ホーム


厚生労働大臣 柳澤 伯夫 様

維持期のリハビリを医療保険から除外し
保険医と現場に責任を押し付ける厚労省通知と、
日数制限の撤回を求める要請書


2007年1月24日
全国保険医団体連合会
診療報酬改善対策委員会 
医科委員長 入宇田能順

厚生労働省は2006年12月25日、「医療保険及び介護保険におけるリハビリテーションの見直し及び連携の強化について」と題した通知を出した(老老発第1225003号・保医発第1225001号)。

通知は、2006年4月診療報酬改定で導入されたリハビリの給付日数制限について、医療現場に混乱が生じていることを認めており、日数制限に対して医療現場から沸きおこった大きな批判に厚生労働省が対応せざるをえなくなっている証と言える。

しかし、通知の内容は、@「給付日数制限の撤廃」を求める患者、国民の声、マスコミの批判を全く無視し、行政としての責任を回避して、その責任を保険医や現場に押し付けるものであり、A維持期リハビリテーションを医療保険から排除する姿勢になんら変わりなく、なんら改善は行われていない。

これでは、日数制限によって医療現場でおきている「医療が必要なのに医療保険では給付されない」という医療保険制度の根幹に関わる大問題は、なんら解決しない。

また、「維持期のリハビリは介護保険から給付することにした」と言うが、介護保険は、受けられるサービスの量に制限が設けられている。

みなし指定である訪問リハビリは、訪問看護ステーションのPT、OT等が行うものが中心であったが、看護職員が行う訪問看護の割合より高い場合は認めないとのQ&A(2006年3月22日)が出されたため、PT、OT等は同法人の病院内に配置転換され、院内の急性期のリハビリに集中してしまっている。おまけに退院(所)後3月超の加算も無いことから、提供できるサービスの量は限られている。

同様に通所リハビリも、3時間以上の生活リハビリを行うことがその内容となっているため、現状では、疾病により生じた身体的不自由に対する維持期リハビリには馴染まない。そしてこれも退院(所)後3月超は加算も無い。

しかも、医療保険とほぼ同様のリハビリテーションを提供できる介護療養型医療施設は2012年3月末に廃止が予定されている。現実的に介護保険のリハビリは、限られた患者に限られた量しか提供できないことは明白であり、この問題は医療保険と介護保険の連携を強化するだけでは解決できない。そしてなにより、40歳未満の介護保険非加入者は、この介護給付の道すら閉ざされているのである。

さらに通知は、医療機関に対して、医療保険のサービス提供時に「身体機能が改善し、維持期になった場合については介護保険のリハビリに移行することを説明すること」、入院患者が医療保険のリハビリを終了する際は「入院患者の状態や意向等を踏まえ、退院後調整に努めること。特に維持期のリハビリとの継続性に配意し、在宅に復帰する者に対して、居宅介護支援事業者との調整等について支援すること」、外来患者が医療保険のリハビリを終了する際は「急性期、回復期及び維持期のリハビリの意義及び内容の違いについて説明するとともに、患者が速やかに介護保険のリハビリを受けられるよう、居宅介護支援事業者との調整等を行うこと」等を新たに求めている。しかしこれは、厚労省が「給付日数制限導入」の混乱の責任を回避して、その責任を保険医や現場に押し付けようとするもので、容認できない。

そしてこれらの点にも増して許し難いのは、厚労省が、リハビリテーションそのものは医療行為であると認めていながら、日数制限超のリハビリテーションを「回復の見込めない状態の患者への医療であるため、医療行為ではあっても医療保険からではなく、介護保険から給付する」ことにしたとしている点である。その結果、医療としてのリハビリテーションは、現場の臨床保険医の医学的判断ではなく、保険給付日数という一律基準によって打ち切られることになってしまった。これは、患者の療養権を奪うものであると同時に、医師の専門的判断と健保法の給付原則である「療養の給付」規定を踏みにじる重大事態である。このようなことを許せば、今後、国や自治体が「医療費適正化」を強引に押し進める中で、2008年改定以降、同様の手法による生活習慣病や慢性期入院、終末期医療、歯周病治療等のいわゆる慢性・長期の医療への給付制限導入を許すことにもなりかねない。

「維持期の療養を医療保険給付の対象から外し、医療保険給付の範囲を、改善や回復の見込みのある病態に限定する手法は、患者の人権を侵害する極めて危険な考え方であり、断じて容認できない。」

政府・厚労省は、このような医療保障のあり方そのものにも関わるようなことを、診療報酬をつかって強引に現場や国民に押しつけるようなことはやめるべきである。我々は、老老発第1225003号・保医発第1225001号通知の即時撤回を求めるとともに、改めて「リハビリの算定日数制限」そのものの撤廃を強く要求する。