行政刷新会議「事業仕分け」で出された診療報酬改定に係る意見
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(2)保団連の意見
@ 今般の診療報酬改定の主要課題は、「医療崩壊」をいかに食い止めるかである。医療崩壊の実態は、医療・医学の進歩や国民の医療要求を十分に反映しない、長年にわたる低診療報酬政策による医療機関経営の弱体化による医療提供体制の劣化(地域からの医療機関の消失、小児科、産科、外科領域の診療所・病院の減少、救急領域<脳外・循環器外科など>での慢性的医師不足)と、増大する国民の医療需要や医療要求に追いつかない医療資源不足、つまりは97年の医学部定員削減の閣議決定に端を発する医師養成の失策と、性急に導入した臨床研修義務化による医師をはじめとする医療従事者のマンパワー不足の顕在である。とりわけ医師養成のための指導医をはじめとする教育体制の問題や、地方への定着のための生活関連諸政策・諸制度の整備、地域経済の活性化など課題が多い。また訴訟リスクや診療関連死への社会的制裁の激化による、外科領域からの敬遠に対しては無過失補償制度の整備などの社会制度も必要である。
そのためにはまず医療現場における雇用拡大、そのための給与をはじめとした処遇改善が可能となる医療費の総枠拡大、診療報酬の引き上げが最低限の「必要条件」である。
ワーキンググループの発言に見られる診療報酬全体を抑制する方針は、医師をはじめとした各医療職種の人件費を引き下げるか、現状のマンパワー総量を維持してさらに劣悪な労働条件にするか、その両方を行うかを前提とするものである。こうしたやり方では「医療崩壊」はますます加速してしまう。しかも、81年改定以降、診療報酬は物価スライドをしていないという基本事実すら指摘されていないなど大変不十分な資料で論議が進められている。
こういう立論を考える者は、低診療報酬政策による人件費・労働条件引き下げ圧力が、医療現場の過重労働による崩壊現象を起こしたという認識が欠けている。この視点は、民主党のマニフェストに盛り込まれた認識と矛盾しており、財務省を中心とした政府部内に、今の医療崩壊を生んだ原因分析と解決策に対する大きな認識の誤りがあることを指摘せざるを得ない。
A 医療機関の経営は、診療報酬本体だけでなく薬価を含めた総収入に対する総支出でまかなわれており、診療報酬改定率は、本体だけでなく、薬価も含めたネットで見るべきであり、1997年対比でこの間の診療報酬改定率は▲8.46%(単純積算で▲8.73%)である。仮にマイナス改定がなかった場合と比べた医療費の削減額は17兆円にものぼる。そうやって医療機関を疲弊させてきた事実を直視する必要がある。民主党は、全般的不況からの脱出策として、内需拡大を主張している。その認識は正しく、ぜひその方向に行くべきである。医療現場への投資は、医療従事者だけではなく、関連産業まで含めた雇用の拡大と所得の引上げにつながり、国内最大級の内需拡大策になるはずである。
1998年からのマイナス改定による医療費削減累計額(国民医療費ベース:推計)
1998 |
1999 |
2000 |
2001 |
2002 |
2003 |
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国民医療費(兆円) |
27.5 |
28.5 |
29.4 |
30.4 |
30.2 |
30.8 |
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改定率 |
▲1.20% |
− |
+0.20% |
− |
▲2.70% |
− |
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改定率(97年対比) |
▲1.20% |
▲1.20% |
▲1.0024% |
▲1.0024% |
▲3.68% |
▲3.68% |
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影響額(兆円) |
▲0.33 |
▲0.34 |
▲0.29 |
▲0.30 |
▲1.11 |
▲1.13 |
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2005 |
2004 |
2006 |
2007 |
2008 |
2009 |
合計 |
