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4回連続の診療報酬引き下げで診療所の損益差額は大幅減少

次回改定で地域医療を支える医療機関全体の底上げを求めます
                           

2009年11月2日
全国保険医団体連合会
政策部長 津田 光夫

厚生労働省は10月30日、2009年6月に実施した医療経済実態調査の集計結果を中医協に報告しました。6月単月の非定点調査のため、有効回答率が4〜6割(一般診療所44.0%、歯科診療所60.1%)にとどまり、回答数が極端に少ない診療科もあります。
今回、直近の事業年度の調査を実施するなど一定の改善が見られましたが、医業経営の実態を明らかにし、診療報酬改定等の基礎資料としては、不十分な調査であると指摘せざるを得ません。

同時に、今回の調査結果からも、すべての医科診療所と歯科診療所が医業経営の指標である損益差額(可処分所得ではない)、損益率のいずれもが大幅に低下しており、医業経営の窮状が浮き彫りとなりました。
「個人・入院収益なし」の医科診療所の損益差額は、前回07年6月時点の224万1000円から8.6%低下の204万8000円。損益率は前回の35.1%から30.7%に下がりました。

損益差額が減少した要因は、収益の9割以上を占める保険診療収益が2.4%の伸びに抑えられた一方、職員の福利厚生費や建物の賃借料・光熱水費、支払利息等の「その他の費用」が7割以上増加したことです。自費診療や健康診断等の収益が二桁以上伸びていることも特徴です。
医療法人や「入院収益あり」を含む医科診療所全体の損益差額は128万3000円で、前回165万4000円から22.4%低下し、損益率は前回の17.4%から12.5%に下がっています。
「個人」の歯科診療所の損益差額は、前回07年6月時点の122万9000円から2.2%低下し120万2000円。損益率は前回の35.6%から33.2%に下がりました。

損益差額が減少した要因は、医業収益は4.7%の伸びを示しましたが、医科診療所と同様に「その他費用」が4割以上伸びたためです。
歯科診療所全体の損益差額も、前回の115万1000円から112万7000円へ2.1%低下し、損益率は前回の28.7%から25.9%に下がっています。

医科診療所(個人・入院収益なし)と歯科診療所の損益差額は、2003年調査から減少傾向にあります。2001年調査時点と今回の09年調査を比べると医科診療所は15.6%減少し、歯科診療所も4.2%減少しています。受診抑制の進行とともに、2002年診療報酬改定から4回連続の引き下げで、厚生労働省発表の改定率でもマイナス7.53%(01年度対比)となっていることが大きく影響しています。開設者の報酬や診療所施設、医療設備の改善に充てられている損益差額の減少傾向が続くならば、地域医療を支えている診療所機能が弱体化することが危惧されます。

今回の結果をマスコミの多くが、「開業医月収 勤務医の1.7倍」と報道しています。
勤務医は通常勤務に加えて当直を行うなど、大変激務であり、勤務条件の改善と報酬引き上げが実施できるよう診療報酬を大幅に引き上げる必要があります
しかし、開業医についても損益差額が全て給料・賞与となるのではなく、この中から事業にかかわる税金や借入返済、退職金積み立てなどの費用を捻出しなくてはならず、経営リスクを負い債務保証をしなければなりません。
さらに、医科診療所(個人・入院収益なし)の最頻損益差額は、公表されている前回07年調査では124万6000円で、病院勤務医の平均給料・月額と同水準であり、歯科診療所(個人)の最頻損益差額は、76万2600円でした。

また、保団連が実施した「大阪府の開業医の経営・労働実態調査」によれば、開業医の月当りの時間外労働時間の平均は過労死ラインといわれている月80時間を超える82.82時間であり、開業医の経営も労働条件も大変厳しい状況に陥っています。
地域医療は病院、診療所の連携によって成り立っており、勤務医の労働環境の改善と、地域医療を支える診療所・病院の役割を診療報酬で正当に評価することが、「医療崩壊」の建て直しにとって必要です。診療所から急性期病院へ診療報酬を振り向ける「財政中立」の手法では、根本問題は何ら解決しないことは明らかです。

長妻昭厚生労働大臣が10月26日の会見で、「どこをへらしてどこに充てるというよりも、全体を手厚くする必要がある」と明言しているように、次回改定では、地域医療を支える医療機関全体の底上げを行うよう強く要求するものです。

                                            以上