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「2011年度税制改正大綱」について

2010年12月20日
全国保険医団体連合会
会長 住江 憲勇

12月16日、菅内閣は2011年度「税制改正大綱」を閣議決定しました。
総じて大企業・大資産家には減税を行う一方で、庶民には増税を強いるものです。また消費税増税を明確に打ち出しています。スローガンに掲げる「雇用と格差是正」よりも、むしろ「内需低迷」「財政危機」を一層深刻化させる内容といわざるをえません。
私たちは、全国の医師・歯科医師の団体として、一貫して応能負担に基づき直接税中心の総合・累進課税、生活費非課税などの民主的税制の徹底・確立を求めてきました。私たちは、国民に開かれた税制論議に基づいて、大企業・大資産家に応分の負担を求め、国民には減税を行うよう、「2011年度税制改正大綱」の見直しを求めるものです。

1、法人減税では、減収分を補う財源が充分に確保できないまま、法人実効税率40.69%を5%引下げました。財務省試算では、法人税率5%引下げに約1.5〜2.1兆円が必要ですが、法人優遇税制の縮減等は8,000億円にすぎません。環境税創設による増税分を含めても、ネットで約6,000億〜1兆円の実質減税です。 
大企業は手元資金だけで64兆円超と2000年以降最高を記録しています。内需低迷で有効な投資先が見出せない下では、政府税調の資料でも明らかなように、法人減税は企業の内部留保の増大に終わるだけであり、「大綱」で強調する「デフレ脱却と雇用拡大」上も有効といえません。日本経団連の米倉弘昌会長自ら、雇用・国内投資の拡大などの「(約束を求める)そのような経済運営のやり方は資本主義の考え方ではない」と発言しています。
消費税については、「2011年半ばまでに」増税案を取りまとめる方向を示しました。「社会保障」のためとしていますが、今回の法人減税の財源捻出につながることは明らかです。早急に医療・生活必需品にゼロ税率を適用して、デフレ脱却を図るべきです。

2、所得税・住民税では、中高所得者の控除を縮小する一方で、最高税率は据え置きました。相続税では、最高税率の引上げは5%に留め、基礎控除を大幅に圧縮し、より小規模な相続資産への課税を強化しています。
改正の背景にある「所得再分配機能の回復」は望ましい方向ですが、控除の縮減は憲法25条を背景とする生計費非課税原則にも関わるものであり、慎重に検討するべきです。むしろ税率段階の刻みを増やしつつ、最高税率を引上げる途での累進性強化を目指すべきです。
株式の配当・売却益に係る税負担を軽減する「証券優遇税制」は2013年末まで延長されました。国際的にも異常な低率での分離課税の下で、所得が5,000万円から1億円をピークにして、それ以上の階層では所得税の税負担率は低下しています。大資産家こそ応分な税負担をすべきであり、証券優遇税制は即時に廃止し、少なくとも本則税率に戻すべきです。

3、社会保険診療報酬に係る事業税の非課税措置は2011年度は存続とされ、「地域医療を確保するために必要な措置について」来年1年間かけて議論し結論を得るとされました。
事業税の非課税措置は、保険医療を満遍なく安定的に供給することを保障するために創設されました。また保険医療の高度な公共性・非営利性・公定価格という特殊性に鑑みた措置でもあります。事業税が収益課税の性質を持つ以上、医療の特殊性からみて非課税には合理性があります。国が国民の命と健康に責任を持つ以上、今後も全国一律の形で非課税措置を存続させるべきです。
4段階税制は、小規模高齢の医療機関、僻地医療等において医業経営を支える命綱の役割を果たしています。今後も医師が地域医療に充分に専念できるためにも、引続き残すべきです。

4、今回、「納税者権利憲章」の策定を含む国税通則法「改正」案が示されました。しかしその内容は、私たちがこれまで求めてきた税務行政の民主化、税務調査の適正手続実現の要望とはかけ離れたものになっています。納税者権利憲章は、国会決議を要さない国税庁の「行政文書」扱いとする一方で、通則法改正案には、課税当局の調査権限を強化する内容が多数盛り込まれています。
改正案に盛り込まれる反面調査先を事前通知の対象先に含める、修正申告の強要の合法化、再調査権の創設、帳簿類の持帰りの合法化、課税庁による増額更正の請求期間の3年から5年への延長、白色申告者への記帳義務化など、これらは税務行政の強権化にほかなりません。
これは国税庁自らが定めた「税務運営方針」における課税当局と納税者の間の相互信頼・協力に基づいた税務運営という基本理念・指針を否定するにとどまらず、自主申告制度に基づく税務調査の補充性という我が国の税務行政の根幹までも変容しかねない問題をはらむものです。抜本的に見直した上で、慎重な審議を求めます。

5、社会保障・税に関わる(共通)番号制度では、「社会保障の充実と効率化」、「国民の負担の公平性の担保」、「国民の利便性」などを理由として、早期の制度導入を進めるとしています。
社会保障や税に関する個人情報は極めて秘匿性が高く、プライバシーは厳重に保護されなければなりません。しかし、住基ネットではプライバシー保護のための実効的な第三者機関は創設されておらず、レセプトオンライン請求システムでも、その保存・削除・消去等の詳細な取決めがなされないままスタートし、今日に至っています。既存の個人情報保護の体制整備が不十分なままにもかかわらず、より大規模な形で共通番号制度を導入することは、プライバシー保護において大変疑念を感じるものであり、反対します。