国民医療費(兆円) |
32.4 |
31.4 |
32.4 |
33.4 |
34.1 |
34.1 |
374.6兆円 |
改定率 |
− |
▲1.05% |
▲3.16% |
− |
▲0.82% |
− |
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改定率(97年対比) |
▲4.69% |
▲4.69% |
▲7.70% |
▲7.70% |
▲8.46% |
▲8.46% |
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影響額(兆円) |
▲1.52 |
▲1.47 |
▲2.49 |
▲2.57 |
▲2.88 |
▲2.88 |
▲17.31兆円 |
2.収入が高い診療科の見直し
(1)ワーキンググループの発言
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(2)保団連の意見
医療経済実態調査は抽出調査であり、かつ、各科毎のサンプルが数十医療機関程度である。開業医の診療形態は、同一診療科でも医療機関ごとに大きく異なり、診療科別の状況を判断するには、サンプル数が少なすぎる。例えば、今回最も収支差が大きいと指摘されている整形外科のサンプルは40医療機関しかなく、2008年改定で診療報酬上大きな変化がなかったにも関わらず、前回比で極端に収支差が大きくなっている。なお、この調査結果の収入には、自動車事故に対する自賠診療や介護収入も含まれているが、健康保険の診療報酬改定の基礎資料とするのであれば、こうした収入を除いたデータを使用すべきである。
「医療費の動向」で各診療科1施設当り医療費の伸び率を見ると、2002(平成14)年の診療報酬▲2.7%と老人の窓口負担引き上げの影響を受け、医科診療所全体で▲4.4%となっており、整形外科は▲7.2%であった。また、眼科は2002年の▲5.0%に加えて、2006年にはさらに▲3.6%となっている。皮膚科も2002年の▲4.2%に加えて、2006年▲2.4%、2007年▲2.2%という状況である。外科、小児科、産婦人科などを引き上げる必要があることはいうまでもないが、小泉「構造改革」以降の10年間で、診療所はこれほど収入減となっている。診療所を含めた診療報酬の底上げをしなければ、医療崩壊はますます加速してしまう。
さらに、診療所全体に対する配分で見れば、医科医療費に占める割合は32.5%(08年度)にすぎず、整形外科3.1%、眼科2.5%、皮膚科1.2%とわずかである。しかも、ここ8年間(01〜08年度)の1医療機関あたりの医療費の伸び率累計は、整形外科▲2.6%、眼科▲4.5%、皮膚科▲6.0%である。これで一体どのように配分を見直すのだろうか。
また、収入を指標に医師が科目選択しているとするなら、それは過去の水準による選択行動となる。医師が一人前になるのに10年を要すからである。整形、眼科、皮膚科の増加はいくつかの要因があると思われるが、大きな要因は高齢化に対応した疾患増によるものである。小児科は10年以上前から不採算による廃業・淘汰で不足、減少が指摘されていたにもかかわらず、政策的に放置をしたことによるものであり、産科は訴訟リスクへの対応を政府が怠ったこと、実態とはあわない診療報酬の規制などが影響している。また開業理由の多くは理想の医療の追求がトップである。勤務医の疲弊の元凶は、大病院への「集中と選択」、入院で採算が取れない病院医療の政策的失敗にあり、このことの解決なしには、医療崩壊は食い止められない。
3.開業医・勤務医の平準化
(1)ワーキンググループの発言
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(2)保団連の意見
@ 病院に対する80年代以降の医療政策は、病床の総量規制、中小病院の淘汰、大病院への集約化、急性期入院偏重など、効率化を競わされる構造の中で進められてきた。そのベースには、医療費抑制政策があり、その結果、病院は入院医療や紹介外来だけでは経営が成り立たず、多数の外来患者収入を必要とせざるをえない。その経営圧力が強くかかる中で、勤務医の過重負担は生み出され、その上に、医療需要の増大を見越した医師養成を行ってこなかったという医師養成政策の誤りがのしかかっている。こういう医療政策の根本的な誤りを明らかにして政策転換することなく一部診療科や医療機関の診療報酬を引き下げれば、地域医療は崩壊し病院勤務医の問題は解決しない。
