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TPPが医療を壊す―ここが問題

(全国保険医新聞2015年10月15日号より)

 

 TPP交渉が大筋合意した。内閣官房が公表したTPPの概要からは通商分野に留まらない問題があらためて浮き彫りになった。医療を守る上でTPPの問題はどこにあるか―。

【薬価】

■知的財産保護の強化
 医薬品の知的財産保護を強化するために、@市販承認を得られるまでの期間分だけ特許期間を延長する、Aバイオ医薬品の臨床試験データの保護期間を構築する、Bジェネリック申請があると新薬特許を持つ企業に通知され、新薬企業がジェネリック申請企業を訴えると訴訟中は承認を保留させる(特許リンケージ)―以上の制度を導入する方針が示されている。安価なジェネリックの製造・普及が阻まれかねない。

■薬事行政に介入
 医薬品の価格決定に利害関係者の関与を強めることが議論されている。特許切れの新薬の価格を保つ新薬創出加算の恒久化を米国通商代表部が求めてきた例が示唆的だ。

【主権】

 企業や投資家が投資先の国や自治体が行った施策で不利益を被ったと判断した場合、その制度の廃止や損害賠償を相手国に求めることができるISDS条項が盛り込まれた。
 国民皆保険制度をはじめ、国民の生活や環境を守るための制度やルールを自国民が決定することができなくなる。まさに日本の主権の形骸化だ。政府は、TPP交渉参加にあたってISDS条項に合意しないことを公約していた。

【秘密】

 TPP交渉は一貫して秘密交渉として進められてきた。2013年7月に日本が正式に交渉参加した後も政府は守秘義務を理由にして、情報を提供してこなかった。
 また、日本の交渉参加後、保険や知的財産など国内制度に関する協議が日米で進められてきたが、この2国間協議の情報はまったく公表されていない。
 国民は暮らしや仕事、国のあり方さえも変えるような重要な交渉で何が議論され決まったのか、十分な説明を受けていない。

【止めるには…】

 TPP交渉の大筋合意は、何ら最終決定ではない。今後、協定文書の作成と調印、各国での批准手続きなど、さまざまなハードルが存在する。
 TPPの国会承認の前に交渉内容を明らかにさせ、問題を追及することが重要だ。日本が批准しなければ、TPPは発効しない。

いんちき合意§fわされない―アトランタ会合をどう見るか

(アジア太平洋資料センター事務局長 内田聖子)

アジア太平洋資料センター事務局長 内田聖子

 大げさに報道されている「大筋合意」はなんら最終的なものではありません。内容は不確定要素を多く残しています。
 閣僚会合というと12カ国の閣僚がそろってテーブルにつき、議論するというイメージがあるかも知れませんが、6日間を通じて全閣僚がそろったのは3時間ほど。それ以外の時間はひたすら2国間での調整が続きます。TPP交渉は2国間交渉の寄せ集めです。
 大きく報じられたバイオ医薬品のデータ保護期間を8年とする合意も、12年を求めた米国と、医薬品の知的財産権強化に反対して5年を主張してきた小国のリーダー格だった豪州の間で合意したという以上のことはわかりません。マレーシアやチリなどが8年の案で納得するかは未定です。2国間交渉を積み上げていることの矛盾です。
 交渉の現場に赴くたびに感じるのは、TPPは、通商条件や制度の変更という目に見える問題だけが問われているのではないということ。むしろ私たちの価値の問題、命か利潤か≠フ選択が問われているということです。会場周辺では乳がんを患う女性が薬の特許について「8年であっても患者は待っていられない」「新興国の患者を薬から遠ざけてしまう」と訴えました。
 いんちき合意≠ノ惑わされず、情報を公開させ、問題を追及していくことが大切です。

以上