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厚労省「医療制度構造改革試案」の概要と論点について

全国保険医団体連合会・政策部
部長・津田光夫 


○厚労省「試案」に対する主な論点

1-死因の6割を占めるいわゆる生活習慣病の患者予防や発生を減らし国民の“有病率”を引き下げることで医療費の水準も安定していく、国民の4割が自覚症状を持つか通院という実態から、保健予防や早期発見・治療によって重症にならないようにすることが“王道”

2-全国各地で入院から在宅医療までの医療連携体制をつくり、治療開始から終了までの期間が短縮されることは必要、全国一律に数値目標を定め都道府県に競わせ、医療格差を生み出すのではなく、国の責任と負担で“患者本位の医療”を実現すべき

3-日本の患者負担は先進国でトップ、限界の状態にもかかわらず、厳しい「給付減と負担増」計画は、健康悪化=医療費増の悪循環、国民の生存権とりわけ高齢者の人権を損なうことに、医療費適正化を行い、公的医療を拡充することこそ緊喫の課題

4-そもそも2025年度の医療保険給付費は56兆円という厚労省試算は過大ではないか神奈川県保険医協会の試算では2025年度は41.2兆円(伸びを実績に近い年率2.0% と仮定して推計)、経済財政諮問会議提案の42兆円をも下回り、厚労省「試案」に盛り込まれた抑制策そのものが必要ない、先進国から見れば異常に低い日本の医療、社会保障水準を、経済力の「身の丈」にあわせて高くすることが求められる

1-ねらい撃ちされる社会保障 

(1)「骨太方針2005」…メインテーマは「“分かれ道”の選択」
  その基本方針は、「小さくて効率的な政府と民需主導の経済成長」(つまり、小さな政府と市場原理)、2005〜2006年度を「重点強化期間」に位置づける経済財政諮問会議「日本21世紀ビジョン」(05年4月)
   →「自立支援(健康増進・就労支援)型の社会保障制度へ転換」経済同友会「提言」(05年4月)
   →「医療制度にいたっては、ほとんど手つかずの状態にある」

(2)社会保障分野での構造改革の展開 
   社会保障における国と企業負担の軽減
   企業参入を可能に(社会保障の営利化)
   社会保障に市場や競争の仕組みを持ち込む(社会保障の市場化)
   (とくに、契約方式への切り替え、現物給付から現金給付へ、混合介護・混合診療へ、個別交渉・割引を認める、応能負担から応益負担へ)

(3)構造改革の新たな段階へ
   官製市場の民間開放という新たな段階へ、そのため行政・財政の仕組みを変えて市場をつくる→「市場化テスト」の推進
   新たな段階の特徴は
  @これまでの成果を踏まえた市場化・営利化の一層の促進
  A国の経済と財政に負担をかけない仕組みに仕上げること
   (自己責任の強化、競争促進、格差拡大、ビジネス化)
  B社会保障の変質、生活保障から生活破壊へ、貧困・生活不安の促進
  C医療制度構造改革においては、「自己責任」の制度化、「保険主義」の強化、皆医 療なき皆保険制度、「医療管理」のシステム化、等が挙げられる

(4)政府がめざす基本的な方向
厚労省―「給付と負担」が「公平でかつ透明な」医療保険制度をめざす
財務省―「公的医療保険と民間保険のカバーすべき範囲の根本に立ち返った見直し」(「医療制度の課題と改革の視点」05.5.20)     
   →社会保障給付費の抑制は、医療保険給付費を柱とすることで政府・与党内は一致、抑制手法は検討中(具体的な「政策目標を掲げての個別的管理」)
   →来年度予算の概算要求基準…社会保障給付費の抑制額は、02年3000億円、03年以降、毎年2200億円、06年度も2200億円以上を抑制

