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厚生労働大臣 舛添 要一 様

中央社会保険医療協議会 委員各位

社会保障審議会 委員各位

後期高齢者医療の診療報酬体系の骨子(案)(たたき台)に対する要望



2007年9月10日

全国保険医団体連合会

診療報酬改善検討委員会

医科委員長 武田 浩一

歯科委員長 池  潤

 9月4日に、社会保障審議会後期高齢者医療の在り方に関する特別部会は、「後期高齢者医療の診療報酬体系の骨子(案)(たたき台)」(以下、「たたき台」)を発表した。

しかし、「たたき台」は、次に指摘するとおり、後期高齢者が必要な医療を受けられなくなる危険性をはらんでいる。

「たたき台」を踏まえた論議の場は、今後社保審医療部会、医療保険部会の議論を経て、再度後期高齢者特別部会で取りまとめられた上で、中医協に移るが、次に指摘した問題が発生しないよう、強く求めるものである。

なお、当会は、後期高齢者医療の診療報酬を75歳未満と切り分けて独立させることに従来から反対している。「たたき台」でも、「医療の基本的な内容は、74歳以下の者に対する医療と連続しているもので、75歳以上であることをもって大きく変わるものでない」と指摘しており、後期高齢者の診療報酬を別建てとすることに改めて反対を表明するものである。

第1の問題は、高齢者差別の老人診療報酬を是としている点である。

「たたき台」では、「累次の老人診療報酬の改定等により、在宅医療の推進、入院療養環境の向上や長期入院の是正、あるいは漫然・画一的な診療は行わないことや、複数医療機関での受診や検査、投薬等はみだりに行わないことといった取り組み」をさらに進めるとしている。

過去にも年齢で高齢者の医療を制限する差別的な老人点数を設定していたが、医療現場や患者さんからの声に押されて制限を撤廃し、2006年改定で廃止された。

「棄民政策」ともいうべき、こうした高齢者差別の診療報酬は、老人への医療を差別する診療報酬を是として、別建ての後期高齢者医療保険制度を導入するべきではない。

第2の問題は、フリーアクセスの否定である。

「たたき台」では、「後期高齢者を総合的に診る取組の推進」として、@患者の病歴、受診歴や服薬状況、他の医療機関の受診状況等を一元的に把握する、A基本的な日常生活の能力や認知機能、意欲等について総合的な評価を行い、結果を療養や生活指導で活用する、B専門的な治療が必要な場合には、適切な医療機関に紹介し治療内容を共有する、の3点を役割とする「主治医」を診療報酬で評価する方向性が示された。

「たたき台」では、主治医の具体的な要件や報酬は明らかにされていないが、上記@〜Bの実施を基準として、かつての「外来総合」のような定額制・包括制の診療報酬が導入されるならば、この報酬を算定している患者が他の医療機関へ受診することについては、併算定制限が行われることとなる。

国保中央会が2006年12月25日に発表した「高齢社会における医療報酬体系のあり方に関する研究会報告書」では、「後期高齢者はかかりつけ医に登録することを原則とし、かかりつけ医は登録した後期高齢者数に応じて定額の医師報酬を受け取り、診療に対応した出来高払いと併用する」とすることを提言しているが、これでは、1人の医師にしかかかれなくなってしまい、フリーアクセスの否定につながる。

なお、主治医であるか否かにかかわらず、医師が治療を行うにあたって@〜Bに配慮することは必要であり、こうした役割を診療報酬で個別に評価するべきであると考えるが、@〜Bを診療報酬算定の要件として、包括点数を導入し、登録人頭払いに道を開くことには、反対する。

第3の問題は、「医療から介護へ」と称して患者から必要な医療を奪う問題である。

「たたき台」の「1.後期高齢者にふさわしい医療(基本的事項)」では、「どのような介護・福祉サービスを受けているかを含め、本人の生活や家庭の状況等を踏まえた上での医療が求められる」とされている。