A 勤務医の給与を含めた労働条件の改善は、重要である。その第1は、現場で働く人の補充であり、医師養成数を増やしOECD平均まで医師数を増やすことがまず必要である。しかし、医師の絶対数が不足する中では、医師の補充を即時実施することは困難である。この場合の対応としては、医師にかかっている過重労働を分担、軽減する形での人の補充しかなく、その第1は、看護師であるが、就労看護師も不足しており、その原因は賃金や労働条件、特に子育てをしながらの労働条件の整備が不十分なことによる。したがって、保育体制の充実などに取り組むことが必要である。また現在の入院基本料は、看護労働の評価が包括化されていて個別評価が目に見える形になっていない。看護に対する評価を個別点数として独立させ、同一労働同一評価となるような看護評価体系にしていくべきである。
この点で近年、支出削減のため、公立病院でも医療専門職のパート雇用化や事務系職員の派遣労働化などが進んでいるが、これは個々の労働者の職場に対する帰属意識に影響し、チームで支える医療のあり方に逆行する。特に、医師業務の直接サポートを期待する場合に、当該医療機関の正規雇用ではない職員をその位置に配置することは躊躇される。こういった職種についても、正規雇用化が図れるような安定的な病院収入の保障が必要である。
開業医と勤務医の報酬差の問題について、
個人開業医の収支差には原価償却費はコストとして入っているが、将来の設備投資に備えた積立、開業者の退職金引当金相当がコストには反映されず、収支差から捻出しなければならない。また、勤務医の平均年齢と開業医の平均年齢による差も加味されていない。
勤務医給与には大きな格差がなく平均を用いてよいが、開業医は、自営業者であり勤務形態などを含めて大きく異なるため、平均値ではなく、最頻値でみるべきである。開業医の収支差の最頻値は約1500万円で勤務医とほぼ同じである。
勤務医は通常勤務に加えて当直を行うなど、大変激務であり、勤務条件の改善が必要である。同時に、保団連が実施した「大阪府の開業医の経営・労働実態調査」によれば、開業医の月当りの時間外労働時間の平均も過労死ラインといわれている月80時間を超える82.82時間となっており、開業医の労働条件も大変厳しい状況に陥っている。
歯科については、患者一人当たり診療時間が25.4分(医科は7.3分)であるが初診・再診料が医科よりも低く、歯科の長期間労働低収入状態に拍車をかけている。
以上から、病院と診療所の再診料の格差については、病院を引き上げて診療所と同一とすべきであり、大変厳しい経営状況におかれ、全身の健康に重要な歯科の初・再診料を医科と同点数に引き上げるべきである。
4.市販品類似薬の保険適用外、 薬価をマーケットメカニズムに委ねること
(1)ワーキンググループの発言
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(2)保団連の意見
「市販品類似薬」(財務省の説明シートでは「「湿布薬、うがい薬、漢方薬など」と例示」)が保険適用外とされれば、今までその薬を服用してきた人たちは薬局・薬店などから全額自己負担で薬代を支払わなければならなくなる。つまり、患者の経済状態によって薬の服用を続けられるかどうかが左右されることになる。しかも、その薬の服用方法や副作用についての医師の指導も受けられなくなり、重大な健康被害が懸念される。
一般論として需要と供給の均衡点で市場価格が決定されるという前提は正しいだろう。しかし、日本の医薬品市場は「常に」製薬メーカーが市場価格をコントロールしている。もし米国のように自由価格制にすれば法外に高い薬価づけにより、医療保険制度を破綻に追い込むだろう。
5.ドラッグラグについて
(1)ワーキンググループの発言
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(2)保団連の意見
実際には承認ラグの構成要素のうち大きいものは、審査の長期化ではなく製薬メーカーの開発着手の遅れである。臨床的に重要な開発オリジンの薬剤の開発着手遅延が最大の問題である。臨床的重要度は早期開発のインセンティブとはなっておらず、重要度が低くても市場の大きい薬剤の開発は優先されている。先発品の薬価を大幅に下げるという緊急の国民的課題と、ドラッグラグの問題を関連づけるべきではない。
6.居住費・食費の保険給付外しについて