(5)主なスケジュール
   12月上旬…政府・与党は「試案」をたたき台に、法案大綱決定をめざす 
   12月の政府予算案編成…診療報酬・介護報酬の改定率決定
   2006年2月…通常国会へ関連法案提出予定(健保法、国保法、老健法、医療法等)
   2006年4月…診療報酬・介護報酬同時改定の予定
  ○財政再建=プライマリバランスが目標、そのための社会保障削減と増税がセット
   消費税率引き上げ(福祉目的税化の提案)、所得税・住民税増税も


2-「小さな政府」のターゲットにされた医療〜「試案」の眼目

(1)厚労省の「構造的な医療費適正化への考え方」(2005.6.1)
  @「従来の医療費適正化策」
    患者負担引き上げ  診療報酬引き下げ
  A「短期的な医療費適正化策」
    保険給付範囲の縮小  
  B「構造的な医療費適正化策」
    生活習慣病対策  入院日数の短縮

(2)団塊世代の高齢化に焦点をあて、公的保険給付の抑制と患者負担増→「経済指標の動向に留意しつつ…略…医療費を国民が負担可能な範囲に抑える」
   「将来における公的保険給付費の規模を現行見通しよりも低いものにとどめる」  
   厚労省は中長期の抑制策と短期的抑制策で、2025年度の医療保険給付費を56兆円から49兆円まで、7兆円抑制できると試算→初めて総額管理目標を掲げた

(3)医療保険制度の再編を見通した都道府県単位での競合とペナルティ
 →都道府県の「医療費適正化計画」、医療計画、健康増進計画を通じて、いわゆる生活習慣病を中心としたトータルな医療保険給付費の抑制に道筋をつける
   抑制目標に対する達成度に応じて国の補助金削減、都道府県の負担金の軽減など
   競合とペナルティの導入、地方自治体と患者、医療機関への責任転嫁 

(4)保険給付外し、公的医療の縮小を進めながら、「公私2階建て」化、医療市場の創出・拡大
 →食事・居住費自己負担化、保険免責制度導入、「保険導入対象外」医療を基本的な仕組みとして導入

(5)経済財政諮問会議(経団連会長ら民間議員)が“背中を押す”(05.10.27提案)
   5年程度の国レベルの数値目標を設定、2010年度までを「集中改革期間」
   短期的抑制策の「追加施策」
  ・「診療報酬・薬価の大幅なマイナス改定」
  ・「(一般病床含め)入院時の食費・居住費自己負担」
   ・「高齢者の患者負担の見直し(70歳以上2割、現役並み所得者3割)」
  ・「保険免責制の導入(外来1回当たり1000円)」
  ・「医療サービス向上プログラム」(提供体制の見直し、IT化)

(6)結局は、「医療費の適正化」ではなく、「給付減と負担増、公的医療の縮小」「国と企業(資本)の負担削減」

 患者、国民の負担増(保険料、一部負担、保険外負担、健康づくり)と受診抑制、医療機関の治療抑制でしかない、かえって、健康悪化=医療費増の悪循環→負担増の撤回とともに、医療内容に焦点をあてた患者、国民への発信を

2-厚労省「試案」―短期的抑制策―「公的保険給付の内容及び範囲の見直し」

 「短期的に効果の現れる取り組み」として、「公的保険給付の内容及び範囲の見直し」→患者負担増は2000億円、受診抑制を含めた給付削減は4000億円(厚労省10.20)
  →2006年10月実施目途の患者負担増で国庫負担は900億円削減 

(1)高齢者の患者負担
@ 2006年10月から70歳以上で、「現役並み所得」者(課税所得145万円以上)は、2割負担から3割負担へ先行実施目途
   2008年度から、65〜74歳は2割負担、75歳以上は1割負担、65歳以上の「現役並み所得」者は3割負担を提示
A「別案」は、65歳以上は2割負担、「現役並み所得」者は3割負担、75歳以上のうち低所得者は1割負担 
B「その他案」は、65〜69歳までは現行の3割負担とし、70歳以上について一般は2割負担、「現役並み所得」者は3割負担、低所得者は1割負担

