「財政健全化」なのに法人税引き下げ?
―財源確保しプラス改定を―
(全国保険医新聞2015年12月15日号より)
政府は来年度(2016年度)に法人実効税率を29.97%に引き下げる方針を明らかにした。90年代以降の大企業や富裕層への減税による税収不足に拍車をかけるものだ。一方で「財政健全化」をうたい、16年度の診療報酬マイナス改定を狙っている。医療・社会保障の財源を確保し、診療報酬を引き上げるべきだ。
第二次安倍政権の発足以来、法人実効税率は下がり続けている(右表)。
一方、財務省の財政制度等審議会が11月24日に提出した16年度の予算編成に関する建議では、診療報酬本体部分の一定程度のマイナス改定が必要とされた。これは「骨太方針2015」が20年度までの財政健全化を目指し、社会保障関係費の増加を抑え込もうとしていることを踏まえたものだ。
そもそも財政赤字の原因は、90年代以降の大企業や富裕層を中心とした減税による税収不足である。財政健全化をうたって診療報酬のマイナス改定を求めておきながら、さらなる税収減につながる法人実効税率引き下げは、医療・社会保障の充実を求める国民の願いに背を向けるものだ。
医療サービスは雇用誘発効果大
安倍首相は「新三本の矢」の中で「希望を生み出す強い経済」を打ち出し、今回の法人実効税率の引き下げも、給与の上昇を期待したものなどと説明している。しかしその効果について、政府内でも疑問の声が出ている。麻生太郎財務大臣は10月の経済財政諮問会議で、この2年間で企業の経常利益は16.1兆円、内部留保は49.9兆円増加したが、従業員給与の増加は0.3兆円にとどまったとする資料を提出した。法人実効税率を引き下げても、利益を上げている企業がさらに内部留保を溜め込むだけで、賃上げにつながらない可能性が高い。
一方医療・介護サービスは、経済波及効果、雇用誘発係数が全産業の平均より高く、国内経済、とりわけ地域経済へ及ぼす影響が大きい。12月2日の中医協総会で診療側は「アベノミクスによる賃金上昇の方向性と整合性をとるべき」として、「医療機関が経営的にも安定し、給与等の形で医療従事者に還元されれば、特に地方の経済も活性化し、地方創生への多大な貢献につながるものと期待できる」と述べた。マイナス改定は、経済の好循環を目指す政府の姿勢とも矛盾する。
内部留保を溜め込む企業ばかりを利する法人税減税はせず、医療・社会保障充実の財源を確保し、診療報酬を引き上げることが必要だ。
以上