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厚生労働大臣 舛添要一 殿
文部科学大臣 塩谷 立 殿


臨床研修制度の見直し案に対する意見


2009年4月17日
全国保険医団体連合会政策部

 

今回の見直し案は、医師不足・偏在対策を前提に臨床研修制度の見直しを行うことに問題があります。性急な議論でまとめられた「理念なき見直し」を拙速に行うべきではありません。

  1. 見直し案は、2年間の必修科目を8科目・部門から3科目に削減し、必修期間を10カ月程度とする内容であり、研修期間の実質的な短縮を可能とするものです。卒前・卒後の切れ目ない研修によって期間を短縮するとの意見がある一方で、実質1年の研修で基本的な診療能力は身につくのかとの批判も上がっています。

2004年度から開始し実質的には5年弱という期間では、その成果を検証することはできません。機械的な研修期間の短縮は、医師の臨床能力、医師の質の低下につながるものです。

医師不足の解消と医師の臨床能力の向上とは、別に議論されるべきです。
今後、医学部教育と卒後研修を一体的に検討することや、国民にとって必要な「専門医制度」についても国民的な議論をする必要があると考えます。

  1. 募集研修医の定員上限案では、全国の募集定員総数を08年度の約11,500人から約9,900人まで1割減らす方針です。このまま実施されれば30都道府県が削減を迫られることになり、医師不足に拍車がかかる地域が出てきます。

都道府県別の定員上限設定は、医師の偏在に一定の枠を定めるとされていますが、事実上の強制配置との批判もあります。医師の偏在は定員枠で解決されるものではなく、研修医に選択されるような研修病院をいかに県内に援助育成していくかが重要です。県内でも医療圏毎の格差が大きいという実態が、その重要性を示しています。研修制度に医師配置システムを組み込むことには無理があります。

さらに、大学病院など医師派遣を行っている病院には研修定員を上乗せするとしています。しかし、大学病院が独立行政法人化されたことにより、医学部・病院の環境が悪化し、大きな困難を抱えています。大学病院の研修満足度の悪化にも影響しており、大学病院の環境改善抜きに、研修医や若手医師を大学病院に取り戻すことは難しいといえます。

  1. 見直し案は、研修病院の指定基準を強化するとして、年間入院患者が3,000人以上であるなど5項目の基準を見直しましたが、その根拠は明確に示されていません。経過措置はあるものの、入院患者が3,000人に満たない中小病院での臨床研修を制限するものです。地域の実情や研修医の受入実績などを踏まえて対応すべきです。
  1. 臨床研修の制度自体は、長年に渡る医学生の運動や無給医の全国運動があって実現したことを忘れず、積極的に評価すべきです。諸種の研修医へのアンケート調査でも、幅広い診療能力の修得状況が著しく向上していること、社会福祉・在宅医療・健康教育への理解度も向上している事などが示されています。
  1. 医師不足の要因は絶対的医師不足であり、加えて長年の医療費抑制策からの医師の過重労働、国民の医療への要求の高まり、医療医学の進歩、刑事介入による医療の萎縮など、複合的な要因によるものです。低医療費政策を根本から転換し、医師の養成数を抜本的に増やすことこそ必要です。


あわせて、緊急対策として、医師派遣の緊急要請に応えるセンターの設置、都道府県が派遣医師を期間限定で確保するシステムづくり、ドクターバンクの開設支援など、公的責任で医師不足地域への医師派遣体制を確立する必要があります。

  1. 当会では、患者のためによい医師を育て、すべての地域に医師を確保する立場から、改めて、現行制度の十分な検証や医学部教育と卒前・卒後研修の見直しを行い、@身分保障、A経済保障、B研修保障、をさらに充実させることを要望いたします。