(2)入院患者の食費・居住費
@「介護保険との負担の均衡を図る」として、療養病床に入院する70歳以上の高齢者の食費・居住費として、新たに「調理コスト相当」と「光熱水費相当」を自己負担化(本来、入院と食事は治療の一環のはずだが…)

A 70歳以上、住民税課税者、多床室
 …食費(食材料費+調理コスト)=4.6万円+居住費(光熱水費相当)=1.0万円+1割患者負担=4.0万円で、自己負担額は月額9.6万円
 (現行の自己負担額は月額6.4万円、介護保険はモデルケースで月額8.9万円)
 (別途、おむつ代負担/平均1.5万円、通算180日を超えて入院していると「入院基本料」の15%が自己負担/平均3.2万円)
 …2006年10月から70歳以上、2008年度からは65歳以上に適用予定

(3)高額療養費の自己負担限度額
@定額の限度額を現行の月収の25%水準から、賞与を含む総報酬をベースとした月額の25%水準に引き上げ、「一般」で現行の72.300円が80.100円へ
A医療費(かかった医療費から定額限度額を控除)に連動した1%の定率部分も、2%に引き上げ
B70歳未満の「上位所得者」の基準が、「月収56万円以上」から「月収53万円以上」へ拡大
 …2006年10月から実施目途

C2006年実施の公的年金等控除等の見直しより、「現役並み所得」者の最低年収額が下がり(夫婦世帯で年収620万円以上が520万円以上に)、70歳以上の「現役並み所得」者は、120万人(6%)から200万人(11%)に拡大
   …2年間は高額療養費の上限を「一般」の水準に据え置く経過措置

D人工透析患者の自己負担上限も「検討する」→1984年から制度を導入(「普通の人」より所得のある人は負担限度額を引き上げる方向)

E新たに「高額医療・高額介護の合算制度」を設ける

(4)現金給付(傷病手当金、出産手当金、埋葬料)
@ 傷病手当金、出産手当金は、支給額に賞与を反映させる一方、任意継続被保険者に対する支給廃止を提示
A埋葬料は定額とし、一律10万円支給に
B出産一時金の水準について「検討する」

(5)経済財政諮問会議(民間議員)、財務省の提案項目を「参考」として示す
@「高齢化修正GDP」による総額管理
A保険免責制の導入
    外来受診1回当たり1000の場合…2025年度で4.0兆円の削減試算
B診療報酬のマイナス10%改定…2025年度で4.9兆円の削減試算
C一般病床を含む入院患者の食費・居住費の自己負担化…2025年度で0.7兆円の削減試算
D市販類似医薬品(又は非処方せん薬)の保険給付外し
E保険給付は後発品の薬価までとし、患者が先発品を選択した場合は、差額を自己負担化 

【論点整理】 

(1)日本の患者負担は先進国でトップ、限界の状態にもかかわらず、厳しい負担増計画が目白押し→介護保険や現役世代と比較して(「二分法」で対立させて)、患者負担をさらに重くする手法

(2)保険免責制の導入は、健保法に定めた「療養の給付」=医療そのものを現物で給付において、一部負担金とは別個に、一定金額以下の医療については保険給付を免責することはできるのか
  実質負担が4割、5割になることは、前回の健保改悪で負担は3割という国会答弁、健保法附則に違反する

(3)医療保険給付費の伸びを経済・財政にあわせて総額管理することができるのか 
  ○いずれも国民皆保険制度の根幹に係わる重大問題 


3-厚労省「試案」―中長期の抑制策―「都道府県医療費適正化計画」

(1)都道府県が策定する「医療費適正化計画」(新設)、医療計画、健康増進計画、介護保険事業支援計画の実施を通じて、各都道府県の医療保険給付費の抑制に道筋をつける(厚労省は、2001年に「老人医療費伸び率管理制度」を導入しようとした経験から、全国一律の医療費総額の抑制は、「適当ではない」との考え)

