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2010年度診療報酬改定に対する談話(医科)


中央社会保険医療協議会(遠藤久夫会長)は2月12日に、長妻昭厚生労働大臣から諮問があった平成22年度診療報酬改定について答申を行った。
実施日は4月1日からで、改定幅は厚生労働省発表では0.19%(本体1.55%+薬価・材料費▲1.36%)だが、「後発品のある先発品の追加引き下げ」で捻出される600億円分(▲0.16%)が総枠0.19%からさらに削減されるため、10年ぶりのプラス改定ではあるが全体の改定率はわずか0.03%(+100億円)にとどまる。
答申にあたって全国保険医団体連合会の武田浩一医科診療報酬改善対策委員長は下記の談話を発表した。

1 これでは「医療崩壊」を止められない
2010年改定にあたって保団連は、「医療崩壊を食い止めるために10%以上の引き上げが必要」と主張し、医療関係団体、患者・国民、政党・国会議員、マスコミに訴えを広げ、昨年の総選挙では、診療報酬引き上げが各政党のマニフェストや公約に掲げられた。特に民主党は、INDEX・医療政策詳細版で「総医療費対GDP比をOECD加盟国平均まで今後引き上げる」ことを明記して総選挙に勝利した。
しかし、新政権発足後、医療費削減を求める財界や財務省の大攻勢の結果、昨年12月23日に政府が発表した改定率は総枠で0.19%(本体1.55%+薬価・材料費▲1.36%)の引き上げにとどまった。
その上、「後発品のある先発品の追加引き下げ」で捻出される600億円(▲0.16%)が総枠からさらに削減され、全体の改定率が0.03%にしかならないことが判明。1月31日付毎日新聞は、「診療報酬増を『偽装』」と報道した。
先発品の追加引き下げは、処方せん様式の変更等によるこれまでの後発医薬品の使用促進策による医療費削減とは違って薬価そのものの引き下げであり、当然診療報酬改定財源とすべきである。
そもそも三党連立政権合意書では、「医療費(GDP比)の先進国(OECD)並みの確保を目指す」とされている。これを踏まえるならば、先発品の追加引き下げで捻出される600億円はもちろん、従来の手法による「調剤薬局が後発品を使用しやすい環境を作る」ことで捻出される760億円の薬剤費削減分も当然技術料の改定財源に入れるべきである。

2 診療所の報酬引き下げは、地域医療を疲弊させる
診療所の再診料が2点引き下げられ、再診料は病院・診療所とも69点に統一された。
2007年6月実施の中医協医療経済実態調査で約17%だった収支差額赤字の医科診療所は、2009年6月調査で約28%に急増しており、医療の再生産すら困難な診療所が増えている。再診料以外にも検査や処置、アナログでのエックス線撮影料等も引き下げられた。
診療所再診料引き下げ阻止の取り組みの結果、再診料引き下げと引き換えに、標榜時間以外も患者からの電話問い合わせに対応可能な体制を確保している診療所に「地域医療貢献加算(3点)」が新設された。
しかし、重要なことは通常の診療所の体力を引き上げることである。再診料を引き下げて加算を設定するのではなく、再診料を引き下げずに加算を設定すべきであり、地域医療を守るため、診療所・病院とも再診料を71点に引き上げるよう、強く求めるものである。

3 外来管理加算の時間要件撤回は運動の大きな成果だが、新たな要件導入
外来管理加算の時間要件が廃止された。これは2年にわたる運動の大きな成果である。
しかし、時間要件は廃止されたが、「多忙等を理由に投薬のみの要請があった場合で、簡単な病状の確認等を行ったのみで継続処方を行った場合にあっては、外来管理加算は算定できない」との要件が追加された。現時点では詳細が不明だが、3月に出される通知の内容によっては、時間要件撤回の効果が薄れてしまう。新たな要件の撤回を求めるものである。

4 運動器リハ(T)は引き下げ、維持期リハビリに介護サービス情報の提供が要件化
運動器リハでは、8000医療機関が算定する運動器リハ(T)が(U)に変更されて5点引き下げられた。維持期リハは医療保険で給付すべきとの要求を行った結果、月13単位までの提供が継続されるが算定要件に「介護サービスに係る情報提供」が追加された。
リハビリは要介護状態をつくらないために重要であり、医療保険で十分なリハビリが実施できることが必要である。報酬引き下げや介護保険給付への転換は認められない。

