ホーム

 

消費税増税 社会保障は「充実」せず

(全国保険医新聞2015年11月15日号より)
高知大学准教授 霜田博史

 

 2014年4月に消費税が8%に増税され、17年4月からは10%とすることが予定されている。政府は増収分をすべて社会保障に使うとしているが、増税により社会保障の財源は増えるのか。高知大学人文学部准教授の霜田博史氏に寄稿してもらった。

 「充実」はわずか1.35兆円

図1 消費税増収分8.2兆円の使途 厚生労働省は15年度予算案の説明資料において、14年4月の消費税率引き上げによる15年度の増収分8.2兆円について、全て「社会保障の充実・安定化」に向けるとしていた。一部のメディアからは、増収分が全て社会保障関係費に回るということをもって、歓迎する向きもあるようである。消費税増税によって「社会保障が充実・安定化」といわれると、社会保障に関する新規施策が大胆に打ち出される印象を持つ。しかし、厚生労働省の資料によれば、「充実」に回る分はわずか1.35兆円にすぎず、残りの6.85兆円は基礎年金国庫負担割合と社会保障費の自然増対策および消費税率引き上げに伴う社会保障費の増加分に充てるとしている(図1)。所得税と法人税が維持・増加傾向にあり、財政状況が良好であれば、消費税増税による増収は直接「社会保障の充実」に貢献することになるだろう。しかし現実は、1990年代以降の所得税と法人税の減少傾向、財政状況について悪化の一途、というところにあるのだから(図2)、政府としては、消費税増税の増収分は、社会保障の「充実」よりも、すでに必要とされている部分についての「安定財源確保と財政健全化」に大部分を回さざるを得ない。

図 2 消費税増収と法人税3税の減収額の推移

「目的税」化は社会保障抑制に

 社会保障費が増大している現状において、安定財源確保が求められていることは論をまたないが、そもそも消費税は社会保障目的税ではなく、使途の限定されない普通税である。安定財源が必要であるということならば、所得税・法人税などを含めた歳入全体の構造の見直しが必要である。また、社会保障財源を全体として議論しようとすれば、現役世代の保険料についても考えていく必要がある。したがって、消費税のみを「社会保障目的税」のように扱うことは、社会保障の財源を消費税のみに限定し、消費税収を社会保障支出額と結びつけることによって、結局は消費税の税収の動向に合わせた社会保障費の支出抑制を招くことになってしまう。他の税が減少傾向にある中では、消費税増税による税収の純増分が限定されてしまうからである。

税源は消費税だけではない 

 社会保障の「充実」をより現実のものとするためには、国の財政状況が悪化した原因に立ち返ることから始める必要がある。財政悪化の要因は、税収の減少と歳出の増加が同時に起こっていることにあるのだから、税収の減少を食い止めるためにも増税は不可避である。しかし、税源は消費税だけではないのだから、所得税・法人税の税収の立て直しも含め、総合的な税制改革が求められる。いずれにせよ、歳入・歳出全体の構造の中で考えないと仕方のない部分があり、消費税増税にともなう税収増のみをもって、社会保障が「充実する」ということには過度な期待はできない。

以上