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基礎的技術は引き上げられたが、歯科医療崩壊をくい止めるにはほど遠い改定…新たな長期継続管理体系を導入


全国保険医団体連合会
歯科代表 宇佐美 宏

 

 今次改定は、歯科診療報酬本体は0.42%の引き上げとしたが、薬価・材料費を1.2%引き下げ、全体では0.82%引き下げ4回連続のマイナス改定となる。中医協の医療経済実態調査でも前回調査と比べ、歯科診療所の収支差額はマイナス9%の大幅減で、過去20年間で最も少ない収支差額に落ち込み、歯科医療は崩壊の瀬戸際にまで追いつめられている。わずか0.42%の引き上げでは今日の歯科医療危機を打開できないことは明らかであり、断じて容認することは出来ない。
また、「歯科疾患総合指導料」に代わり、口腔単位の継続管理を名目に新たな継続管理体系の新設、歯周治療体系の見直し、ラバー加算、歯肉息肉除去術をはじめ医学的根拠のない包括の拡大、後期高齢者を差別する在宅訪問診療の見直しなど、日常の臨床現場に新たな矛盾と困難を持ち込む改定が行なわれた。また、離業や転職が相次いでいる歯科技工士の技術と労働に対する評価は今回も放置されている。こうした改定に改めて強く抗議する。

 改定内容の全面的な分析と評価は今後出される告示や通知を踏まえて改めて行なうが、現時点での主要な特徴と問題点を以下に指摘する。

要求が反映した基礎的技術の評価と新技術の保険導入
第一の特徴は、初・再診料、初期齲蝕小窩裂溝填塞処置、局部床義歯が引き上げられ、2回目以降の歯周基本治療の復活、支台築造印象、テンポラリークラウンが新設され、長期にわたって行なわれなかった新規技術や先進医療の保険導入が、接着ブリッジによる欠損補綴、レーザー応用による齲蝕除去など6技術で行なわれたことである。また、診療への専念を疎外してきた患者への文書作成は原則3ヶ月に1回に、歯科訪問診療料や補綴時診断料など5項目が廃止された。
これらは、保団連がこの間ねばり強く要求し運動してきたことが反映されたものであり評価したい。しかし、いずれも点数の引き上げや評価があまりにも低く、歯科医療機関の経営維持が出来る点数への大幅な引き上げを求めたい。

医療機関、患者に格差を持ち込む新たな継続管理体系
第二の特徴は、本会が政策的破綻をきたしたと指摘してきた「歯科疾患総合指導料」に代わり「歯科疾患管理料」が新設されたことである。これは、@歯科口腔衛生指導料、歯周疾患指導管理料を廃止し統合した上で、口腔単位の継続管理として全ての歯科疾患を対象にし、患者の同意と管理計画書の作成が算定要件とされた。A管理計画書には、口腔内の状態以外に、患者の基本情報として全身の状態、基礎疾患、服薬状況、更に患者の生活習慣と改善目標及び治療予定を記載するなど口腔に留まらない患者の病態の管理が歯科医師に課せられた。B疾病別の指導料が廃止されたため、歯科疾患管理料を算定しないと、齲蝕又は16才未満の歯肉炎や歯周疾患患者についての指導管理が評価されなくなった。C歯周病の一時的病状安定期の継続的治療として新設された「歯周病安定期治療」の算定には、歯科疾患管理料の算定が条件とされ、歯科疾患管理料算定への経済誘導が図られており、こうした新たな継続管理を選択できる医療機関と選択できない医療機関の間で格差を生じ、また、患者の側もこうした継続管理の受診に対応できる患者と対応できない患者の間で受ける医療内容の格差が生じかねない。

「治癒」の概念などによる治療体系の見直し
特徴の第三は、歯周病治療体系が見直され「歯周病安定期治療」が新設された。これは、中等度以上の歯周病を有する患者で、歯周疾患の基本的治療等を終了し一時的な症状安定後の継続的な治療として行うとされている。本来、歯周病の継続管理については、病態の程度にかかわらず、進行を防ぎ、ひいては治癒を目指して行うべきものである。しかし、今回対象が「中等度以上」と限定されたことから、患者によっては望んでも継続管理が受けられないという不平等が生じることになる。また、前回改定で廃止された歯周疾患継続総合診療料と比べあまりにも低い評価である上に、1初診につき最長3年間の継続管理を行なうことになる。歯周病の継続管理のあるべき方向が、どのようなものなのかを今一度考え、全ての患者が継続管理を受けられるようにすべきである。また、「メインテナンス」については、「治癒後」の健康管理として位置づけられたが、長期の維持管理が必要という歯周病の特性からも、「治癒」ということで、保険給付外の取り扱いとすべきではない。

