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介護報酬のさらなる引き上げ・改善を

2008年12月27日
全国保険医団体連合会
副会長 川崎 美榮子

1 3%の引き上げでは、介護崩壊は食い止められない
12月26日に開催された社会保障審議会「介護給付費分科会」は、2009年度介護報酬改定案を諮問通り了承し、同審議会の貝塚啓明会長は同日、舛添厚生労働大臣に答申した。
これまでの介護サービス向上に向けた介護給付費分科会での真摯な議論に心より敬意を要するものであるが、諮問・答申は、政府・与党が10月30日に決めた3%引き上げを前提とせざるを得ず、これでは介護崩壊は食い止められない。
報酬内容も、夜間業務負担、キャリア、地域差等には一定の評価を行っているが、通常のサービスは据え置かれている。サービスの高い施設の処遇を評価するだけでは、様々な要因でそうしたことに対応できない施設が淘汰され、結果的に介護サービスそのものがなくなる地域が生じる危険性が高く、介護崩壊を助長する危険性がある。
こうしたことから、全てのサービスについてさらに2%以上の報酬上乗せを行うとともに、区分支給限度額を引き上げるよう、要望するものである。
なお、介護保険制度は医療保険制度に比べても報酬の引き上げが保険料や自治体負担に直結しやすいという問題を持っている。
このため政府は、「改定による保険料上昇分について、09年度は全額、10年度は半額を国庫が負担する」としているが、09年度〜11年度まで改定による保険料上昇の全てを国庫で負担するよう求めるものである。

2 医療系居宅サービス全体について
保団連では、「医療系サービス(居宅療養管理指導、訪問看護、訪問リハビリテーション、通所リハビリテーション、短期入所療養介護、介護老人保健施設及び介護療養型医療施設における介護部分を除くサービス)は医療行為であり、医療保険給付に戻すべき」と要求してきた。今回の改定では実現できなかったが、「少なくとも医学的な必要に応じて医療系サービスが実施できるよう、区分支給限度枠から外すこと」を改めて要求する。
また、要介護者については介護保険給付が優先する取扱いをやめ、要介護認定の有無にかかわらず、医療保険による給付が受けられるよう、「診療報酬の算定方法」第6号の規定を削除し、「医療保険と介護保険の給付調整」を廃止すべきである。

3 リハビリテーションについて
脳血管等疾患又は運動器疾患リハビリテーションの算定医療機関は、通所リハビリの指定があったものとみなすこととされ、2時間未満の個別リハが新設された。
給付調整告示・通知が出なければ判明しないが、要介護者に対する維持期リハビリテーションが医療保険から除外され、区分支給限度額の範囲内で介護保険から給付される可能性があり、仮に今次改定ではそうした扱いがされなくても、今後、規制される可能性が高い。
2006年の診療報酬改定でリハビリテーションに日数制限が導入され、制限日数を超える維持期リハビリテーションが介護保険給付となったが、「リハビリ難民」が国会でも問題となり、2007年4月には、不十分ではあるが医療保険で維持期リハビリテーションが実施できるよう、異例の再改定が行われたところである。
そもそも維持期リハビリテーションは医師の関与を前提としたOT・PT・ST等の専門職種による医療行為であり、患者の病態に応じて医療保険から給付されるようにすべきである。
なお、リハビリテーションマネジメント加算については、訪問リハビリと介護老人保健施設・介護療養型医療施設では包括化、通所リハビリでは月1回の評価とすることが提案されているが、これは実質的なリハビリテーションの報酬引き下げである。マネジメント評価の包括化等をせず、従来どおり加算評価とすべきである。

4 介護療養型医療施設の廃止と医療療養病床の削減をやめること。
介護療養型医療施設の基本単価は、実質的には据え置かれた。
給付費分科会では、介護療養型医療施設を廃止すべきではないことや介護療養型老人保健施設における医療機能を強化する必要があることが論議されてきた。
こうした論議に真摯に耳を傾けるならば、介護療養型医療施設の廃止は撤回すべきであり、早急に撤回に向けた手続きを行うことを要望する。
介護療養型医療施設が廃止されれば、医療を必要とする要介護者が医療スタッフの少ない施設や在宅に移らざるを得なくなり、必要な医療や看護が受けられなくなる。これは今でも介護崩壊といわれている居宅介護の状況をさらに悪化させることになる。
なお、外泊や他科受診時の費用を病院の入院の際の費用にあわせて報酬を引き下げるとしているが、そもそも病院の報酬が低すぎるのであり、これにあわせた引き下げを行うべきではない。

5 介護療養型老人保健施設の基準及び報酬を引き上げること
介護療養型老人保健施設については、現行の介護療養型医療施設に比べて、休日、夜間等における医師及び看護体制が不十分である。
医師と看護職員が常時配置されていることを要件に加え、これが確保できる報酬とすべきである。
また、従来型の介護老人保健施設からの転換を認めていないが、要件を満たした施設は転換を認めるべきであり、そのためにも、医療機関からの入所割合や経管栄養又は喀痰吸引の実施者の割合を要件から外すべきである。
なお、外泊の取扱いについては、介護療養型医療施設と同様、引き下げるべきではない。

6 福祉系サービスについて
訪問介護をはじめとした福祉系サービスや居宅介護支援は、まだまだ低い評価である。介護労働者が結婚して子育てができる賃金と労働条件を保障できる報酬に引き上げるべきである。
なお、2006年改定で導入された新予防給付では、実質的に要介護1の区分支給限度額を大幅に切り下げるとともに、手をかけすぎることが自立支援にならないとして、生活援助を制限した。
しかし、買い物などの外出に対する援助などが不可能となり、その結果閉じこもらざるを得ず要介護度が悪化した事例が発生しており、委員からも生活援助を元に戻すべきとの指摘があった。
また、訪問介護事業所のサービス提供責任者の常勤要件を外す点については、10月30日の給付費分科会で委員から批判があり、また、夜間対応型訪問介護事業所のオペレーター資格要件の緩和についても11月14日の介護給付費分科会で批判がされており、これらは実施すべきではない。

7 介護報酬以外の改善課題
2009年4月より要介護認定設定基準も変更されるが、これまでと同じ状態であるにもかかわらず、これまでよりも要介護度が低くなる場合がないようにすべきである。
また、無収入でも原則として介護保険料が徴収され、低所得者ほど高い保険料となっており、これが保険料滞納者を生み出し、利用料も相俟って利用抑制を生み出している。介護崩壊を食い止めるためには、介護報酬改善とともに保険料・利用料の減免が必要である。
なお、2006年改定では、要介護1の区分支給限度額が実質的に大幅に切り下げられ、その結果必要な介護が提供できなくなった。そもそも現行の区分支給限度額の枠内では必要な介護が十分に受けられない。必要な介護が公的に受けられるよう、区分支給限度額を廃止すべきである。
さらに、要介護者は、病気に罹患している場合が多く、医療保険で十分な医療が提供されることが、何よりも必要である。また、介護保険以外の福祉サービス等の充実も不可欠である。介護報酬引き上げと同時にこうした点の改善を図り、要介護状態に陥った方が必要な医療、介護、福祉サービスが受けられるよう、要求するものである。

8 告示・通知を急げ
介護報酬改定の諮問・答申は従来になく早く行われたが、告示・通知の発出時期は未定である。
現場では、告示だけでなく通知が示されないと、どのような介護サービスが提供できるのかが不明である。
利用者・家族の立場からも、早急に告示・通知を出し、その内容を厚生労働省ホームページにアップするよう要望するものである。