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自由開業医制を否定し、地域医療再生に逆行する財政審「建議」は
断じて認められない



2009年6月4日 
全国保険医団体連合会
会長 住江 憲勇

財政制度等審議会は6月3日、財務大臣に建議(意見書)を提出し、社会保障費抑制路線の堅持と社会保障財源を口実とした消費税増税を打ち出した。医療分野では、2010年度に改定予定の診療報酬の総額抑制と「配分の抜本的見直し」を求め、混合診療原則禁止の解禁を含む「私的医療支出」の拡大、「保険免責制」の導入などを課題に挙げて、医療費抑制路線を徹底することを重ねて強調した。

診療報酬は、公的医療保険による給付範囲や治療方法を定め、地域医療を支える医療機関の経営の原資でもある。02年度の診療報酬改定からの4回連続の引き下げで、厚生労働省発表の改定率でもマイナス7.53%(01年度対比)となっている。建議が、医療機関の従事者と年齢分布も職種も異なり、低賃金・不安定雇用の非正規雇用者が3分の1超を占める「民間賃金」を「十分に踏まえ、検討していく必要がある」として、診療報酬の総額抑制を求めることは言語道断である。

地域医療を支える中小病院や診療所の経営状況は深刻化し、歯科医療は危機的な状況に陥っている。医療の質と安全が脅かされている中、これ以上の診療報酬の総額抑制は、公的医療保険の給付を縮小し、地域医療の再生に逆行するものであり、断じて認めることはできない。

建議は、開業医と勤務医の収入格差を問題視して、ことさら両者の対立を煽っている。
しかし、中医協の医療経済実態調査では、開業医(個人立医科無床診療所)の収支差額は01年以降減少傾向にあり、07年調査では開業医の最頻収支差額と病院勤務医の年収はいずれも1400万円台で同じ水準である。また、厚生労働省の医療施設動態調査では、全国の医科診療所数は、前年1月と比べて08年で652、09年はわずか4の実増にとどまり減少の兆しがある。

医療費総枠を拡大せずに、診療所から急性期病院へ診療報酬を振り向ける「財政中立」の手法では、根本問題は何ら解決しないことは、08年度の改定以降も病院勤務医の過重労働がほとんど改善されていないことからも明らかである。病院勤務医の労働環境の改善と地域医療を支える診療所の役割を診療報酬で正当に評価する必要がある。

建議は、医師不足は偏在が原因であり、是正策として、「医師が地域や診療科を選ぶこと等について、完全に自由であることは必然ではない」と断じて、公的な関与で開業を規制する「規制的手法の導入」を提言した。わが国の国民皆保険制度の根幹である自由開業医制を否定するものであり、地域医療の崩壊を加速させ、地域間の健康・医療格差を助長することは断じて容認できるものではない。さらに、地域別、診療科別の保険医の定員制、保険医療機関の定数制の導入につながることも強く危惧される。

医師偏在の大元は、政府の長年の医療費抑制路線と、その帰結であるOECD水準に13万人不足している医師の絶対数の不足がもたらしたものである。医師の本格的な養成と医師が安心して働ける環境改善に思いきって公費を投入することが、地域医療の再生への大道といえる。

医療、介護など社会保障は国民の健康・生活を安定させるだけでなく、経済総波及や雇用誘発効果が高く、内需を拡大し実体経済とりわけ地域経済への貢献度が大きい。戦後最大の経済危機だからこそ、すでに破綻した社会保障費抑制路線を転換し、先進7カ国で最低の医療費総枠の拡大、突出して重い患者負担の軽減、10%以上の診療報酬の総額引き上げを行うことを強く要求するものである。