厚生労働省は10月26日、2007年6月に実施した医療経済実態調査の速報値を中医協に報告しました。6月単月の非定点調査のため、回答率が4〜6割(医科診療所45%、歯科診療所62%)にとどまり、回答数が極端に少ない診療科もあります。診療報酬改定の重要な基礎資料としては、不十分な調査であると指摘せざるを得ません。 同時に今回の調査からは、医科診療所(個人・無床)、歯科診療所(個人)のいずれも、医療機関経営の指標である収支差額(事業所としての収入から費用を差し引いた金額)が減少し、収支差額が医業収入に占める割合を表す「収支差率」も減少しているなど、医療機関が徹底した努力で医業経営を成り立たせている窮状があらためて浮き彫りとなりました。 前回の2005年調査と比べると、医科は、医業収入は4.3%伸びたが、「公害等診療収入」が5割の減、自費診療等の収入は約4%の減収となりました。 医業費用は収入の伸びを倍近く上回る8.3%の伸びとなりました。職員の「給与費」が15%近く増加したのをはじめ、「材料費」、「委託費」、「減価償却費」なども軒並み増加しました。職員の労働条件改善や医療機器の新規更新への努力が伺われます。あわせて、消耗品や光熱水費等の「その他の医業費用」が10.5%減少し、経費節減を徹底しています。医科の特徴は、収入の伸びを上回る経費増です。 歯科は、医業収入が2.5%減少し、保険診療収入は3.0%もの減少となりました。文書料や各種健診、当番医の手当等の「その他の医業収入」は約48%減少し半減しました。一方、自費診療収入は約11%増加しました。 医業費用は、歯科技工など委託費が約8%、歯科材料費は約9%増加し、減価償却費も約4%増えるなど、経費増を余儀なくされています。一方、「その他の医業費用」は医科と同様に減少しマイナス約6%となりました。1999年調査と今回調査の医業費用と比べると2割近く減少しており、経費節減は限界に達しているといえます。歯科は減収、経費増が特徴でです。 こうした個々の医療機関の経営努力にも係わらず、経営指標を表す収支差額と「収支差率」のいずれもが前回2005年調査を下回りました。 収支差額は、医科が前回比マイナス2.1%の222万円、歯科はマイナス9%の大幅減で122万円となりました。 「収支差率」は医科、歯科ともに前回調査より2.4ポイント減少しました。1989年の調査結果では、医科、歯科いずれも「収支差率」が40%を超えていたが、その後は縮小傾向にあります。 公表されている「収支差率」の階級別割合を見ると、医科の平均は35.8%、「40%未満」が約53%と全体の半数を超え、この内「20%未満」が21.6%に上っています。 歯科は平均が35.6%で、「40%未満」が全体の約48%となり、この内「20%未満」が16.2%を占めています。 職員の人数では、医科は前回2005年調査の看護職員1.5人が1.6人へ、事務職員も2.0人から2.2人へ増えたが、全体の人数は常勤4.9人と非常勤1.0人から常勤4.8人と非常勤0.9人へ微減しました。歯科は、歯科衛生士、歯科技工士、事務職員をはじめ全体の人数は前回調査と同数で、常勤4.2人と非常勤0.5人です。 職員体制の縮小は、医療サービスの提供体制の弱体化そのものであり、患者、国民が受ける医療の質、安全にとっても重大な影響をもたらすものです。 今回の調査結果を含めて明らかなことは、個人立の医科、歯科診療所は、収支差額と「収支差率」のいずれもが減少し、経営規模が縮小傾向にあり、医療の質の確保と安全な医療の保障が揺らぎかねない状況まで、追いつめられているということです。 次回診療報酬改定に向けて、病院勤務医の労働環境改善のために、診療所の初診・再診料を引き下げ、それを原資に夜間・時間外加算を充填し、開業医に夜間・時間外診療を担わせようとする案が浮上しています。病院に厚く診療所にしわ寄せの改定は、病院と開業医の無用な対立を招きかねません。 国民に安心、安全で信頼される医療を確保するためにも、診療報酬プラス改定と医療費総枠の拡大、患者負担軽減を強く求めるものです。 以上 |