(1)ワーキンググループの発言
○入院時の食費・居住費については、コスト負担の考え方からも自己負担の検討が必要。 |
(2)保団連の意見
@ 食事は治療の一環であり、療養環境の整備なくして治療はできない。入院中の食事や療養環境は、治療の一環として提供されるべきものである。これらの患者負担を拡大したり、自費にすれば、医療の必要性だけで入院することがさらにできなくなってしまう。絶対に患者負担の拡大を行うべきではない。ワーキンググループでも食費を医療保険外にした場合、「栄養管理やカロリーコントロールができなくなる可能性」があるが指摘され、社会保障審議会医療保険部会でも樋口委員より、「病院の入院費用を『居住費』と言われるのは違和感がある」と指摘されているところである。
A 療養病床における後期高齢者の生活療養費や、介護保健施設における居住費・食費の取扱いとの整合性を図るべきとの意見もあるが、これらの病床や施設においても居住費・食費は保険で給付するべきである。
7.医師不足の原因
(1)ワーキンググループの発言
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(2)保団連の意見
「開業医・勤務医の報酬平準化」に対する反論部分でも述べたが、病院勤務医の困難の原因は、病院に病床の総量規制と機能分化を通じての生き残り競争を押し付けたため、強烈な経営の効率化、集約化を推し進めたことにある。経営に貢献しない診療科や部門に対するリストラが進む中で、医師をはじめとした従事者の過重労働が恒常化し、そこに医療の高度化、患者・国民の健康実態の悪化や意識の変化、高齢化による絶対的な患者増などが追い打ちをかけたことで、現場が支え切れなくなり、崩壊していったのである。「経営効率」という言葉で追い立てられる職場に、心身のゆとりはない。これは、何も医療現場だけではなく、日本中が同様の状況である。その人心の荒廃状況が、医療現場にも逆流し押し寄せ、崩壊を促進したという側面もある。この問題の解決は、病院の勤務医に対する報酬の上積みだけで解決できるものではなく、「構造改革=新自由主義改革」がもたらす社会破壊の実態に政治家が目を向け、そこからの政治的転換を図ることがまずもって必要である。
今の医療現場に決定的に足らないものは「人」と「金」だと言われている。日本の常勤医師数は、推定26〜27万人で、人口1000人対医師数は2.0人であり、OECD平均3.1人と比べて1000人対比で1.1人と極めて低い水準にある。これをOECD加盟国平均にするためには、最低でも14万人、高齢医師や女性医師の職場環境なども考慮すると20万人は増やさなければならない。このことが最大の問題であり、養成数を大幅に増やす必要がある。
診療科別に見た時の医師数の偏在についても、医師数の多い診療科に対するペナルティによって追い出し圧力をかけるようなやり方ではなく、いずれの科にあっても安心して診療に専念できる経済的・労働環境的条件(救急医療や夜間対応、医療連携などのシステムの構築と、それへの補助等も含む)を整えた上で、医師(医学生)に医療政策上の必要性を説明し、それを踏まえた上での自己の適性に基づく選択を尊重するというのが筋である。医師も人間であり、職業に関わる選択の自由は保障されるべきである。
医師不足の中で、看護師をはじめとした医療関連職員が実施できる業務は医療関連職種が実施し、事務職員等が実施できる業務は事務職員等が実施できるようにすることが重要だが、医療関連職員及び事務職員の労働と賃金を正当に評価することが必要である。また、働きやすい職場環境をつくるために、院内保育所の整備だけでなく地域の保育所の整備が欠かせないが、保育所不足を面積緩和等荷により見かけ上待機者をなくすようなやり方では問題は解決しない。保育に対する十分な財政保障を行い、保育環境の整備を行うことが重要である。また、医療の特質から、診療関連死については原則刑事罰(業務上過失致死傷罪)を問わないこととし、中立・公正な「医療安全調査委員会(仮称)」を厚生労働省の外に設置して医療事故再発防止を図るとともに、全科を対象とした無過失補償制度を国の責任と管理の下で確立するなどの対応が必要である。
8.専門医制度と診療報酬
(1)ワーキンググループの発言
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(2)保団連の意見
