国の負担を増やして国保の立て直しを
−都道府県単位での広域化で財政危機は解決しない
2010年5月21日
全国保険医団体連合会
政策部長 三浦 清春
政府が今通常国会に提出していた「医療保険制度の安定的運営を図るための国民健康保険法等の一部改正法案」が5月12日、参議院本会議で与党の賛成多数で可決、成立しました。
高校生世代以下の無保険状態の解消や、協会けんぽへの国庫補助率を引き上げるなどの項目も含まれていますが、後期高齢者医療制度廃止の先送りが前提とされ、協会けんぽへの国庫補助率も本則に規定された上限20%ではなく、16.4%にとどまりました。
なかでも、広域化に道筋をつける「支援方針」の策定が盛り込まれたことは大きな問題です。「支援方針」の策定は都道府県の判断に委ねられていますが、医療費が高い市町村などに対して、「交付金」を減額するペナルティと減額措置を適用しない優遇策が抱き合わせで盛り込まれており、都道府県を「支援方針」の策定に誘導しようとしています。
厚生労働省は、市町村国保の危機的な財政状況を、都道府県単位での広域化によって改善しようとしていますが、もともと財政赤字の市町村を集めて国保事業を広域化したところで、財政危機が解消することにはなりません。すでに、広域化で運営されている政令都市の国保は、7市中4市が大赤字(08年度国保会計)です。一般会計からの法定外の独自繰入がなければ、すべての政令市が赤字となります。
また、市町村ごとに保険料算定のベースとなる所得の捉え方、保険料の計算方法、一般会計からの繰入の仕方も違っている中で、広域化を強引に進めれば、県内の高い保険料への統一による保険料引き上げ、市町村の一般会計からの繰入が困難になることが懸念されています。
さらに、都道府県単位に広域化された国保の運営主体が後期高齢者医療制度と同様、広域連合によることも検討されています。住民から遠い存在の広域連合では、住民の切実な要望や生活の実態に即した対応は困難になり、加入者の個々のケースに応じた救済の手立ても図れなくなります。
市町村国保会計の財政危機を招いた主因は、国庫負担が大幅に削減されてきたことによるものです。市町村国保会計への国庫負担は1980年度の57.5%から、07年度には25.0%に縮小しています。一方で、1人当たりの保険料(税)の年額は、1984年度の3万9020円から、07年度には8万4367円に増加しています。上がり続ける保険料は、保険料の滞納を招き、保険証の取り上げによる大量の無保険者を生んでいます。
国の負担をふやさないまま、都道府県単位で広域化しても、国の責任の後退につながり、国民や加入者への負担増になることは避けられず、医療崩壊が益々深刻化することは明らかです。国保は、国民の約4割が加入する公的保険制度の根幹をなす制度です。国の責任と負担で国保財政を立て直すことを強く求めます。