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介護保険制度の全般的見直し(2005年度)
に向けた対応と課題

2003年6月28日
全国保険医団体連合会代議員会

<本提案の要旨>

○ 2005年の全般的見直しに向けては、介護保険制度の差し迫った現実的な問題の解決を図ることが重要です。

○ その際は、必要とする介護サービスを必要に応じてだれもがいつでも利用できる介護保険制度を目標とします。

○ 社会保障としての介護保障制度を確立するには、公費負担方式がより適切であると考えます。2005年の見直しに当たっては、高齢者の保険料に依存しない財政基盤を確立するために、公費負担の割合を大幅に増やすことが重要です。

○ 介護保険制度の改革・改善の課題として9項目を掲げています。そのポイントは、@利用料、保険料負担の軽減をはじめ、国民本位・利用者本位の制度・運営に改善すること、A国及び地方自治体の責任と役割を強めること、B費用に係る公費負担の割合を速やかに拡大することにあります。

○ なお、政府側が焦点に浮上させている制度加入者の年齢拡大については、財源対策を理由とする安易な拡大を行うべきではありません。2005年の見直しにおいては、要支援・要介護者のうちサービス未利用者が2割強存在し、支給限度額に対する利用割合が4割程度にとどまっている現状の改善こそ、最重点課題とすべきです。

J、提案の基本的立場

1,2005年に向けた介護保険制度の改革・改善運動の重点

 介護保険は3年目を迎えたが、利用限度額に対する実際のサービス利用率が40%程度にとどまっていることや施設入所待機者の増加が社会問題となっていることに端的に表れているように、介護を要する高齢者が必要かつ十分な介護サービスが受けられないことが矛盾の焦点になっている。

保団連としては、介護サービスは公費負担方式で行うことがより適切であるという基本的な立場を踏まえつつ、2005年の全般的見直しに向けては、介護保険制度の改革・改善に力を注ぎ、差し迫った現実的な問題の解決を図ること重点課題とし、現行の介護保険制度を国民本位・利用者本位の公的な社会保険制度に改革・改善していくために運動を推進する。

その際、社会保障としての介護保障の確立を求め、必要とする介護サービスを必要に応じてだれもがいつでも利用できるようにすることを目標とする。

2,介護保険制度の改革・改善運動の位置づけ

政府は、介護保険を社会保障構造改革の突破口として位置づけ、年金、医療、雇用、労災保険にはなかった全高齢者からの保険料徴収や年金からの天引きの仕組み等(下記参照)を導入した。そして今日、介護保険に続いて年金や医療保険制度にもこれらの仕組みを導入することを狙っている。

例えば、高齢者医療制度の創設では、75歳以上の全高齢者から保険料を徴収しようとしている。厚生労働省の試算では、仮に医療費の1割を保険料で徴収しようとすれば、75歳以上の全高齢者が月6,500円程度を負担することになる。介護保険料と合わせ月1万円近い保険料負担となり、高齢者の7割以上が住民税非課税者である実態を無視した苛酷な改悪案が打ち出されている。

従って、介護保険制度そのものの改革・改善運動を推進しつつ、これを、政府がすすめている医療保険制度改革を阻止する運動の中に位置づけて取り組んでいく。

 <介護保険の制度上の特徴:例示>

事業者と利用者の契約、現物給付でなく現金給付(償還払い)、要介護認定による給付決定、要介護度別の包括・定額払い、主治医の制度化、全高齢者から保険料を徴収、逆進性が著しく強い保険料、低額な国庫負担(国民健康保険への国庫負担の半分)、営利資本参入、1割負担などなど。

3,費用負担担のあり方について

介護保険は、保険料滞納者に対する保険給付の制限等の規定(法63条〜69条)を盛り込んでいることに端的に表れているように、「負担なければ給付なし」という保険原理(=自助)に立つ介護保険は、介護保障に貧富の差を持ち込み、低所得者を排除する原理を有している。

従って、社会保障としての介護保障を確立するためには、保険方式ではなく公費負担方式とする方がより適切であると考える。

同時に、当面は、公費負担の割合を大幅に増やし、介護保険制度を国民本位・利用者本位の公的な社会保険制度に改革・改善することを運動課題として重視していく。

4,焦点に浮上している「対象年齢の拡大」について

 全般的な見直し問題では、「20歳から徴収検討」(朝日 2002年12月29日)、「20歳以上拡大に焦点」(日経 3003年1月30日)と報じられ、介護保険制度の対象年齢の拡大が大きな焦点となっている。両紙とも、高齢化に伴う介護給付費の増加を対象拡大で切り抜けようとする厚生労働省の意図を指摘している。また、厚生労働省・中村老健局長は、「障害者施策の中で介護保険が貢献できるかどうか検討したい」(シルバー新報 2002年10月4日)と言明し、予定通りすすめば2004年の通常国会に法案提出と報じられている。

