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2008年度 医科診療報酬改定について


全国保険医団体連合会
副会長 川崎 美榮子

 

1 4回連続のマイナス改定では「医療崩壊」を止められない
今次改定は、本体部分を0.38%引き上げるものの、薬価・材料費を1.2%引き下げるため、全体では0.82%のマイナスとなった。
財務省や経済財政諮問会議の民間議員が診療報酬本体の大幅引き下げを強く求めるなかで本体プラス改定となったことは、患者、国民、医療担当者の「ストップ医療崩壊」の願いと運動の反映であるが、全体としては4回連続のマイナス改定であり、これでは「医療崩壊」をくい止めることはできない。
本体部分は、医科0.42%、歯科0.42%、調剤0.17%の引き上げと言われているが、医科では、産科・小児科や極早期の急性期医療への重点配分が行われ、開業医(無床診療所・有床診療所)や中小病院では、本体についてもマイナス改定となる。
進行する「医療崩壊」にストップをかけることは国民的課題であり、財源シフトという姑息な手法ではなく、緊急に財源措置を行って診療報酬を引き上げるよう、強く要望する。

2 大病院の報酬だけでなく、開業医や中小病院の報酬も正当に評価すべき
診療所と200床未満の病院で算定する「外来管理加算」について、5分を目安とする時間要件が導入された。
また、診療所の外来でのみ算定できた「100cu未満の皮膚科軟膏処置」、「その他の湿布処置」と、病院・診療所の外来でのみ算定できた「100cu未満の第一度熱傷に係る処置」、「洗眼処置」、「点眼処置」、「点耳処置」、「簡単な耳垢栓除去」、「鼻洗浄」が基本診療料に包括された。
外来管理加算は、看護職員や事務職員など必要な人員を雇用する原資であり、外来管理加算への時間要件の影響や一部の処置の基本診療料への包括化は、ただでさえ厳しい経営状況となっている開業医や中小病院をさらに追い込み、地域医療を崩壊させかねない。
真の勤務医対策を行うためには、病院の診療報酬そのものを引き上げると共に、地域の第一線医療を担う開業医や中小病院の診療報酬についても正当に評価すべきである。

3 後期高齢者への必要な医療提供の保障を
後期高齢者への継続的な管理(診療計画を定期的に策定し、計画的な医学管理の下に、・・・療養上必要な指導及び診療を行う、医師の研修参加を義務付け)を評価した「後期高齢者診療料」が新設された。
この点数には、医学管理等、検査、画像診断、処置が包括され、「患者の主病と認められる慢性疾患の診療を行う1保険医療機関のみにおいて算定する」とされており、フリーアクセスや必要な医療が制限されていく危険性がある。
かかりつけ医として果たすべき機能を評価するのであれば、個別に出来高で評価すべきである。

4 処方せん様式の変更は認められない
後発医薬品の普及を促進するため、@後発医薬品への変更不可の場合のみ所定のチェック欄に、署名又は記名・押印する、A後発医薬品の銘柄指定の処方せんを受け付けた薬剤師が、処方医に疑義照会せず別銘柄の処方を行う、などの改定を行った。
処方にあたっては、剤型を含めて効能・効果を考慮して処方しており、処方せん様式の変更を行うべきではない。また、後発医薬品の銘柄指定の処方せんを受け付けた薬剤師が、処方医に疑義照会せず別銘柄の処方を行えるようにすることは、認められない。

5 疾患別リハビリテーションの選定療養化について
疾患別リハビリテーション料については、逓減制が廃止されたものの、疾患別リハビリテーションの点数が引き下げられた。また「算定日数上限」が廃止され、「標準的リハビリテーション実施日数」となり、これを超えた場合は1か月13単位まで算定できることとなったが、1か月13単位を超える場合は選定療養として自費徴収ができることとされた。
これは、医療保険給付の範囲を限定するものであり、患者の人権を侵害し、国民皆保険制度の根幹を破壊する。
こうした選定療養化は撤回すべきであり、個々の患者の必要性に応じて維持期も含めてリハビリ医療が医療保険で算定できるようにするべきである。