(2)都道府県ごとに政策(数値)目標を明記した、「都道府県医療費適正化計画制度」を導入、法制化→2008年度からスタート
@2008年度から2012年度までの5年間を第1期の計画期間、終了年度における削減数値も示す…「生活習慣病対策」「平均在院日数の短縮」という中長期の抑制策        
A2015年度の全国政策目標
・糖尿病などの患者・予備群を25%減少
・ 全国平均在院日数(36日)と最短の長野県(27日)との差(9日)を半分に縮小(4.5日)
・医療保険給付費の試算 2015年度▲2.0兆円、2025年▲6兆円 
Bいわゆる生活習慣病対策
   定義…「生活習慣病とは、不適切な食生活、運動不足、喫煙などで起る病気」「『不健康な生活習慣』の継続により、『予備群(境界領域期)』→『内臓脂肪型肥満に起因する生活習慣病』→『重症化・合併症』…」
   「健やか生活習慣国民運動」の展開
   「1に運動、2に食事、しっかり禁煙、最後にクスリ」
   2007年度までに「健やか生活習慣国民運動推進会議(仮称)」を設置
   2008年度から国民運動スタート
   国の基本方針に基づき、都道府県健康増進計画と共通で、患者・予備群の減少率
   目標、健診・保健指導実施率目標を設定
C平均在院日数の短縮
  「施設」から「在宅」への流れを入院日数の短縮を軸に、診療報酬上も見直し「27日は計画策定時に固定」するので、平均在院日数の全国目標は27日が上限になる見通し
   都道府県医療計画と共通で、糖尿病などの入院日数短縮の数値目標、医療機能連携の目標などを設定
   療養病床への「病床転換を進めるため、医療保険財源を活用した支援措置」(支援金)も行う(注) 

(3)保険者に「保健事業の本格実施」を義務化
@ 保険者は「都道府県に設置される保険者協議会の活用」を図り、「健診・保健指導事業計画(仮称)」を作成、健診と事後の保健指導を実施
→40歳以上の加入者への健診・保健指導を義務化(40歳未満に対しても「実施に努める」)
A「外部委託を含め、民間活力を活かし」
B自営業者等の健診は、市町村国保への公費による財政支援
C保険者による「後期高齢者医療支援基金(仮称)」の負担額を、目標達成度を踏まえて、加算・減算

(4)計画の実施対策
@ 国は都道府県に対して目標の標準を示し、実現のため「診療報酬体系の見直し」や「必要な財政措置」を行って、「都道府県や関係者の取組みを支援」する(目標未達の都道府県には財政負担を求める) 
A生活習慣病の予防対策の目標設定、健診・保健指導は保険者が実施主体に
  都道府県→保険者への指導・助言・調整
  市町村→健康増進の普及・啓発活動

B平均在院日数の政策目標は、都道府県が実施主体に 
  「在宅での看取り」の推進、「病床転換」の支援 

C都道府県は3年目の2010年度に、計画の中間対策(3年目の段階で、短期的な抑制策をさらに強めることも)
   また、国に対し「診療報酬体系に関する意見具申を行い、国は真摯に対応」

D第1期計画終了時―2012年度の対策
   後期高齢者医療制度と国保において、各都道府県の平均在院日数の目標達成度に応じて、「費用負担の特例」を設ける(目標達成度によってペナルティーも)

E都道府県は、国に対して、「医療費適正化に資する特例的な診療報酬の設定について申し出ることができる」
  国は、「当該都道府県のみに適用される特例的な診療報酬を設定することができる」

(5)都道府県の「保険者協議会」は、国保、(政管)公法人支部、健保組合等で構成し、「前期・後期高齢者医療制度の運営、都道府県の医療費適正化計画」を協議、推進

【論点整理】

(1)2025年度医療保険給付費56兆円という厚労省試算は過大ではないか
  神奈川県保険医協会の試算では2025年度は41.2兆円(伸びを実績に近い年率2.0%と仮定して推計)、経済財政諮問会議提案の42兆円を下回り、厚労省「試案」に盛り込まれた中長期の抑制策そのものが必要ない
  日本医師会も「高い医療費予測と低い医療費の現実」について、その誤りを指摘