しかし、介護保険制度の導入が老人医療費に対する国庫負担の削減等を狙ったものであったように、介護保険制度の加入年齢拡大・障害者への拡大は、20歳以上の要介護者・障害者の医療費及び国庫負担の削減、障害者福祉の後退につながりかねない。

 従って保団連としては、介護保険の対象年齢や法定給付項目の安易な拡大は行わないことを求めていくとともに、要支援・要介護者のうちサービス未利用者が2割強存在し、支給限度額に対する利用割合が4割程度にとどまっている介護保険の現状の改善を最重点課題とするよう政府に求めていく。

K、2005年に向けた改革・改善課題

  <本項の扱い>

   改革・改善の課題については、社会保障審議会に新たに設置された部会等の検討の進展に応じ、必要な追加を行っていく。

必要とする介護サービスを必要に応じてだれもがいつでも利用できるようにするために今求められていることは、国民本位・利用者本位の制度運営への改善と、公費負担の拡大によって介護保障の充実を図ることである。

具体的な課題としては、@国民本位・利用者本位の制度運営に改善すること、A国及び地方自治体の責任と役割を強めること、B費用に係る公費負担の割合を速やかに拡大することを中心に、関係団体とともに改革・改善を求めていく。

<1,利用料>

1,介護給付は原則10割給付とすること。

当面、利用料について3%に引き下げるとともに、住民税非課税者及び非課税世帯については無料とすること。居宅サービスのうち福祉系サービスの利用料については、直ちに3%に引き下げること。

 参考:介護保険施行前のホームヘルパー利用料は、住民税非課税者は無料で、中高所得者は6段階の応能負担。特別養護老人ホーム利用料は無料から月額最高24万円までの応能負担であった。

 参考:要支援・要介護者のうちサービス利用者は8割程度であり、また、支給限度額に対する利用割合は4割程度にとどまっている。

2,居宅サービスを必要に応じて利用できるようにするために、区分支給限度基準額を廃止すること。

 当面、区分支給限度額を引き上げること。また、介護を必要とする者が「その有する能力に応じて自立した日常生活を営む」(法第1条)上で必要な場合は、区分支給限度額を超える分についても保険給付とすること。

 参考:現行では、「超える分」(上乗せサービス)の費用は、1号被保険者の保険料で賄う扱い。

3,高額介護サービス費支給基準額(利用料の上限額)を引き下げること。

 参考:現行は、一般37,200円、住民税非課税世帯24,600円、老齢年金・生保15,000円。居宅サービスの最高額(35,830円)を利用しても上限額に達しない。

4,福祉系サービスを含めすべての利用料について医療費控除の対象とすること。

 参考:現在の扱いは、居宅サービスのうち、@医療系サービス、A医療系サービスと同月に行われた福祉系サービスは医療費控除の対象となる。居宅サービス計画に医療系サービスが位置づけられていない場合(つまり、福祉系サービスのみの場合)は対象外となっている。なお、3施設の利用料については一部を除き医療費控除の対象となっている。

<2,保険料>

 拠出能力に応じた「払える保険料」に改善すること。そのために、

1,保険料は応能負担を原則とするとともに、実効ある低所得者対策を実施すること。

2,生計費非課税の原則を踏まえ、住民税非課税者及び非課税世帯の保険料を免除する等の減免制度を法に規定すること。また、住民税非課税者以下の保険料については、特別徴収をやめること。

3,実効ある減免制度等の低所得者対策が実施されるまでの間、保険料滞納者に対する保険給付の差し止め等の制裁措置を適用しないこと。

<3,給付範囲>

1,要介護者に対する十分な医療を確保するために、医療系サービスは医療保険給付に戻すこと。

 注:医療系サービスとは、訪問看護、訪問リハビリテーション、通所リハビリテーション(デイケア)、短期入所療養介護、居宅療養管理指導、介護老人保健施設及び介護療養型医療施設におけるサービスをさす。

 参考:医療系サービスは、介護保険給付費の約44%(2001年度実績 国保中央会調べ)を占めており、2003年度からの保険料引き上げの口実とされるとともに、介護報酬引き下げのターゲットになった。その結果、2003年4月より介護療養型医療施設の「3:1介護」が廃止されるなど、要介護認定を受けた患者の医療への制限が強められた。