@ 医療・医学の進歩を日常診療に反映させるために、専門医資格を所得するなど日常的な研修を行うことは当然推奨されるべきである。しかし、専門医・認定医などの資格については、各学会においてその内容が異なっており、研修の成果を評価することができない中で、認定医や専門医資格を診療報酬上の評価とすべきではない。
A また、ガイドラインは、当該検査や治療を実施する上での学会等における検討の現時点での到達点を示したものであるが、必ずしも全ての患者に当てはまるものではなく、ガイドラインを点数の算定要件とすべきではない。
9.医療崩壊
(1)ワーキンググループの発言
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(2)保団連の意見
10.総合診療科に対する評価・包括支払制度に対する評価
(1)ワーキンググループの発言
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(2)保団連の意見
@ 家庭医=総合診療科=検査の減少、医療費の減少という構図を描いているが、家庭医(かかりつけ医)を制度化している諸外国(イギリス、スペイン、カナダ、スウェーデン等々)に共通する悩みは、最初の受診からより高度な検査や手術、入院に至るまでの時間がかかりすぎること(ウェイティングリスト化問題)である。ウェイティングリスト化の先にあるのは、患者重症化による経済損失と医療費増大問題である。そういったことを無視して、あたかもかかりつけ医制度は、経済合理性が高いかのように断定することは、国民に誤った認識を植え付けるものである。
A 総合診療科について後期高齢者診療料を算定する医療機関に対し期待されたように、1患者1医師による包括的管理を要望しているのなら、それには無理があるというのが、現場の判断である。5月18日の中医協診療報酬改定結果検証部会に報告された「後期高齢者にふさわしい医療の実施状況調査」では、後期高齢者診療料を届け出た施設のうち、1人も算定していない医療機関が89.5%にものぼることが判明。算定していない理由は、ア)患者が後期高齢者診療料を理解することが困難(61.6%)、イ)他の医療機関との調整が困難(52.7%)、ウ)現行点数では医療提供コストをまかなうことが困難(51.9%)、などであり、これらの理由は、当該点数の創設の目的そのものを医療現場が否定したものと言える。
A そもそも一人の患者の治療を一人の医師で完結することは困難な場合が多く、むしろ複数の医師による診療を保障することで無用な過誤を防げると考えるべきである。少なくとも、患者に対しては、それは強制されるべきものではない。それぞれの専門分野での治療を診療報酬上で保障し、さらにそれら専門家同士の医療連携を進めるための費用保障をどうするかを考えるべきである。
B DPC病院におけるサービスは効率化されており、診療所にも拡大すべきという指摘だが、DPCのような医療行為包括型の診療報酬は、その包括化する医療行為の範囲を決めねばならず、そのための道具として、クリィティカルパスが悪用されたり、保険で給付する医療の標準化といったことが狙われる。包括方式で経済効率が上がるのは、この患者に提供する医療のメニューを、医療機関自身が積極的に「効率化」にすることで、包括点数との差を収益として取り込もうとするからである。これがいわゆる「粗診粗療」につながる危険性をもっている。「必要な患者に必要な医療」を保障する「皆医療保障型」の皆保険こそが日本の医療保険制度の特質であり、その制度を実態あるものとして担保できる診療報酬のあり方は、出来高払いでしかありえない。DPCによってクオリティが上がった証拠はなく、大方はこの導入により、病棟管理や病院運営にゆとりがなくなっている。DPCは目的(診断群)別に入院を評価し、その目的の治療を効率的に実施することを前提としているため、例えば診断の対象である手術をして帰ってきたが、他の重大な疾患が発見できず死亡したとの事例もある。DPCは、病院の診断力を高めることができず、研修医も落ち着いて鑑別診断を学べる形になっておらず、これでは日本の医療は力が落ちてくるとの指摘もある。