6 有床診療所、中小病院における入院医療の評価が必要
(1)療養病床の入院基本料
これまで療養病床の医療区分1の点数は、実際にかかる費用の8割程度しか保障されていなかったが、病院の医療区分1・ADL区分3(入院基本料D)と有床診療所の点数は据え置かれ、病院の入院基本料A,B,C,Eは引き下げられた。
慢性期入院医療の包括評価調査分科会が中医協に提出した「中間報告」でも、「医療区分1に関して入院医療を必要としないという政策判断がなされ、診療報酬についてもコストに見合わない点数が設定されていることについては、当分科会として大きな疑問を呈さざるを得ない」としている。
この改定は、中医協におけるこの間の論議や患者・国民、医療担当者の切実な要求を無視するものであり、早急に医療区分1の引き上げを行うべきである。
(2)有床診療所入院基本料
有床診療所入院基本料では、夜間における緊急体制確保が新たに評価されるものの、経営が維持できる点数ではない。地域に根ざした有床診療所の役割を評価し入院基本料を引き上げるべきである。
(3)7:1入院基本料
7:1入院基本料については、新たな条件をつけず病棟単位での算定を可能とするよう、要望してきたが、看護必要度が導入され、病棟単位での算定は認められなかった。
看護職員の配置は、欧米諸国と比べて著しく低いことが従前より指摘されている。看護必要度を新たな要件とするのではなく病棟単位での算定を可能とすべきである。
(4)回復期リハビリ病棟への成果方式の導入
回復期リハビリテーション入院料に、新規入院患者の1割5分を重症患者とし、重症患者の3割以上が退院時に日常生活機能が改善していることを要件とした「重症患者回復病棟加算」が新設された。
障害別、療法別で、評価方法は様々で、改善度合いを不公平なく評価することは極めて困難で、これを実施すれば患者が選別されていく危険性が高い。成果方式の導入を行うべきではない。
(5) 特殊疾患療養病棟入院料等の対象から脳梗塞等に伴う障害等を除外
「特殊疾患療養病棟入院料」「障害者施設等入院基本料」について、脳梗塞等に伴う障害等を対象から外したが、筋ジストロフィー等に比して、医療ニーズが低いという根拠は乏しい。脳梗塞等に伴う障害は対象から除外すべきではない。
(6) 1入院当りの包括点数の導入
15歳未満の鼠径ヘルニア手術について、5日以内の入院点数を包括した「短期滞在手術基本料3」が新設された。これは、経団連の「1入院当り定額払いに改める」要求に応えたもので、DRGに向けた突破口となる。医療提供にかかる諸費用を正当に評価するためには、包括・定額払いではなく、「出来高払い」を原則とすべきである。

7 診療報酬引き上げに向けて、今後さらに運動を強める
保団連では、昨年6月の代議員会で2008年診療報酬改定要求を決定し、厚生労働省、中医協委員、衆参国会議員、医療団体、患者・国民に診療報酬の総枠拡大と具体的な改善要求を訴え、会員とともに運動をすすめてきた。
その結果、当初は大幅なマイナス改定といわれていた状況を大きく変え、0.38%ではあったが本体プラス改定を実現することができた。また、診療所の再診料の引き下げ阻止、小児科外来診療料の引き上げ、ノンストレステストの対象の拡大、10:1入院基本料の引き上げ、障害者施設等入院基本料の対象の拡大などにつながった。
診療報酬改善に向けた会員のご尽力に、心より感謝を申し上げる。
しかし、これでは開業医や中小病院の経営はますます悪化し、「医療崩壊」は止まらない。さらに、原油価格高騰による諸物価値上げが医療機関の経営を圧迫している。
保団連では、国会において、「医療崩壊」を解決する観点から診療報酬改定率や主な改定項目について正面から議論し、緊急に財源措置を行って診療報酬を引き上げるよう、今後さらに運動を強めるものである。