患者の求めや歯科技工を軽視する義歯の製作制限の危険
特徴の第四は、新製義歯指導料と新製義歯調整料を「義歯管理料」に一体化し新設した。1月以内は「新製有床義歯管理料」、2月〜3月以内は「有床義歯管理料」、3月以降1年以内を「有床義歯長期管理料」として算定する。現行では6月以内の有床義歯の再製作は禁じられているが、有床義歯長期管理料の新設により再製作の制限を1年に延長されることが危惧される。2年間の補綴物の再製作を禁じた補綴物維持管理料の導入以降、クラウン、ブリッジ等の再製作が急激に抑制された結果、歯科技工所は深刻な経営危機に陥っている。少数歯義歯は僅かに引き上げられたが前装鋳造冠は引き下げられ、この上、義歯新製の期間が延長されるならば、ますます歯科技工所は深刻な状況におかれ、高齢社会での歯科保険医療の根幹が崩壊しかねない。

根拠も示さず初・再診料を廃止し、訪問診療を行なう歯科医療機関を制限 
特徴の第五は、後期高齢者の在宅療養を歯科医療面から支援する歯科診療所の役割の評価として「在宅療養支援歯科診療所」が創設され、「後期高齢者在宅療養口腔機能管理料」が新設された。その施設基準として、所定の研修を受講した常勤の歯科医師1名、歯科衛生士1名以上の配置とされた。また後期高齢者への訪問診療は在宅療養支援歯科診療所が行うこととされた。一方で、これまで高齢者在宅療養の指導管理を評価していた老人訪問口腔指導管理料が廃止されただけでなく、歯科訪問診療料を据え置き、歯科訪問診療料を算定した場合には初・再診料の算定は不可とされた。
歯科の在宅医療・訪問診療に対する評価は従来から低く、そのため実施医療機関の割合も少なかったが、今次改定によって今まで在宅歯科医療・訪問診療を担っていた歯科医療機関が撤退することを強く懸念するものである。

包括を名目に固有の治療行為評価がなくなる
特徴の第六は、包括化の拡大である。歯科診療報酬体系の簡素化を図ることを理由に、ラバー加算、歯肉息肉除去術が初診料、再診料に包括された。また、歯科訪問診療では初・再診料が算定できなくなり、補綴関連検査では、下顎運動路描記法、チェックバイト検査、ゴシックアーチ描記法、パントグラフ描記法が全て廃止され顎運動関連検査として定額の点数とされた。また、充填は「単純なもの」、「複雑なもの」とも引き上げたが、エナメルエッチング法、及びエナメルボンディンク法を包括し、研磨が廃止された。いずれも包括化により点数は積算されず引き下げとなる。基本診療料に特掲診療料を包括など歯科医学的にも根拠のないこうした包括化の拡大は、歯科医療費の抑制と2011年予定のレセプトオンライン請求を視野に入れた改定である。

保険診療を厳しく制約する歯科「ガイドライン」
特徴の第七は、ガイドラインの見直しである。医科と歯科のガイドラインは役割、位置づけが大きく異なっている。歯科は通知に反映され診療報酬算定を強く縛るものになっており、ガイドラインから外れた診療と算定は認めないという運用がされている。しかし、医療は患者毎に異なる治療と病態など医療の特殊性、個別性を認めることが求められており、今次改定で示された、「改訂歯科治療ガイドライン」は、あくまで歯科保険診療の参考にとどめ、歯科保険診療を制約しないよう位置づけられるべきである。

低い評価で導入された新規技術の保険導入
特徴の第八は、前述のように先進医療では歯周組織再生誘導手術(GTR)など3技術が、新規技術では非侵襲性歯髄覆罩など3技術が保険導入されたことである。しかし、施設基準や算定要件から多くの歯科医療機関にとってハードルが高く、また、レーザー使用は齲蝕歯に限定され、20点加算では器材の減価償却も困難である。新規技術の普及に向けた改善が強く望まれる。

 以上のように今次改定は、歯科医療担当者と患者の要望が一部反映されているが歯科医療崩壊をくい止めるものにはほど遠い内容であり、新たな長期継続管理システムの導入や包括化の拡大など矛盾と困難を生じさせるものである。
保団連に結集する歯科医師は、患者、国民と手を携えて歯科医療の危機を解消し「保険で良い歯科医療」の実現を目指すために歯科診療報酬の改善、混合診療阻止の運動をこれまで以上に強く進めていく決意である。