「社会保障・税の共通番号制」創設に反対する意見
2010年12月5日
2、「共通番号制」創設に対する意見 (1)「共通番号制」とそのIT化は、あくまで手段である。その目的は、憲法13条、14条、25条の理念に基づいて我が国の社会保障制度と税制度を、その在り方を含めて実現することでなければいけない。しかるに、「中間まとめ」は、その目的とするところの全体像や原則が明らかにされておらず、また、その国民的議論や合意も不十分である。 (2)政府は「中間まとめ」への意見を求めるにあたって、社会保障と税の役割として所得再分配機能を挙げている。そのことは間違いではないが、問題は、どういう原則のもとでの所得再分配機能にするかである。すなわち、社会保障と税の在り方としては、憲法の理念と社会的公正・公平を重視する立場から、応能負担原則を強化する方向でなければならない。ましてや消費税のような逆進性を強める方向であってはならない。これは国民の多くが望むところである。 (3)「共通番号制」創設は、そもそも国民の望んだものではなく、産業政策として財界から出された要求である。「共通番号制」創設とIT化によって、年金、医療、介護に関する「給付と負担」に関する情報を、番号を用いて名寄せ・突合して容易に個人単位で把握できるため、政府・財界が考える「社会保障個人会計」につながることになる。日本経団連は2004年9月に「社会保障制度等の一体的改革に向けて」の提言の中で「社会保障個人会計の導入」を掲げ、「財産相続時における、社会保障受給額(特に年金給付)のうち、本人以外が負担した社会保険料相当分と相続財産との間で調整を行う仕組みも検討すべきである」とし、死亡時に財産が余っているのは、保障が手厚すぎたと判断し、死後精算で遺産・相続財産から給付金を回収することも考えている。 (4)社会保障や税に関する個人情報はきわめて秘匿性の高いものである。プライバシーが厳重に保護されなければならない。既存の住基ネットの住民票コードは、行政の事務に相当数利用されているといわれているが、十分な機能と権限を有するプライバシー保護のための第三者機関は未だ創設されていない。レセプトオンライン請求システムでも、患者の病名や治療内容などの個人情報を取り扱うにもかかわらず、その保存、削除、消去などの詳細な取り決めがなされずにスタートし、今日に至っている。今後将来にわたって、電子データ化された個人情報の流出や目的外利用、民間保険会社など営利企業に利活用されることが危惧される。 (5)導入目的の一つとして示されている「正確な所得把握」は、「消費者を顧客としている小売業等に係わる売上げ(事業所得)や、グローバル化が進展する中で海外資産や取引に関する情報の把握などには一定の限界があり、番号制度も万能薬ではない」(「平成22年度税制大綱」)と、政府自らが認識している。「中間まとめ」が示した目的そのものが破綻していると言わざるを得ない。 (6)そもそも番号制度を導入している諸外国と日本とでは、国民の政府への信頼や政府の情報公開の透明性などの前提が異なる。このような前提を抜きして、「共通番号制」創設やIT政策を進めようとしているため、日本ではインフラ整備ばかりが先行し、国民への社会サービスやプライバシー保護が二の次になっている。また、医療・社会保障費が抑制され続けている中、導入費用だけでも3000億円を超える試算が示されており、その導入と維持に係わる莫大な費用についても強く疑問に思うところである。その費用対効果も十分検討されているとは思われない。日本では、まず、行政の情報公開制度の充実をはかり、政府の信頼と透明性の向上をはかることが重要である。 3、おわりに 本来、国民主権の我が国においては、国家が国民に監視されることはあっても、国民が国家に監視されることはあってはならない。私たちは「共通番号制」創設に反対すると同時に、その先にある国民一人一人のあらゆる個人情報が一元管理される恐れのある「国民ID」制についても反対の立場である。 以上
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