【政策解説】マイナンバーが施行
―地域医療をどう変えるC―
(全国保険医新聞2015年11月5日号より)
「日本再興戦略改訂2015」は、マイナンバー制度のインフラを利用して、医療等分野の情報連携に向けて5つの取り組みを推進し、「医療・介護・ヘルスケア産業の活性化」につなげていく方針だ。前回に引き続き、今号では第三、第四、第五の取り組みを解説する。
地域で医療情報をネットワーク化
第三の取り組みは、「地域医療情報連携ネットワークシステム」を全国各地で普及することである。政府は18年度までに、地域の医療機関・薬局・介護事業所間をネットワークで結ぶシステムを構築する計画である。そのため、都道府県が策定する医療計画にシステム構築の取り組みを盛り込むようにする。
政府は、医療等番号を用いて医療機関などが情報を共有することで、例えば在宅医療を受ける高齢者への効果的な医療連携が可能になると説明している。医療・介護分野の情報連携・ICT化は必要だが、機微性の高い個人情報の厳格な管理が前提となる。そのためには、目的別の符号・番号を使うなどマイナンバーを用いないことが必要だ。さらに、医療・介護サービスの充実は、情報の効率的な共有だけでは成り立たない。日常生活圏内で途切れない∴纓テ・介護の分厚い提供体制を整備して、初めて成り立つといえる。
給付抑制、提供体制 検討へ利活用
第四の取り組みとして、「医療等分野データ利活用プログラム(仮称)」を策定する。政府の健康・医療戦略本部の下に設けた「次世代医療ICT基盤協議会」で、15年度中に策定する方針である。
医療等情報の活用を推進するため、20年までを目標に、国などが保有する医療等分野の関連データベースにおいて、患者データを長期間にわたり追跡し、各データベース間での患者データの連携も行う方針である。
これらのデータを活用した「医療の標準化」や、医療・介護の給付費抑制、地域の医療提供体制のあり方などを検討・実施するため、次世代医療ICT基盤協議会が持っている司令塔機能を強化し、政府主導で医療等情報の利活用を進めようとしている。
ヘルスケア産業の活性化へ
第五の取り組みは、こうした医療等分野の有益なデータを、公的保険外の「ヘルスケア産業の活性化」のために活用することである(来年の通常国会を目途に新たな法案の提出を予定)。
マイナンバー制度のインフラを利用して、国の認定を受けた企業や民間事業者などに、個人の医療・健康情報を委託管理し、個人の生活習慣の改善などに役立てる新たな仕組みを作るとしている。各種機関から個人情報を収集・管理するため、「代理機関(仮称)」制度も創設する。
しかし、公的保険外のヘルスケアビジネスは多額の個人負担が伴う。国民に等しく有益なデータの活用が可能となるのではなく、個人の財力によって左右される状況は極めて問題である。
丁寧な説明、運用改善を
自民党IT戦略特命委員長の平井卓也衆議院議員は、「メリットを実感できれば、医療情報を利活用することへの国民の理解は進むと思う」(『メディファクス』7128号)と語っているが、政府からさまざまなメリット≠強調することで、国民の不安や批判を抑え込もうとする姿勢が透けて見える。
政府は、「診療情報の収集・利活用を促進」し、分析することで、個人単位の保険給付削減に利用していく狙いだが、プライバシーが厳重に保護されなければならない医療等情報を国が一元化し、民間利用しようとすることによる情報漏えいのリスクは計り知れない。また、厚労省情報政策担当参事官室の室長補佐が収賄容疑で逮捕されたことは、マイナンバー制度が利権の温床であることを浮き彫りにした。
内閣府が9月3日に発表した世論調査では、マイナンバー制度によって、プライバシー侵害のおそれがあるとの回答は34.5%、個人情報の不正利用による被害が心配との回答は38.0%となっており、国民の不安は払拭されていない。
国民へのていねいな説明と周知、運用上の改善に時間をかけるべきであり、IT利権の解明も求められる。16年1月から運用を開始するマイナンバー制度は凍結・中止すべきである。
以上