このこと自身は、当然である。しかし、「たたき台」では触れていないが、厚生労働省は、医療と介護の「一体的なサービス提供」を打ち出し、診療報酬と介護報酬を「融合」させた報酬体系の導入を議論している。2006年の疾患別リハビリテーションの改定では、医療保険で提供すべき治療を介護保険に移し、医療保険だけでは治療が完結できない事態を生み出し、リハビリを患者から奪い取った。

このような「医療から介護へ」の流れは、患者から必要な医療を奪うこととなり、現物給付方式を根底から崩すことにつながる。

また、訪問看護については、介護保険給付が優先されて区分支給限度額の枠内となるため、訪問看護が必要でも訪問介護を選択する場合が多く、訪問看護がその役割を十分に発揮できないとの指摘がある。訪問看護は、在宅医療を進める上での大きな柱であり、必要に応じて訪問看護を実施できるよう、医療保険給付に戻すべきである。

居宅系施設については、外部からの医療の提供に対する適切な評価の在り方について検討すべきであるとしているが、必要な医療が制限されないように、十分配慮すべきである。

第4の問題は、「たたき台」が、在宅や施設をめぐる現状を無視したまま、入院から在宅・居宅へと診療報酬で誘導しようとしていることである。

特別養護老人ホームの待機者数は、全国で30万人以上と推計されており、介護老人保健施設も介護療養型医療施設も定員いっぱいの状況である。

こうした中で、介護療養病床の廃止と老人保健施設等への転換が予定されているが、今年、3月7日に厚生労働省老人保健局が発表した都道府県における「療養病床アンケート調査」では、日中・夜間とも介護できる人がいないとの回答が、「医療療養病床(54.3%)」「介護療養病床(61.4%)」にのぼっていることが明らかとなっており、このままでは、多数の「介護難民」「療養難民」を生み出すことが予想される。

後期高齢者の対象者は、すでに一部負担金が引き上げられ、来年4月からは、新たに保険料を徴収される。在宅では、介護を行える人もいない。

在宅の診療報酬や医療と介護・福祉との連携強化、生活を見越した計画的な入院の評価を引き上げることは当然であるが、こうした状況が改善できるまでは、介護療養病床の廃止や入院医療切捨て政策を進めるべきではない。

第5の問題は、「たたき台」が、公的医療費抑制策から検討されており、「医療崩壊」を食い止める視点がないことである。

 「医療崩壊」をストップさせ、必要な医療を提供できるようにすることは、焦眉の課題であり、後期高齢者の医療のあり方を検討する上でも、大きな柱とすべきである

絶対的な医師不足と低診療報酬という公的医療費抑制政策が、「医療崩壊」を生み出したことは明らかであり、医療崩壊をストップさせるためには、開業医を含めた診療報酬全体の底上げと、労働環境の改善が必要である。

 第6の問題は、歯科医療の評価が不十分なことである。

在宅歯科医療について、連携のための診療報酬上の評価の在り方は指摘されているが、そもそも在宅の項目でしか歯科医療をとらえていないことに大きな問題がある。後期高齢者の医療の在り方を検討するにあたって、外来、入院において必要な歯科医療を高齢者が受けられているかが最も重要であり、必要な歯科医療を提供できるようにするためには、高齢期に需要が多くなる補綴をはじめとした歯科診療報酬引き上げと出来高払いの堅持が必要である。このことを前提として、在宅歯科医療の改善を行うべきである。

第7の問題は、情報共有・情報提供の評価の問題である。

 「たたき台」に記載された内容のうち、医療従事者間の情報共有や介護・福祉サービスとの連携を進めること、退院後の生活を見越した計画的な入院医療を行うこと、病状の急変時等入院が必要となった場合への対応を行うことは重要であり、必要なカンファランスを行った場合や、退院時等の指導・援助への診療報酬の評価を行うことは重要である。

 ただし、情報提供やカンファランスの実施を診療報酬に包括して、算定の前提にするべきではなく、情報提供やカンファランスを行った場合は、個別に請求できるようにすべきである。また、個人情報保護法に十分に配慮した取扱いにすることが求められる。