  医療給付費の将来推移

2006年度 2015年度 2025年度
政府見通し(伸び率4%) 28.3兆円 40兆円 56兆円
厚労省「改革」実施の場合 28.3兆円 37兆円 49兆円
諮問会議「管理目標」導入の場合 28.3兆円 35兆円 42兆円
神奈川県保険医協会試算(伸び率2%)現状維持 28.3兆円 34.6兆円 41.2兆円

(2)「健康の自己責任」の観点を導入
  国民の“有病率”そのものを下げることが重要、国を挙げての緊喫の課題
  都道府県や保険者に対する“誘導とペナルティ”の導入と同様に、国民に対しても健診や保健指導を受けないと、「自己責任」の観点からペナルティを課すことが懸念される

(3)病床数が少ない長野県の入院日数を機械的に全国に当てはめ、入院日数を一律に27日上限とすることは、地域で受け入れ体制もないまま「病院からの追い出し」という事態になりかねない

(4)地域別の診療報酬を設定することは、全国一律での医療保障を形骸化させることに繋がる危険性が

(5)「医療費適正化計画」を推進するという都道府県「保険者協議会」の役割・権限の問題→保団連として各都道府県の医療費要因の分析が必要に

(6)国の責任を後退させた医療保険の都道府県単位化と併せて、保険者(=保険財政)に健診・保健指導を義務化させるというが→健診・保健指導も「公私2階建て」方式か?
  厚労省社会保障審議会・医療保険部会のある委員は、専門誌インタビューで「保健予防は『混合診療』で(保険分と保険外分の二階建て)で」と述べる
 明治安田生命は、「疾病予防サービス事業」の本格展開を準備(糖尿病のケースで1年間に1人当たり55.000円の削減効果を推計)

(7)保健予防の充実は重要、国民の4割が自覚症状を持つか通院という実態の改善を
  健診・保健予防や早期発見・治療で重症にならないようにすることは“王道”
  →患者予防や発生を減らす各地の実践に学び、国民の有病率を引き下げることで医療費の水準も安定していく(予防の定義と内容を明確にさせることも必要)
  世界でも希な長時間労働など労働環境の悪化をはじめ社会的要因の影響が
  →厚労省の「国民生活基礎調査」でも示されたように、健診を受けに行く時間の保障や健診費用の軽減など、受診を阻害する要因を解決し、促進することこそ必要
   国が十分な財源措置を行い保健予防、健康増進を充実すべき


4-厚労省「試案」―中長期の抑制策―「医療計画・医療提供体制」 

(1)医療計画制度の見直しの基本
  「入院から在宅医療まで切れ目のない形」で、「地域の医療機能の適切な分化・連携」を進め、「総治療期間(在院日数を含む)が短くなる仕組みをつくる」
  →2007年初秋から数値目標や達成策の検討→2008年4月から新計画スタート

(2)具体策
@ 脳卒中対策、糖尿病対策、がん対策等ごとに、「地域」(当初は日常診療圏)における「医療連携体制」(当初は診療ネットワーク)を築く
A「地域内では、各医療機関が患者に対し治療開始から終了までの全体的な治療計画を共有」する(当初は“地域完結型の医療”)
B国は、「分かりやすい指標と数値目標」などの方針を策定
 都道府県は、「年間総入院日数の短縮(□□日から○○日へ)」、「健診受診率の向上(○○%へ)」「年間外来受診回数の減少(□□日から○○日へ)」「在宅での看取り率・在宅復帰率の向上(○○%へ)」などの「数値目標」を設定、全国平均との比較も明示する

