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あせらず まずは準備を
個人番号(マイナンバー) 医療機関の対応

(全国保険医新聞2015年11月15日号より)

 

 10月5日から「マイナンバー」法が施行され、各世帯に個人番号通知カードの送付が始まった。個人情報の不正利用やプライバシー侵害への国民の不安が解消されておらず、保団連は1月からの利用開始は中止するよう求めている。一方で、事業者に個人番号収集を急がせる情報が氾濫し、医療機関から困惑の声が聞かれている。医療機関での取り扱いの留意点を解説した。

年内は職員から個人番号を収集する必要はない

表 従業員関係で個人番号のの記入欄が新設される主な書類 10月5日に「マイナンバー」法が施行され、各世帯への個人番号の通知が始まっている。
しかし制度の運用開始は、2016年1月から。1月以後に提出する源泉徴収税と雇用保険などで個人番号の取り扱いが始まる(右表参照)。
 今年の年末調整の際、職員に配布する「平成28年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」には既に個人番号の記載欄があるが、年内は制度実施前であり、記入の必要はない。来年1月以後でも、次の年末調整時期が来るまでは職員から個人番号を収集するのは採用・退職などの限られた場合のみである。よって、年内は個人番号を収集しなくてもよいことになる。
 個人番号の取得は事業者の「努力義務」でしかないが、いったん一つでも個人番号を預かってしまうと「個人番号関係事務取扱者」となり、安全管理措置を講じることが義務付けられる。体制が整わないうちに個人番号を預かり、万一情報が外部に漏れた場合は責任を問われかねない。
 なお、現状では、医療機関が患者さんの個人番号を取り扱うことは一切ないことを、留意しておきたい。

通知カードは大切に保管するよう伝える

 各世帯の世帯主あてに簡易書留で世帯全員分の「通知カード」(紙製)と「個人番号カード交付申請書」が送られてくる。
 個人番号は超一級の個人情報であり、番号の記載された「通知カード」は「実印」と同じと考えて、職員には大切に保管するよう伝えるようにしたい。
 なお、「個人番号カード」(ICカード付)の申請は任意であり、義務ではない。この間の年金機構の情報流出事件で国民の不安感は高まっており、制度運用の始まる1月以後、どのような問題が起こるかも未知数である。「個人番号カード」を申請するかは慎重に判断することが必要だ。

「安全管理措置体制」の整備

 法律では、一つでも個人番号を取得したら、事業者には「安全管理措置体制」を整備することが求められている。それぞれの医療機関で「安全管理措置体制」を整備することが必要となる。
 職員には、「大切な情報を取り扱うので体制を整えてから取り扱うことにしたい」、「当面、書類には番号の記載は不要で、そのようにしても職員の不利益にはならない」ことを説明して理解を得るようにしたい。
 安全管理措置については、「特定個人情報保護委員会」がガイドラインを示しており、ホームページで閲覧できる。個人番号や情報の漏えい・滅失・毀損の防止等の安全措置を検討する手順や講ずべき措置の内容を示している。
 個人番号を取り扱う事務や担当者の明確化、安全措置の基本方針、取扱規定等の策定を検討することとされている。安全管理措置としては、組織体制の整備、取扱担当者の監督・教育、情報の管理、不正アクセス・漏えいの防止等の措置が求められている。

提供を受けられなくても書類は受理

 安全管理措置体制を整備できたら、職員に収集目的と利用範囲、安全管理措置体制を説明し、提供を求めることになる。

万一に備え定期チェック・記録を

 提供を受けた個人番号は適切に保管、管理し、利用目的が終了したら速やかに廃棄する。
 管理体制の不備が原因で情報が漏えいすれば、事業主は罰則を受けることもある。万一に備え、定期的な保管状況のチェック・記録が必要だ。

空欄のまま提出でも不利益なし

 法律上、職員が職場・企業へ番号を知らせる義務はない。また、事業主の個人番号に関する施策に協力する義務は、あくまで努力義務である。しかも、住民票を移していない、書留を受け取れなかった等により、個人番号がすべての世帯、国民にいきわたる保障はない。
 そのため、医療機関から提供を求めても、職員の個人番号を収集できないことがある。
 その場合は、書類の個人番号の記載欄は空欄のまま提出することになるが、空欄で提出しても役所は受理することになっている。
 国税庁も厚労省も、「個人番号の記載がないことをもって、届出を受理しないということはありません」としている(厚労省「雇用保険業務等におけるQ&A」、国税庁「国税分野におけるFAQ/下表参照)。職員の不利益になることもない。
 事業主としては、収集に努めたが収集できなかった旨を記録しておくとよい。

「雇用保険業務等における社会保障・税番号制度への対応に係るQ&A(厚労省)」より

〔問〕従業員から個人番号の提供を拒否された場合、雇用保険手続についてどのような取扱いとなるのか。

〔答〕雇用保険手続の届出にあたって個人番号を記載することは、事業主においては法令で定められた(努力)義務であることをご理解いただいた上で、従業員から個人番号の提供を求めることとなりますが、仮に提供を拒否された場合には、個人番号欄を空白の状態で雇用保険手続の届出をしていただくこととなります。

※個人番号の記載がないことをもって、ハローワークが雇用保険手続の届出を受理しないということはありません。

「国税分野におけるFAQ(国税庁)」より

〔問〕従業員や講演料等の支払先等から個人番号の提供を受けられない場合、どのように対応すればいいですか。

〔答〕法定調書作成などに際し、個人番号の提供を受けられない場合でも、安易に個人番号を記載しないで書類を提出せず、個人番号の記載は、法律(国税通則法、所得税法等)で定められた義務であることを伝え、提供を求めてください。
 それでもなお、提供を受けられない場合は、提供を求めた経過等を記録、保存するなどし、単なる義務違反でないことを明確にしておいてください。
 経過等の記録がなければ、個人番号の提供を受けていないのか、あるいは提供を受けたのに紛失したのかが判別できません。特定個人情報保護の観点からも、経過等の記録をお願いします。
 なお、法定調書などの記載対象となっている方全てが個人番号をお持ちとは限らず、そのような場合は個人番号を記載することはできませんので、個人番号の記載がないことをもって、税務署が書類を受理しないということはありません。

以上