活用される

 マイナンバー改定法によって、行政機関は金融機関にマイナンバーが付された預金情報の提供を求めることができる。国民に対してマイナンバーの告知は義務付けられていないが、金融機関にはマイナンバーで預金口座を管理する義務がある。預金口座の開設時や年金の振込口座にマイナンバーの記入を求めるなどによって、預金口座とマイナンバーのひも付けが進むのではないか。マイナンバーの告知は18年から任意で開始し、21年以降に義務化することも検討されている。
 預金口座とマイナンバーをひも付けることで、国税庁はお金の流れと資産のストックをほぼ完全に捕捉できることになる。いくつかの口座に分割してもマイナンバーで名寄せしてひとくくりにできるからだ。
 預金口座とひも付ける目的はこれだけではない。閣議決定した「骨太方針2015」には、医療保険、介護保険の両制度において、マイナンバーを活用して、預金など「金融資産の保有状況を考慮に入れた仕組みを実施する」ことが盛り込まれた。
 政府が検討しているのは、医療保険の患者負担が3割となる70歳以上の「現役並み所得者」の基準に、所得だけでなく金融資産を追加することだ。介護保険の利用料が2割になる「一定以上所得」の基準にも、所得だけでなく、金融資産を追加するという、高齢者をターゲットにした負担増メニューである。
 政府は「公平な負担」の名目で、患者・利用者の負担増にマイナンバーを活用しようとしている。保険料を払っているのに、金融資産が比較的多いからといって、給付を制限しようという考えは理屈に合わず、国民皆保険の原則に反するのではないか。 

以上