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                          2007年12月19日
  内閣総理大臣 福田 康夫 殿
 内閣府規制改革会議議長 草刈 隆郎 殿
厚生労働大臣 舛添 要一 殿

 

混合診療の全面解禁、医師以外の医療従事者の医療行為解禁のための医療関連法の改定など医療分野の規制緩和に強く反対する

全国保険医団連合会
会長 住江 憲勇

 1、新聞報道によれば、規制改革会議は、規制改革第二次答申の医療分野の規制緩和策に、「混合診療容認」の東京地裁判決(11/7)を受けて混合診療の全面解禁と医師以外の医療従事者の医療行為解禁のための医療関連法の改定等を盛り込む予定としている。
これまでの規制改革会議における医療分野の規制緩和策の答申とそれを受け入れた歴代政府の医療政策によって、世界で冠たる皆保険制度のわが国で「医療崩壊」や「医療格差」が急速に進んでいる。
こうした「医療崩壊」を解消し、皆保険制度の理念を具体化して、国民誰もが安心して必要で十分な医療が受給できるためには、医療分野の規制緩和でなく、医療における国の責任と財政負担を強める施策である。その反対に混合診療の全面解禁を行い、また医師不足問題の肩代わりとして、看護師や助産師等に医療行為を解禁することは弥縫策であり、本末転倒である。
第一線医療を担う全国保険医団体連合会は、規制改革会議の第二次答申に混合診療の全面解禁、医師以外の医療従事者に医療行為を解禁するなど医療分野の規制緩和を拡大する施策を盛り込むことに断固反対する。

 2、規制改革会議では、混合診療の全面解禁を第二次答申に盛り込む理由に、11/7付東京地裁判決とそれに対する国の控訴を挙げている。しかし東京地裁判決は「法解釈の問題と、混合診療のあり方の問題と次元の異なる問題」としている。またご承知のように混合診療に関する判決では、これ以外にも1989年2月に東京地裁で「差額聴取時代に見られたより大きい弊害を招く」として、混合診療禁止は妥当との判決が出されている。11/7の東京地裁判決だけを理由に混合診療全面解禁の施策を求めることは一方的と指摘せざるを得ない。
また11/7付東京地裁判決に対する患者さんの受け止めは、新聞に掲載されたものでも、次のように懸念と不安を表明したものが多い。
「判決を歓迎したい気持ちはあるが、混合診療が全面解禁されると、経済的理由で受けられる治療の格差が広がってしまう心配がある」(福島市のがん患者団体「ヒイラギの会」の小形武代表世話人)、「今回の判決により、海外で有効性が確認されている未承認薬を待ち望んでいた患者にとっては、混合診療が選択肢の一つになりうるが、有効な薬は平等に提供されるべきで、承認期間の短縮こそが必要だ」(NPO法人「キャンサーネットジャパン」」東京の柳沢昭浩事務局長)など。
しかも本件事案の「インターロイキン2を用いた活性化自己リンパ球移入療法」は、2006年1月の中医協総会で06年度診療報酬改定における高度先進医療の保険導入審査の際に「適用当初から実施されているが有効性が明らかでないため」という理由で「高度先進医療」の承認が取り消されている。ちなみに他の高度先進医療の「活性化自己リンパ球移入療法」についても「時限的先進医療技術」とされて2008年3月末までに使用薬剤が薬事法認可を受けられなければ現在の「先進医療」の承認が取り消されることになっている。保険外併用療養費の「評価療養」に位置づけられている「先進医療」についても、有効性が確立していない、研究的医療という水準にある
これらの事実から求められている施策は、混合診療の全面解禁でなく、「評価療養」に位置づけられている「先進医療」も含めて安全性・有効性の確立していない研究的な医療については、国費の科学研究費等で給付すべきである。また安全性、有効性が確立され、あまねく実施すべきであると認められた治療技術については、速やかに保険外併用療養費から離脱して保険導入すべきである。さらに画期的新薬や治療材料の承認期間を大幅に短縮することである。

3、また新聞報道によれば、規制改革会議は第二次答申に、「医師以外の医療従事者も医療行為ができるように医療関連法を改め、勤務医の負担を軽減するよう求めている。具体的には、(1)看護師による感冒、便秘、不眠、高血圧、糖尿病などに対する検査、薬の処方、(2)助産師による正常分娩時の会陰切開、縫合、(3)訪問看護における看護師における死亡確認や薬の処方…などの解禁を挙げた。」とされている。
勤務医の負担を軽減することは地域医療を確保する上で緊要なことと考えるが、これら解禁しようとしている医療行為は長年の研鑽と治療活動を前提にした上での医師の診断に基づいて安全、的確に行われているものである。
医療行為を医師以外の医療従事者に解禁するためには、安全性、有効性が担保されるための医療従事者の研修体制の十分な確保を含めた慎重な検討が必要である。勤務医の負担軽減をはかるためには、診療報酬の保障等の措置が必要である。それなくして医師以外の医療従事者への医療行為の解禁を軽々に行うことは弥縫策のそしりをまぬがれず本末転倒と指摘せざるを得ない。

4、規制改革会議は、「経済に関する基本的かつ重要な政策に関する施策を推進する観点から、内閣総理大臣の諮問に応じ、経済社会の構造改革を進める上で必要な規制の在り方の改革に…関する基本的事項を総合的に調査審議すること」と内閣府本府組織令で規定されている。しかし、現在の規制改革会議は組織令を逸脱して国民生活や医療分野に関する重要事項についてまで内閣総理大臣へ答申している。これは越権行為といわざるをえない。こうした越権行為を許し、その答申を政府の政策に重用してきた小泉、安部両内閣によって、国民格差、医療格差は拡大するとともに、国・地方の負債も増大した。
全国保険医団体連合会は、規制改革会議が組織令に基づいた調査審議を行うことに専念し、医療分野に関する調査審議、内閣総理大臣への答申を行わないよう強く求めるものである。

以上