 参考:全国町村会は、「介護療養型医療施設の入所定員数が市町村の保険料水準に及ぼす影響が大きいことに鑑み、(療養型病床群は)全て医療保険の適用とすること」を政府に要望した(「介護保険制度に関する緊急要望 2002年5月」)。

2,介護保険の加入年齢や法定給付項目の安易な拡大を行わないこと。むしろ、要支援・要介護者のうちサービス未利用者が2割強存在し、支給限度額に対する利用割合が4割程度にとどまっている現状の改善を最重点課題とすること。

<4,基盤整備、マンパワー>

1,介護保険サービスに係る人材確保・養成、基盤整備を公費により促進すること。

2,自治体間、地域間の基盤整備・マンパワー水準の格差を是正すること。地域偏在を是正するため、市町村自ら介護保険サービス事業を展開するなど公的役割を抜本的に強化すること。

<5,公費負担、財源>

1,公費負担割合を大幅に引き上げ、高齢者の保険料に依存しない財政基盤を確立すること。

参考:2003年度予算において、国民所得に対する介護給付費はわずか1.3%、介護給付費のうち国庫負担、は国民所得の0.31%に過ぎない。

2,当面、福祉系サービスに係る国庫負担を介護保険施行前の水準(50%)に戻すこと。また、医療系サービスを医療保険に戻すまでの間、医療系サービスに係る国庫負担を介護保険施行前の水準(老人保健への国庫負担割合:35%程度)に戻すこと。

3,介護サービスに要する主たる財源は、逆進性の強い消費税ではなく、所得税、法人税等の直接税によること。

<6,市町村の役割強化>

1,介護保険法に介護受給に関する国民の権利規定を設けること。

2,保険給付に関する不服審査機関(介護保険審査会)及びサービス利用全体に係る苦情処理機関を市町村に設置すること。

 参考:法の設置規定は、都道府県段階にのみ。

3,住民本位・利用者本位のサービス向上を図ること。

@ 利用者及びその家族の意向を反映させるために、介護保険事業計画の策定等に住民・利用者の参加を義務づけること。

A 介護保険事業計画全般に関する情報提供、第三者評価機構の設置を市町村に義務づけること。

参考:法117条5項「市町村は、介護保険事業計画を定め、又は変更しようとするときは、あらかじめ、被保険者の意見を反映させるため必要な措置を講ずるものとする。」

4,介護保険の法定給付以外の福祉・介護サービスについては、要介護認定の有無にかかわらず、市町村が高齢者保健福祉計画(老人福祉法・老人保健法に基づく計画)の見直しによって実施すること。

5,市町村が自ら居宅介護支援事業者、訪問介護事業者となり、いわゆる処遇困難事例への介護サービスを保障すること。さらに、介護支援専門員を支援する基幹型在宅介護支援センターを福祉事務所又は市町村保健福祉センターに必置し、地域のケアシステムの核を整備すること。

6,老人福祉法第5条の4等に基づく市町村長の措置権限(在宅福祉及び施設福祉)を活用し、介護保険法に基づくサービスの利用が困難な者に対する福祉サービス(在宅及び施設)を保障すること。

<7,非営利>

1,サービスを提供するすべての事業者は、配当を禁止した非営利法人又はNPO法人格を持つなど非営利を原則とすること。(ただし、高齢者住宅及び有料老人ホーム、福祉用具販売、住宅改修事業はこの限りではない)。

<8,(居宅)介護支援>

(居宅)介護支援事業の公的機能(中立・公正・独立性)を確立すること。そのために、

1,(居宅)介護支援費については介護報酬から外し、市町村支弁とすること。

2,(居宅)介護支援専門員については公務員に準じた扱いとし、その職歴に見合った研修をすすめるとともに、その管理者に対し社会福祉、社会保障、医療等に関する教育を強めること。

3,(居宅)介護サービス計画の内容等に関し、住民の参加を義務づけた第三者評価機関を市町村に設置すること。

<9,介護認定>

1,要介護度区分によって保険給付額を決定する仕組みを廃止し、介護及び介護予防の要否判定をもって保険給付の認定を行うこと。

2,当面、以下の改善を図ること。

1) 要介護認定に当たっては、患者の身体及び精神の状況、その置かれている環境(経済状態、家族の事情、住宅環境等)を含めた総合的な評価を行うとともに、主治医及び(居宅)介護支援専門員の意見を重視すること。

2) 要介護認定区分を簡素化すること。

以上