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「医療崩壊」阻止のために診療報酬の総枠引き上げを求める緊急要請
…11月19日財務省発表「医療予算について」を踏まえて…

2009年11月20日
全国保険医団体連合会
会長 住江 憲勇

前略
国民生活の確保に向けた総理及び各大臣のご尽力に敬意を表します。
さて、本会は、総選挙前から医療崩壊や介護崩壊の問題につきまして、現与党所属の国会議員、候補者と何度も懇談をさせていただき、その中で「医療崩壊の原因は診療報酬の抑制にある」とのご意見を多くの方々からいただき、大変期待をしていたところです。
また、総選挙にあたって各党に医療政策に対するアンケートをお願いさせていただき、「診療報酬を10%以上引き上げること」について民主党からは、「診療報酬を引き上げる方針だが、上げ幅や引き上げる項目について今後検討」とのお返事を伺っていました。

今日の医療をめぐる状況は、小泉前政権からの常識を逸した医療費抑制政策の結果、急性期病院の勤務医だけでなく、中小病院や医科・歯科診療所についても大変厳しい状況におかれています。
行政刷新会議・事業仕分けにおいて、診療報酬の配分(勤務医対策等)について見直しと判断され、具体的内容として、@開業医・勤務医の平準化、A収入が高い診療科の見直しを行うことが第2WGの結論とされました。
しかし、この事業仕分けは、医療現場の関係者が一人も参加しておらず、実態を表していない不十分な資料で、僅かな時間の中で結論が出されたものです。
本会は、実際の改定率や改定内容の検討にあたっては、その内容や影響を十分に熟知した専門家による検討が不可欠と考えます。

ところが昨日財務省が発表した「医療予算について」では、「薬価を引き下げることによって、国民負担を軽減しながら医療崩壊を食い止め」とし、ネットでのマイナス改定を求めるとともに、「全ての医師に同様に配分すれば、個々の医療機関・医師にとっては現状がほとんど変わらず、医療崩壊の解消に繋がらない」として、@官民の人件費カットやデフレ傾向の反映、A収入が高い診療科の報酬見直し、B開業医と勤務医の平準化などを求めています。さらに野田佳彦財務副大臣は同日の会見で、「医師の偏在や不足の問題には本体部分の底上げではなく、配分の見直しで対応する」と述べ、本体部分についても伸びをゼロ以下に抑えるべきだとの考えを示したと報道されています。
しかし、2002年からの4回連続マイナス改定の合計は、2001年対比でマイナス7.53%になり、仮にマイナス改定がなかった場合と比べた医療費の削減額は13兆円にものぼっています。このことが「医療崩壊」を生み出した最大の原因です。

「開業医月収が勤務医の1.7倍」といわれていますが、開業医の経営リスクや勤務医との年齢格差については、触れられていません。
また、個人開業医は院長給与ではなく収支差のみが示されましたが、この収支差からは、事業にかかわる税金や借入金返済、退職金積み立てなどの費用を捻出しなくてはなりませんが、そうしたことは勘案されていません。さらに、開業医の収支差の最頻値は約1500万円で勤務医とほぼ同じです。まして、医療従事者と年齢分布も職種も異なる公務員給与を比べることは適切ではありません。
開業医の月当りの時間外労働時間の平均は過労死ラインといわれている月80時間を超える82.82時間(当会「労働実態調査」)であり、開業医の経営も労働条件も大変厳しい状況に陥っています。

また、「収入が高い診療科の報酬見直し」を求めていますが、今回収支差が高いと指摘されている整形外科は2008年改定で大きな変化がなかったにも関わらず前回比で極端に収支差が高くなっています。
収入には自由診療や介護収入も含まれており、サンプルが数十医療機関程度しかない医療経済実態調査各科別データを元に報酬見直しを実施すれば、大変なミスリードをしてしまいます。

勤務医問題の解決には、過重労働や時間外手当不払の改善など様々な問題があり、この状況を改善するためには診療報酬の大幅な引き上げが不可欠です。
しかし、この間の診療報酬抑制によって、勤務医だけでなく開業医も窮地に陥っており、診療所の報酬を引き下げて病院にまわすやり方では、医療崩壊は食い止められません。

平成7年版厚生白書では、医療への財政投入は、「サービスの消費に伴う直接的な便益以上のもの、すなわち人的、社会的便益をもたらす投資的側面を持つサービスであると認識されています」と明記されており、平成20年版厚生労働白書でも、医療分野の雇用誘発係数が全産業56部門中15位と高く、産業連関表による総波及効果が医療(4.2635)は全産業平均(4.0671)よりも高いことが示されています。
なにより診療報酬は、国民が受ける医療の範囲や質・量を決めるものです。
私たちは、医療費の総枠を拡大することが新政権にとって最重要課題と考えています。
中小病院や医科・歯科診療所が地域医療に一層役割を果たせるよう、薬価引き下げ分を含めてネットで診療報酬を大きく引き上げてくださいますよう、強く要望いたします。