 (注)「対象患者当たりの診療科医師割合(主要な対策ごと)」も指標に盛り込まれる予定(「地域医療カバー率」とされ、「県民ニーズに応じた医療資源の適正を促すための指標」との説明書き)
   「未達成の分野や全国平均を大きく下回る分野」は、次期の医療計画に改善策を盛り込む
C「高齢者が長期に入院する病床」の「居住系サービスへの転換」を促進、介護保険事業支援計画で、「居住系サービスの充実を図る」(注)   →医療保険適用病床を介護保険の居住系サービス施設(ケアハウスなど)へ転換
D都道府県に設置される「医療対策協議会」で、「地域・診療科による医師偏在問題への対応を図る」ため、「医療資源の集約化・重点化」を進める

(3)医療法人制度の見直し
  「解散時の残余財産は個人に帰属しない」よう医療法を見直す(従って、現行の「出資持ち分のある社団」は経過措置期間を経て廃止の方向)
  「公立病院等が担ってきた分野を扱えるよう公益性の高い医療法人類型を創設」

【論点整理】

(1)地域における医療連携体制について医療計画に定め、取組みを進める場合、地域偏在や小児科・産科等の診療科という形で現れる医師、看護師不足を解消する仕組み、都道府県に対する財政的な裏付け、独居の後期高齢者に対する在宅医療・介護の確保など、まず国において抜本的な制度改革を行うべき
  こうした改革を行わないまま、救急医療や災害医療などから公立病院は撤退、地域ごとに医療連携体制をつくり、在院日数の短縮を柱に数値目標で競わせる方向では、地方・地域の医療提供システムは崩壊せざるを得なくなるのでは    

(2)機械的に「地域完結型の医療」という考え方を持ち込み、「医療資源の集約化・重点化」や「医療機関の機能分化・連携」という名の下に、例えば、当該地域の糖尿病の患者数に対する、標榜医療機関数の割合が全国平均より高い地域(「地域医療カバー率」の著しく高い地域)では、糖尿病の「医療連携体制」から除外される保険医療機関が生じ、患者のフリーアクセスが阻害される危険はないか?

(3)「年間外来受診回数の減少」という全国指標の機械的な導入は、外来受診の制限など官僚統制的なシステムづくりに繋がらないか 

(4)有床診療所の見直し
  社保審医療部会の「医療提供体制に関する意見中間まとめ」では、「48時間条項」や病院に比べて緩い設備・人員配置の基準、さらに病床規制の対象外であることなどが論点に挙げられた

(5)医療法人制度改革
  厚労省「医業経営の非営利性等に関する検討会」報告(05.7.22)の要点
   ○「公益性の高い医療法人類型」の役割
   「国及び都道府県の今後の役割は、国立病院や自治体病院の設置を通じた直接医療サービスを提供する役割」から「極力撤退」し、医療サービスに関する調整や監視の役割へ転換
   「従来公的医療機関が中心となって担ってきた『公益性の高い医療サービス』(救急医療、僻地離島医療、災害医療など)については、新たな医療法人を担い手とする」
  国・自治体の病院事業からの撤退と、新たな医療法人へ肩代わり…公的医療機関の「民営化」に道を開く 

   ○株式会社の実質参入に道を開くことになる懸念が
 ・株式会社役員が医療法人役員を兼任することを認める 
 ・株式会社から医療法人が資金の支援を受けることを認める
 ・「公益性の高い医療サービス」を担う、新しい医療法人の理事長には、医師、歯科医師でない者も就任できる
 ・医療機関債の発行、有価証券の公募債の発行、「多様な収益事業の実施」、介護・障害者福祉事業(有料老人ホーム経営も解禁)の実施、寄付金の税制上の優遇などの「基盤整備」を行う
    …医療法人に資金提供した株式会社の役員が、その医療法人の理事長になることが可能になる、そして公募債を発行、多様な収益事業を展開していくことが容認される、株式会社の実質参入に道を開くことになる懸念が、実質参入の余地を許さない医療法人制度改革を