C 百歩譲って医療経済的効率性から見た場合でも、DPCは24時間医療機関に入院して広範囲な治療を集中的に行っている患者を対象とするものであり、もともと効率化の余地があるものが対象になっている。これに対して診療所の外来は、月に数回の受診で1回の診察で治療の範囲も狭く、これをDPCと同様の手法を取り入れて効率化することは困難である。なによりDPCにおいても包括制のために必要な入院治療を最後まで行えないとの指摘もある。また、検査の外来化や他院への依頼が行われているとの批判もある。さらに、入院治療を短くさせる方式のため再入院を余儀なくされたり、在宅等への負担のしわ寄せなどが行われているとの指摘もある。
D 日本の開業医は、諸外国とは養成方法が違っており、ジェネラリストとして養成され、卒後に専門分化し、専門医が開業し一般診療と、専門診療を行っている。医療提供体制は文化的側面を持っており、100万人のウエイティングが日常の英国や、超音波診断に数ヶ月の予約が当たり前のスイスなどと、日本の状況は異なる。フリーアクセス、当日診療が約束されている日本の医療制度は、第一線医療が医療機器・設備を備えるほか診療能力が高いからである。患者需要や国民的議論もなしに、諸外国の物まね導入をしてはならない。ヨーロッパの家庭医はアクセス制限による余裕の有る診療と高い報酬のもとでうまくいっているのであり、諸条件の違うのに単純輸入はおかしい。
11.改定の影響
(1)ワーキンググループの発言
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(2)保団連の意見
医療崩壊を食い止めることと国民負担増の回避を対立させては日本の医療はよくならない。企業負担や国庫負担を引き上げて、診療報酬引き上げが被保険者の保険料の引き上げにつながらない施策を実施することや患者負担の軽減に取り組むことこそが政治の役割であり、社会保険制度の原理・原則にそった対応である。
日本の患者負担は先進国に比べて非常に高い。早急に後期高齢者医療制度を廃止するとともに、健康保険法、国民健康保険法を改正して患者負担を軽減すべきである。
また、医療への投資は、決して無駄な消費ではない。12月15日に閣議決定した「2010年度政府予算編成の基本方針」においても「医療・介護をはじめとした社会保障分野への投資は、幅広い雇用の受け皿を国民に提供するだけでなく、中期的には高い投資効果が期待できる」とされている。
診療報酬を引き上げれば、雇用の拡大と経済波及効果が期待できる。
12.事業税非課税
(1)ワーキンググループの発言
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(2)保団連の意見
社会保険診療報酬に対する事業税の非課税措置は、ア)国民の健康と命を守り、イ)社会保険診療報酬は公に定められており、国民皆保険制度と不可分の関係にあり、ウ)学校健診・救急医療など地方自治体のサービスに主体的に携わっており、エ)医療の営利性は禁じられている、オ)応召義務があり、正当な理由なく治療を拒否することはできない、等々きわめて高い公共性からいっても、非課税には合理性がある。
「医療崩壊」を建て直すためには、地域医療を支える医療機関全体の底上げが必要であり、地域医療を守り充実した医療をおこなっていくためにも、医療の公共性・公益性を保障する上、税制のかなめである。
13.中医協について
(1)ワーキンググループの発言
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(2)保団連の意見
@ 中医協は、診療に携わる側(7人)、支払い側(7人)、公益委員(6人)の3者によって構成されており、総会、各専門部会、小委員会、調査専門組織、検証部会など、様々な角度から審議を行っている。こうした構成によってこそ、診療側の状況、支払い側の状況を踏まえた改定が可能であり、公益側委員のみで結論をだすべきではない。また、この間、医療崩壊に何の対応もできなかったかのような発言があったが、そうなった最大の理由は、小泉「構造改革」による社会保障給付費の自然増2200億円の抑制にある。
A 医療保険者が医療機関に医療提供を委託していることが法的に担保されているのだから、双方の利害調整となるのは当然である。医療提供の対価を決める場所が中医協であり、医療現場にいない、保険運営にもかかわらない、まったくの当事者ではない公益委員のみで、内実のある対価を決定することはできない。
B ただし、患者代表を追加し、医師会・歯科医師会・薬剤師会以外にも診療側代表を入れることや、診療報酬改定に対する要望や意見について中医協委員を選出していない団体から真摯に聞くことなど、中医協の構成や内容をさらに改善させる必要がある。