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【政策解説】マイナンバーが施行
―地域医療をどう変えるB―

(全国保険医新聞2015年10月25日号より)

 

 6月に閣議決定した「日本再興戦略改訂2015」には、20年までの5年間に医療等分野の情報連携を「強力に推進」し、「医療・介護・ヘルスケア産業の活性化」につなげていく「5つの取組」が盛り込まれた。マイナンバー制度のインフラを利用して、医療情報を電子データ化し、民間利用を進める計画である。地域医療へどのような影響を及ぼすのか解説した。

医療等情報の一元化狙う

 第一の取り組みは、「マイナンバー制度のインフラを活用し、医療等分野における番号制度」を新たに導入することである。18年から段階的に運用を始め、20年までに本格運用する計画である。
 「医療等番号」を用いて医療等情報を一元化することが目的である。「医療等」の意味は、医療に加え、介護やその他の社会保険サービスの情報を含んでいるからである。直接マイナンバーを利用しないが、マイナンバー制度のインフラは利用するので、「医療等番号」はマイナンバーとシステム上、連動するという仕組みになる。「医療等番号」の具体的な制度設計や、個人情報の取り扱いルールについては、今後、検討の上、今年末までに「一定の結論を得る」としている。
 こうした取り組みに対し、日本医師会の「医療分野等ID導入に関する検討委員会」は15年7月、「マイナンバーをそのまま大規模データベースや医療連携等に用いるのではなく、マイナンバーとは別の医療分野専用の番号もしくは符号である『医療等ID』を創設して利用するべきである」と指摘。個人一人に対して利用目的別(医療・介護連携用の番号、医療保険資格確認の番号など)に複数の「医療等ID」を付番できることや、個人情報保護法の特別法として運用に関する事項を定めることを提言した。厚生労働省も9月30日、医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会」を約9カ月ぶりに開催し、番号を活用した情報連携などについて論点を示した。現在の地域医療ネットワークで患者を識別するために付与している患者IDを引き続き利用することを想定している。

レセプトとカルテをひも付け

 第二の取り組みは、レセプトとカルテを、「医療等番号」を用いてひも付けすることである。このためにはカルテを電子化することが必須となる。すでに、個人のレセプトデータについては匿名処理が施され、国の「ナショナルデータベース」に集積・管理されている。
 電子カルテを導入している病床数400以上の一般病院は11年10月時点で57.3%にとどまっており、政府は20年度までに90%に拡大する目標である。異なる医療機関の電子カルテのデータを標準化し、データの集積と比較分析、民間利用を推進する方針である。
 今通常国会で個人情報保護法改定案が成立した。本人の同意なしに個人情報の目的外使用ができ、匿名加工すれば第三者に提供できることになる。こうした個人情報を利活用するためには個人情報を電子化し、その中身を標準化することが必要になる。電子カルテなどの医療等情報も匿名加工すれば、製薬企業などが利活用することが可能となる。さらに、保険会社が加入者の管理や新たな保険商品の開発に利用することも考えられる。
 しかし、電子カルテは機微性の高い個人情報そのものである。厳格な情報管理や利活用の制限が必要であるが、企業を含む民間利用を推進した場合、こうした社会的規制が形骸化するおそれがある。

情報漏えいのリスク

 14年6月18日付けの日本経済新聞は、「共通番号で医療費抑制 マイナンバーで投薬など管理們政府方針」と報じた。「診療情報の収集・利活用を促進」し、分析することで、個人単位の保険給付削減に利用していくというものだが、プライバシーが厳重に保護されなければならない医療等情報を国が一元化し、民間利用しようとすることは、多くの国民には知らされておらず、政府によるていねいな説明も行われていない。情報漏えいのリスクは計り知れない。

医療等分野のICT化の推進について

以上