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【政策解説】これからの医療制度改革
―財務省が工程案示す―

(全国保険医新聞2015年11月15日号より)

 

表 財務省の「改革」案 閣議決定した「骨太方針2015」の「経済・財政再生計画」では、16〜20年度までの計画期間中に実施すべき社会保障制度「改革」の検討事項44項目について、年内に「改革工程表」を策定する。これに反映させるため、財務省は9月10日、社会保障制度「改革」案を財政制度等審議会に示した。法改正が必要な項目は、厚労省の社会保障審議会などで検討を行い、16年末までに結論を得て、遅くとも17年の通常国会に関連法案を提出する方針である。

患者負担の引き上げ

 「改革」案は、「公平な負担」の名で負担増が盛り込まれた。@75歳以上高齢者に原則2割負担を導入(できる限り早期に取りまとめ)A高額療養費制度(16年末までに結論、政令改正事項)について、▽高齢者の外来特例の廃止▽入院・外来の高齢者の自己負担の月額上限を現役世代と同じ基準へ見直すBマイナンバー活用による金融資産の保有状況も踏まえた医療保険、介護保険の自己負担の拡大―を挙げている。さらに、治療の場である一般病床等について、光熱水費相当の居住費を患者負担化するとしている。
 外来受診を抑制するため、「かかりつけ医」以外を受診する場合、1〜3割負担に定額負担を上乗せする。過去にも外来時定額負担として検討されたが、必要な受診まで妨げてしまうとの批判から断念に追い込まれたものだ。
 市販品と類似した医療用医薬品の保険償還率の引き下げ(保険給付は後発品価格までとして差額は患者負担とする)、湿布薬など市販品類似薬を保険給付外化(16年度診療報酬改定で実施)、生活習慣病治療薬の処方ルールのガイドラインを速やかに決める―などを示した。
 介護保険では、65〜74歳利用者に原則2割負担への引き上げや、「軽度者」に対する生活援助や福祉用具貸与の原則自己負担化を挙げている。

自治体主導の医療費削減

 「地域差の是正」を名目とした医療費抑制策の取り組みも盛り込まれた。
 @外来医療費の地域差の要因(疾病別・年齢別の受療率、1日当たり点数など)を分析し、その解消策を次期医療費適正化画に反映する、A民間医療機関に対する転換命令等、医療保険上の指定に係る都道府県の権限を強化する、B高齢者医療確保法第14条(都道府県単位の診療報酬の設定)を活用するガイドラインを16年中に策定する、C要介護認定率や介護給付費の地域差を分析し、市町村による給付抑制の取り組みを制度化する―などを挙げている。
 政府の経済財政諮問会議では、榊原定征・経団連会長ら民間議員の「都道府県別1人当たり医療介護費・薬剤費の地域差半減」を求める意見も踏まえ、▽外来医療費の都道府県・保険者による地域差是正の「取組状況を測る指標」や「地域差を測る指標」▽要介護認定率・サービス利用実態の「地域差を測る指標」などを導入し、毎年度、進捗状況を点検・評価するとしている。

診療報酬の削減

 財務省は10月30日、「診療報酬本体のマイナス改定」方針を提案した。前回改定は消費税率引き上げに伴う経費増を除いた実質ではマイナスだった。政府は社会保障費の自然増を来年度予算の概算要求で1600億円削り、年末の予算編成でさらに約1700億円削減する方針だ。診療報酬だけで1700億円削減するなら約1.5%のマイナス改定に相当する。

 財務省の「改革」案は、全世代で大きな負担増となり、受診抑制と患者の重症化をさらに深刻にするおそれがある。国民皆保険の本質である「必要な医療が公的保険で受けられる」ことが形骸化し、命は財力次第≠フ民間保険化が進行する危険がある。

以上