5-厚労省「試案」―都道府県を単位とした医療保険制度 

(1)「医療制度構造改革」の「基本方針」…「医療費に係る給付と負担の関係」を「老若を通して公平かつ透明なものとする」
  公的医療保険制度は、都道府県単位の再編・統合によって、都道府県ごとに給付(保険給付費水準)と、負担(保険料水準)が連動する仕組みを導入
  @政管健保…国から独立した公法人を設立、都道府県に支部を設置
       …都道府県単位の財政運営に切り替え、都道府県の医療保険給付費を反映した保険料を設定(都道府県間で年齢格差や所得格差の部分は財政調整を行う)

  A健保組合…都道府県単位の「地域型健保組合」の設立を認める
        …大企業の健保組合や共済組合は存続させる

  B市町村国保…都道府県単位で広域化をめざし、段階的に統合
         …すでに、定率国庫負担割合を削減し、都道府県が負担する「財政調整交付金」を導入 

(2)新たな高齢者医療制度の創設
@独立した75歳以上の「後期高齢者医療制度」を創設し、市町村が運営主体、財政運営は2年単位→2008年度創設目途、現行の老人保健制度は廃止
A給付費財源は、すべての高齢者から年金天引きで徴収する保険料(応益+応能)が1割、被用者保険、国保の各保険者が加入者数(加入率ではない)に応じて拠出する「後期高齢者医療支援金(仮称)」が4割、公費5割(国=約33%、都道府県=約8%、市町村=約8%)とする
   高齢者の保険料総額の1割は、施行後5年を目途に、高齢者人口の増加などに応じて引き上げ、一方「支援金(仮称)」の割合は低くなる仕組みを導入
B後期高齢者の「心身の特性等にふさわしい診療報酬体系とする」
 →重点として、終末期医療の在り方、在宅での看取りの推進、入院による包括的なホスピスケアの普及導入を明記
C厚労省試算…対象者数約1300万人、医療費11.7兆円(給付費10.6兆円、患者負担1.1兆円)
   1人当たりの保険料は年間72.000円(月額6000円、低所得者は軽減)の見込み、介護保険料(2006年度から平均月4000円程度)と合わせて、月額1万円が年金から天引き
   新たに保険料を支払う高齢者(被用者保険加入の被扶養者)は200万人

(3)「前期高齢者医療制度」 
   65〜74歳の前期高齢者については、国保・被用者保険といった従来の制度に加入し、各保険者間で加入者数に応じた財政調整(支援)を行う
   国保加入の前期高齢者の保険料は年金から天引き
 →2008年度実施目途、対象者数約1400万人、医療費6.4兆円(給付費5.4兆円、患者負担1.1兆円)

(4)保険料賦課の見直し
   健保の標準報酬月額の上限を120万円まで引き上げる
   下限は5万円まで拡大
   賞与の報酬上限も200万円から250万円まで引き上げ
   …2007年4月から実施目途

【論点整理】 

(1)国の責務を後退させたところで、都道府県単位の制度運営とし、給付と負担が連動する仕組みを導入、都道府県ごとの保険料率が可能になり、地域間の健康格差・医療格差が生じることを容認する方向へ
 都道府県ごとに、「保険料の引き上げか、保険給付費の引き下げか」を選択させることに
 厚労省は、生活保護制度の国庫負担率を現行の3/4から1/2へ引き下げることを提案→都道府県に対して生保費の過半数を占める医療扶助費の抑制を競わせる意図も
  (当初、医療扶助を国保へ移管する案も浮上していたが、2006年度は住宅扶助を地方自治体へ移管) 

(2)国の責任を後退させたままで、保険者規模を拡大しても、国保再建の道とはならないことは明らか(市町村合併での事例から)

(3)医療保険の加入者数に応じた「後期高齢者医療支援金(仮称)」は、「社会連帯的な保険料」として、サラリーマン等の保険料に上乗せされ徴収されるのか

(4)国民の健康は本来、国が守るべきもの、地方の責任へ転嫁され、自治体間の格差が拡大される恐れが→地方自治3団体なども批判

  以上