経営は悪化の傾向―診療報酬はプラスが必要
(全国保険医新聞2015年11月15日号より)
2016年度診療報酬改定は、社会保障費の伸びを抑えるためとしてマイナス改定の動きが強まっている。しかし11月4日に公表された「第20回医療経済実態調査」からは、診療所の経営状況の悪化がうかがえる。医療機関の経営の安定のみならず、患者に提供する医療の質と量を決める診療報酬のプラス改定が必要だ。
財務省は10月30日の財政制度等審議会で、次期改定について、「診療報酬本体のマイナス改定」を提案した。
16年度予算編成では、概算要求の段階で社会保障費自然増分を15年度比で1600億円削減した。ここからさらに1700億円程度を削減する方針だ。
診療報酬改定だけでこれを実現しようとすれば、約1.5%のマイナスとなる。
「利益安定」とはいえない
厚労省は11月4日の中医協総会で「第20回医療経済実態調査」を報告した。保団連が求めていた最頻値も公表された。一部マスコミでは、「診療所利益安定」とも報じられている。
しかし無床の一般診療所(個人立・医療法人立)では損益差額の最頻値が減少。特に医療法人立は14年度が225万4,000円で、13年度の307万7,000円からマイナス26.7%の大幅な減少だ。医療経済実態調査は無作為抽出による調査で、回答施設数が少ない。経営の厳しい医療機関は、調査に協力しにくい傾向にある。にもかかわらず、このような結果が出たことは、多くの診療所の経営状況の悪化を反映していると考えられる。一方、損益差額の最頻値は若干増加している歯科診療所(個人立)については、回答施設数が年々減少しており、医科と比較しても非常に少ない。診療所全体の実態を反映しているとはいえない。病院は赤字傾向が拡大しており、一般病院全体の損益差額率は13年度のマイナス1.7%から14年度はマイナス3.1%となり、赤字幅が1.4ポイント拡大した。
日本医師会も医療経済実態調査について、診療所の損益差額は減少し、院長給与は下がっていることを指摘している。5日の定例記者会見で横倉義武会長は、さらなるマイナス改定は地域医療の崩壊をもたらすとの危機感を示した。
患者の命・健康にも関わる
診療報酬は医療機関の経営を支えるとともに、保険診療の量と質を規定する。「財源不足」を理由とする安易な引き下げは、患者の命や健康にも関わる。
全国保険医団体連合会は社会保障の財源として、正規雇用の労働者を増やし、被用者保険の事業者負担割合を引き上げて保険料収入を増加させることなどを提案(右表)。この提案への理解を広げながら、診療報酬の大幅引き上げと窓口負担の軽減を求める会員署名や、関係省庁や国会議員への要請など、プラス改定を求める取り組みを強めることとしている。
以上