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2006年4月改定について


保団連社保・審査対策部歯科部長 田辺 隆


歯科医療を荒廃させる改定

歯科診療報酬改定の最大の特徴は,02年のマイナス1.3%を上回る過去最高の1.5%(技術料本体)のマイナス改定が,小泉首相の「医療構造改革」として強行されたことである.

 このため,歯科医療現場の実態を無視し,「医療費の配分の中で効率化余地がある」領域に歯科を位置づけ,歯科医学上の根拠や医療現場での実態,さらに患者の要求ともかけ離れた引き下げが行われた.

  「か初診」は廃止されたが,歯科初・再診料は据え置かれた一方で包括項目が増やされた結果,実質引き下げとなり医科歯科格差はさらに拡大した.同時に「か初診」に代わる長期継続管理システムが新設され,また,すべての指導管理と,訪問診療等に対しても患者への文書提供が義務づけられ算定要件が強化された.さらに,医学的根拠のない包括拡大と補綴関連点数が引き下げられたばかりか,実勢にそぐわない金パラ価格の引き下げが歯科医院経営の打撃に拍車を加えることになる.

「か初診」廃止の一方で長期継続管理システムを導入

 「か初診」は廃止されたが,「か初診」に代わって「歯科疾患総合指導料」をはじめとする長期継続管理システムが導入された.

 このシステムは初診時,患者の自署による同意の確認に基づく治療計画の立案,継続的な指導管理と病状説明,文書による情報提供が算定要件とされている.同指導料の施設基準は歯科衛生士の雇用の有無で指導料1,2に区分けされた.治療終了後の継続管理への移行は,「歯科疾患継続管理診断料」で診断後「歯科疾患継続指導料」で継続管理を行う.

 初診時からの治療と治療終了後の継続管理まで一貫した患者の長期継続管理システムである.一番の問題点は,メインテナンス中は外傷,破折,急性症状等予見しえない疾病さえも,指導料に含まれるとして特掲診療料の算定を認めないことである.さらに施設基準や患者の自署などハードルが高く,このシステムの選択ができるか否かで医療機関相互での差別化,また,長期の継続受診ができるか否かで患者の選別も進みかねないなど,歯科医療に格差を生じさせる原因になりかねない.特に歯科衛生士は,現在でも少なくない医療機関で充足できない状態を放置したまま施設基準としたことで 医療機関の機能別再編がこの面でも強化されていく危険性が強まった.

膨大な事務, 情報提供の強要 

「患者の視点の重視」を理由に,すべての指導管理料について,病状説明,治療計画,指導内容等の患者への文書提供,カルテへの添付と記載等が算定要件とされた.さらに,検査,処置,手術,歯冠修復,欠損補綴などの特掲診療の多くの項目にまで,治療内容の説明,検査結果,治療部位等々を文書で患者に情報提供,カルテおよびレセプトの摘要欄への記載が算定の要件として大幅に拡大された.

 しかし,文書提供などの大幅な事務量の増加に対する評価がまったくなされなかったばかりか,交付文書の写しをカルテに添付したうえで,その内容をカルテに記載するという,外科処置の多い歯科医療の実態を無視したことを強要している.

  「患者の視点の重視」の観点で求められることは,一律に患者に文書提供を義務づけることではなく,患者毎に異なる病状等への疑問,質問などに歯科医師が丁寧に応え,そうした説明が十分な時間をもとに行われることではないだろうか.文書提供を義務づけることで,逆に歯科医師と患者の対面時間を削ぐことが危惧されるばかりか,必要以上に歯科医師への過度の負担を強要した結果は,これまで以上に歯科診療への専念を困難にすることは明白である.

包括の拡大,回数制限から混合診療の危険性も

 初・再診料に,一部の処置と有床義歯の指導料が包括された.歯周基本治療は2回目以降を1回目に包括,歯周外科については1歯単位から3分の1顎単位に包括された.また,今回,有床義歯指導料と分離した「有床義歯調整料」では月4回まで算定できたものを1回に制限した.こうした回数制限は10月に予定されている特定療養費の廃止に代わり 保険導入を行わない「選定療養」として分類される,「回数制限超」 医療として自費徴収の対象とされる危険性をはらんでいる.

領収証発行の義務づけ

 4月から医療費の内容がわかる領収証の発行が義務づけられ,体制を整えることができない場合は6カ月の経過措置が設けられた.さらに,患者から求めがある場合は,詳細な明細書発行に努めることとされた. しかし,現行の点数表の構成は患者から見て分かりやすいものとはいえず,包括化や回数制限など実際の治療内容と請求する診療項目には相違もでてくる.領収証発行の手間やコストの評価は行わず医療機関の責任としたことで,零細な個人歯科診療所や高齢医等では対応に困難をきたすなど,現場での混乱が危惧される.

歯科医療の荒廃,格差拡大を許さず,「保険で良い歯科医療」確保の運動を

過去最高の大幅なマイナス改定の結果,歯科医療の危機と歯科医療の格差拡大が,今後予想される混合診療の拡大とあいまって進行する危険がこれまで以上に強くなった.

 このため,われわれは「保険で良い歯科医療」を求める患者,国民とともに,高齢者の患者負担増など厚生労働省の「医療構造改革」を阻止し,歯科医療の根本的改善を目指す運動を粘りづよく進めていく決意である.

2006年3月18日