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介護保険改悪と障害者支援費制度との統合に反対します

2004年6月21日
全国保険医団体連合会
副会長 哲翁 昭邦

 厚生労働省社会保障審議会障害者部会は6月4日、障害者施策のうち介護保険の範囲内に収まらない部分を別建てで対策をとることを条件に、障害者支援費制度を介護保険制度に統合することを容認する「中間報告書案」が提示され、6月中にも中間報告書をまとめる方針と伝えられています。

 この「統合計画」は、そもそも介護保険の財政対策として40歳以下への拡大が企図されたが、「若年者に求めることへの国民の反発は大きいため」(「日経」2004年1月8日)、介護サービスを若年者に給付する方策として検討の俎上にのせられた経緯があります。

 本来、障害を有するすべての国民に対し、年齢や障害の要因にかかわらず、必要なサービスを必要とする人に十分に提供することが必要です。しかし、介護保険制度そのものが必要十分なサービスを提供できていない現実を直視すれば、政府で検討中の「統合計画」については、以下の理由から反対せざるを得ません。

障害者福祉の介護保険化は施策の著しい後退を招く

 政府は、2000年度にスタートさせた介護保険制度を社会保障構造改革の突破口として位置づけ、医療保険制度をはじめ公的な社会保険制度を覆す仕組みを制度化しました。これを障害者施策との関連で見れば、次の問題があります。

 第一の問題は、介護保険施行により、老人福祉への国庫負担の削減(5割→25%に削減)及び介護保険から給付される医療系サービスへの国庫負担の削減(老人保健への国庫負担35%程度→25%に削減)が行われたことです。障害者福祉・医療に関しても同様の問題が生ずる可能性があります。

 第二の問題は、老人福祉施策における市町村の役割の後退が生じたことです。介護保険制度において、サービスの利用は利用者と事業者の直接契約によるとされたため、基盤整備やマンパワー確保に関する市町村の責任が著しく後退し、整備は遅々としてすすんでいません。また、痴呆等により施設利用を拒否されるような場合も、事業者と利用者間の問題として処理を求める等、高齢者福祉に関わる市町村の責任及び関与が著しく後退しました。障害者施策において、この点は深刻な問題です。

 第三の問題は、保険料の納入が義務付けられ、住民税本人非課税者を保険料徴収額の基準とし(基準月額平均:3,293円)、拠出能力を無視した逆進性の強い保険料負担となっていることです。さらに、介護給付費の2分1を保険料に依拠し、国庫負担は介護給付費の4分1と低いため、サービス水準の向上が保険料引上げに直結するという極めて不安定な制度設計となっています。障害者施策の持続的安定的な運営は困難と言わざるを得ません。

 第四の問題は、利用料の応能負担原則を廃止し、一律1割負担(応益負担)に変えるともに、要介護度ごとにサービス費の支給限度額を定め、サービスの受給に制限を設けたことです。最重度の「要介護5」であっても、1日3時間程度の訪問介護を利用すれば上限額に達してしまい、上限額を超える分は全額利用者負担となります。介護保険導入の目玉であった利用者の「自己決定」「選択の自由」を享受できるのは、保険料・利用料・保険外負担ができる一部の利用者に限られていると言わざるを得ず、障害者の自立のための「自己決定」「選択の自由」に大きな障害となりかねません。

 第五としてさらに加えれば、介護保険で給付される医療系サービス(訪問看護、訪問リハビリテーション、通所リハビリテーション、医療系ショートステイ、介護療養型医療施設等)の自己負担分については、老人医療費助成制度(市町村の独自制度)の対象とならず、障害者が受給している障害者医療費助成制度についても同様のことが生じる可能性があります。

 介護保険制度への障害者支援費制度の統合は、従来の障害者施策の著しい後退を招くことは明らかです。

障害者ニーズと介護保険サービスの「落差」は深刻な問題に

 もう一つの問題として、障害者のニーズと介護保険サービス水準との「落差」は深刻な問題をもたらしかねないことである。

 多くの障害者団体からすでに指摘されているように、障害者は、学業、仕事、結婚・子育て、文化・スポーツ活動等がライフステージにおける重要課題として存在し、高齢者の自立と障害者の自立には大きな相違があることです。また、介護保険の認定基準によると障害者は要介護度が低い傾向に出ることが指摘されていますが、政府は、要支援、要介護「1」に係る給付制限を検討中であり、必要なサービスの多くが制限を受けかねません。

 障害者施策は、従来通り公費負担によって充実を図るべきであり、併せて、介護保障制度を社会保障制度にふさわしく確立するには、介護保険についても公費負担方式がより適切であると考えます。

利用料の引上げ(2〜3割負担化)等、介護保険制度の「改悪」を計画中

 政府は、2006年度実施に向けて介護保険制度の「全般的見直し」をすすめていますが、その柱には、@1割の利用料を2〜3割負担に引上げる、A施設入所者の食事代と居住費を自己負担にする、B要支援、要介護「1」等の軽度の者に対する介護サービスを制限する、C低所得者への救済措置は、低収入かつ低所得の者に限る等が挙がっています。また、2006年度からの介護保険料の基準額は4,400円程度になると見込んでおり、政府は、「保険料の値上げを抑えるために介護サービスを極力抑制する」という基本姿勢で「全般的見直し」に臨んでいます。

 こうした介護保険への「統合計画」は、障害者施策の充実に反するものです。

国庫負担の引上げで制度の持続的安定を

 厚生労働省は最近、「社会保障の給付と負担の見直し(2004年5月推計)」を発表しました。それによると、介護給付費を含む「福祉等」給付費は、2025年度においても対国民所得比で6%に過ぎず、すでに10%を超えるドイツ、フランスの2分1程度という極めて立ち遅れた水準にあります。また、介護給付への国庫負担額は、対国民所得比でわずか0.32%に過ぎず、国庫負担を1%に引上げるだけで、介護費用見込額の7割をまかなうことができます(2003年度予算)。

 従って、介護給付費の増大に対する施策としては、国庫負担割合の引上げによって制度の持続的安定を図るべきであり、この点を介護保険制度の全般的見直し議論の柱とするよう政府に対し強く要望します。さらに、要支援・要介護者のうちサービスを利用していない者が2割強存在し、支給限度額に対する利用割合が4割程度にとどまっている介護保険制度の現状の改善をこそ、最重点課題とすべきです。    

                以上