5 有床診療所は、在宅支援機能を評価
有床診療所の一般病床は、2区分の入院基本料が3区分(看護職員1〜3人、4〜6人、7人以上)となり、8日以上の入院基本料は全て引き上げられた。
ただし、7日以内は、在宅療養支援診療所の指定を受けている場合は、「初期加算(100点、7日まで)」が新設され、医師配置加算も引き上げられるが、在宅療養支援診療所の指定を受けていない場合は引き下げられた。
一方、療養病床の入院基本料は据え置かれたが、在宅療養支援診療所の指定を受けている診療所が急性期病院や在宅からの患者を受け入れた場合に算定する「初期加算(150点、14日以内)」が新設された。
8日以上の点数の引き上げや在宅療養支援診療所の評価は、有床診療所の報酬引き上げを求める長年にわたる運動の成果である。しかし、有床診療所をめぐる最大の問題は、入院点数の著しい低さである。病院負担を軽減するためにも、7日以内の有床診療所の入院料を引き上げるとともに、8日以上のさらなる引き上げを求めていく。

6 中小病院の経営も困難に
病院再診料や14日以内の入院加算が引き上げられたが、一般病棟15:1入院基本料が20点引き下げられ、90日を超えて入院する患者の報酬が包括される後期高齢者特定入院基本料が全年齢に拡大されるため、中小病院の経営は困難になる。後期高齢者特定入院基本料は、長妻厚労大臣自身が11月2日の国会答弁で、「中医協と相談して廃止していく方針」と明言していたものであり、廃止すべきである。
病院の療養病床については、「25:1看護+25:1看護補助」の報酬が大幅に引き下げられた。7月8日の中医協分科会に報告された療養病床のコスト調査結果では、医療区分1は入院患者1人1日につき1,192円〜3,217円の赤字となっていることが判明している。医療経済実態調査の結果等を踏まえるのであれば、25:1+25:1病棟の報酬引き下げを行うべきではない。
なお、「20:1看護+20:1看護補助」が新設されて報酬が引き上げられたことは評価する。

7 保団連要求等の反映
この間の保団連や保険医協会の取り組みによって、保団連要求が不十分ではあるが、一定反映された。
具体的には、@2008年改定で大きな批判があった「後期高齢者診療料」と「後期高齢者終末期相談支援料」の廃止、A「乳幼児加算」の引き上げ、B医療安全管理関連点数の新設や引き上げ、算定要件の緩和、C入院では、「医師事務作業補助体制加算」の基準の緩和、結核病棟の平均在院日数要件廃止、療養病床における「初期加算」の新設、有床診療所入院基本料の引き上げ、D在宅では、往診料の引き上げや「複数名訪問看護・指導加算」の新設等である。
要求実現に向けた会員のご尽力に感謝申し上げる。

8 診療報酬引き上げと患者負担軽減運動に協力を
医療費削減を求める財界や財務省の大宣伝と攻撃の中で、非常に微々たるものではあるが総枠引き上げが行われたことは、医療担当者のこの間の運動と患者・国民の願いを一定反映したものである。しかし、この改定率では医療崩壊は一層深刻化することとなる。
進行する「医療崩壊」にストップをかけることは国民的課題であり、重要なことは診療報酬の底上げである。次の改定を待たずに早急に補正予算対応を行い、少なくとも総枠で3%以上の診療報酬引き上げを行うよう、強く要望する。
なお、昨年12月24日に国立社会保障・人口問題研究所が発表した「社会保障実態調査」では、過去1年間に経済的理由等から医療機関にいけなかった世帯が2%(99万世帯)あったことが判明している。
保団連は、必要な医療が提供できるよう、診療報酬引き上げ・改善と患者負担の大幅軽減を求めて医療関係者、患者・国民とともに奮闘するものである。

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DPC(別紙3「厚生労働大臣が指定する病院の病棟における療養に要する費用の額の算定方法」)は、紙面の都合で省略する。DPCの答申内容は、厚生労働省ホームページ(http://www.mhlw.go.jp/shingi/chuo.html)を参照いただきたい。