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医療現場の実態を十分に把握し、病院、医科・歯科診療所とも
診療報酬の大幅引き上げを
…事業仕分け第2WG(診療報酬関連等)に対する談話…

2009年11月12日
全国保険医団体連合会
会長 住江 憲勇

11月11日に開催された行政刷新会議「事業仕分け」では、診療報酬の配分(勤務医対策等)の検討にあたって財務省主計局から@「開業医月収が勤務医の1.7倍」であることから開業医と勤務医の報酬を公平になるように見直すべき、A診療科によって収支差に大きな格差があり、収入が高い診療科を見直すべき、B過去10年間で公務員給与は10%下がり物価は2%強下がっており、診療報酬全体の伸びは公務員の人件費カット及び物価のデフレ率を勘案すべき、との3点の提案がされました。
1時間程度の検討で、診療報酬の配分(勤務医対策等)については16人の評価委員全員が見直しと判断し、具体的内容として、@開業医・勤務医の平準化、A収入が高い診療科の見直しを行うことについて第2WGの結論としました。なお、B公務員・人件費、デフレの反映については賛成が半数で、今後考慮いただきたいとの意見となりました。

行政刷新会議「事業仕分け」は、財務省内で行っていた予算削減作業と規制改革会議の規制緩和作業を合体させて、一気呵成に事業と予算の削減を行おうというような仕組みですが、作業に参加しているメンバーの顔触れなどからみても、そこでの検討が、本当に国民の暮らしや福祉を増進する立場から行われていると言えるのかどうかは、はなはだ疑問と言わざるを得ません。
国の財政の無駄遣いをただすのは当然であり、必要なことです。しかし、実際の検討にあたっては、その内容や影響を十分に熟知した専門家による検討が不可欠です。
医療全体については社会保障審議会医療保険部会や医療部会、診療報酬改定内容については中央社会保険医療協議会において論議が進められていますが、行政刷新会議第2WGの結論にとらわれず、いかに国民医療を守るかを前提に真摯な議論を行うよう要望します。

改定率については、長妻厚生労働大臣が10月初旬に2010年度診療報酬改定分として3000億円程度を来年度予算で概算要求することを決めたとの報道がされていましたが、これを改定率に換算すれば約4%の引き上げとなります。実際には閣内での了承が得られず、10月15日に提出した概算要求では、具体的な数字は盛り込まない「事項要求」とされましたが、11月3日に足立政務官が東京都内での講演で、「3.16%を超えるぐらいのアップがないと絶対に無理だ」と述べています。

2002年からの4回連続マイナス改定の合計は、2001年対比でマイナス7.53%になり、仮にマイナス改定がなかった場合と比べた医療費の削減額は13兆円にものぼっています。
このことが「医療崩壊」を生み出した最大の原因です。診療報酬の配分見直しによる「財政中立」では問題が解決しないことは、08年改定以降も勤務医の過重労働がほとんど改善されていないことからも明らかです。
まず、医療費の総枠を拡大することが新政権にとって最重要課題であり、3〜4%の引き上げでは「医療崩壊」を解消するには不十分です。

財務省からは「開業医の年収約2500万円に対して勤務医の年収約1500万円であり、開業医と勤務医の報酬を公平になるように見直すべき」との提案がされましたが、開業医の経営リスクや勤務医との年齢格差については、触れられていません。
また、個人開業医は院長給与ではなく収支差のみが示されました。この収支差からは、事業にかかわる税金や借入金返済、退職金積み立てなどの費用を捻出しなくてはなりませんがそうしたことは勘案されていません。さらに、開業医の収支差の最頻値は約1500万円で勤務医とほぼ同じです。まして、医療従事者と年齢分布も職種も異なる公務員給与を比べることは適切ではありません。
診療科による収支差は、各科毎のサンプルが数十医療機関程度という状況であり、収支差の原因が何かについては十分な議論・検討が必要であり、次回改定において拙速に判断すべきではありません。

後発品のある先発品などの薬価の見直しでは、@先発品を後発品薬価を目指して見直し、A医療材料の内外価格差解消、B市販品類似薬は保険適用外(ただし範囲については十分議論)とされ、とりまとめコメントでは「保険適用範囲をジェネリック価格に絞るべきという意見」が出されたことを紹介しています。
先発品も後発品も諸外国に比べて高い薬価を適正な価格にすることは当然です。
しかし、市販類似薬を保険適用外にしたり、後発品を公定薬価として先発品との価格差を患者負担にすれば患者負担の大幅な拡大を招き、必要な医療が受けられなくなります。

さらに入院時の食事・居住費についても見直すこととされましたが、そもそも入院時の食事は治療の一環であり、食事・居住費の保険給付外しを実施すれば必要な入院医療が確保できなくなります。
こうした患者負担増は、小泉構造「改革」路線と同じ発想であり絶対に容認できません。
 
以上を踏まえ、来年度予算編成にむけて医療費総枠を拡大し下記事項の実現を求めるものです。


一、地域医療の底上げが図れるよう、病院、医科・歯科診療所を問わず診療報酬を大幅に引き上げてください。
一、「高い収入」の診療科の報酬の見直しは、十分な資料をもとに慎重に検討してください。
一、市販類似薬や食事・居住費の保険給付外しを行わないでください。必要な医療の提供を確保するため、患者の窓口負担を軽減してください。