厚生労働大臣 舛添 要一 様
わが国の予防接種行政の早急な改善を求めます
2009年6月26日
全国保険医団体連合会
地域医療対策部会
部長 中島 幸裕
前略 国民医療確保に対する貴台のご尽力に敬意を表します。
安全で有効なワクチンがあって、それを接種しておればかからなくてもすんだはずの命を感染症で失ったり、重篤な後遺症を残すという事態は、大変残念なことです。
1 麻疹について
2007年春に、高校生・大学生の麻疹患者が多数発生し、その数はこの数年間ではもっとも多く社会的に大きな混乱を引き起こしました。
こうした事態を踏まえ、私たちは中学1年生と高校3年生での定期接種を早急に実施することなどを要望し、2008年4月から、中学1年生と高校3年生相当の方を対象に麻しん風しんが、定期接種となりました。
しかし、中学1年生と高校3年生相当の方への定期接種は5年間に限られていることや、2回接種をしていない方への公費でのCatch upの未実施など、これでは不十分です。
欧米諸国はいち早く予防接種の2回接種法を取り入れることで、麻疹患者の発生を年間数人から数十人のレベルまで減らしてきました。韓国では2000年から2001年にかけての麻疹の大流行を教訓にして2001年以降2回接種を徹底し、それに必要なワクチンは緊急輸入してまでも確保して、患者発生をほぼ欧米のレベルまでに減少させました。
麻疹排除のために求められる予防接種率は2回の接種ともに95%以上が目標です。しかし現在の予防接種制度を続ける限りは、2回接種を済ませた子どもたちが増えていくテンポはきわめて遅々としたものであり、今後数年間は今年のような事態を繰り返すことが危惧されます。
さらに今年は地域の一般医療機関では、麻疹の予防接種をすすめたくてもワクチンが供給されないという異常な事態が生じました。製造メーカーまかせにしない在庫確保が必須です。
2 ヒブワクチン(インフルエンザ菌タイプb)
わが国では毎年約500人の子どもたちがインフルエンザ菌による細菌性髄膜炎に罹患していると推測されています。この疾患は最近、抗生物質耐性菌が増加していることや、時に早期診断治療が困難なこともあって、今なお死亡率は数パーセント、神経系の後遺症を残す率は10-20%といわれており、子どもたちにとってきわめて危険な感染症と考えられています。その対応としてアメリカではいちはやく1990年にヒブワクチン(インフルエンザ菌タイプbワクチン)を導入することで、インフルエンザ菌による感染症を99%減少させました。
すでに世界中の100カ国以上で使用されており、WHOもその有効性と安全性を評価して、1998年には、すべての国に対して、このワクチンを定期接種プログラムに組み入れることを推奨しています。こうした流れにもかかわらずわが国においてヒブワクチンが定期接種化されていない現状は早急に改善されなければならないと考えます。
3 肺炎球菌ワクチン
肺炎は全死亡原因中での依然第4位を占めており、特に高齢者にとって肺炎は深刻な問題です。また肺炎による死亡率は高齢になるほど増加する傾向がみられます。
肺炎の予防が可能なものとして、インフルエンザウイルスのワクチン並びに肺炎球菌ワクチンがあります。インフルエンザウイルス、肺炎球菌は呼吸器感染症における代表的病原体です。肺炎球菌は肺炎のみならず敗血症、骨髄炎といった致死率の高い合併症をおこしやすいのです。また、この両者は呼吸器感染症の中ではワクチンによる予防が可能な数少ない病原体でもあります。
欧米では、この両者に対するワクチン接種が強く奨励され、高齢者、慢性呼吸器疾患、糖尿病等のハイリスクグループに対する接種率を伸ばそうとする取り組みが国家レベルで行われています。実際、米国ではすでに65歳以上の高齢者の半数以上が、両ワクチンの接種を受けています。この点で先進諸国の中で日本のワクチン行政の遅れが指摘されています。
高齢者ではインフルエンザウイルスと肺炎球菌に罹患するリスクが高く、インフルエンザ罹患後の肺炎に、肺炎球菌が関与する可能性が高いとされています。実際、インフルエンザワクチンと肺炎球菌両ワクチンを併用して接種することにより高い有用性が報告されています。
肺炎球菌ワクチンに関しては、近年欧米での急速な接種率の向上に伴い、国内でも学会、講演会、医学誌、新聞等で取り上げられる機会も増え、接種率が増加しております。2007年までに140万人が接種していますが、重篤な副作用は1件も報告されていない安全性が高いワクチンです。
ワクチン接種の向上には、重要性の認識の更なる徹底と、高齢者を中心として接種希望者に対する公費助成等社会的援助体制が欠かせません。
こうした認識にたって私たちは以下の実施を強く要望するものです。
要望事項
1 麻疹について
(1)定期接種の対象である1歳児、および第二期の年長児の接種率を高め100%に近づけること。そのための勧奨、接種しやすい環境づくり、未接種者のチェックを行政の責任で行うこと。
(2)現在実施している中学1年生と高校3年生での定期接種について、5年以後も継続し、その接種率を目標とされる95%以上に高めるために必要な措置を講じること。
(3)上記以外の年齢の子どもたちでも未接種者や、二期の接種年齢を超えても1回しか接種していないものに対して公費でCatch up接種を行うこと。
(4)国の責任でワクチンを確保すること
2 ヒブワクチン(インフルエンザ菌タイプb)について
ヒブワクチン(インフルエンザ菌タイプb)を早急に定期接種にすること
3 肺炎感染ワクチンについて
高齢者への肺炎球菌による肺炎感染を予防するために、肺炎球菌予防接種に対して、助成を行なうこと。
4 新型インフルエンザワクチンについて
新型インフルエンザワクチンの開発・生産を早急に行うこと。