医療の市場化拡大を狙うTPP参加は、国民皆保険制度の崩壊を招く
2011年1月31日
全国保険医団体連合会
政策部長 三浦 清春
菅政権は、「新成長戦略」において、医療の「成長牽引産業」化と「国際交流」推進を決定し、その実現のため、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加方針を閣議決定した。「海外の優れた経営資源を取り込む」ことや、「看護師・介護福祉士等の海外からの人の移動」を掲げ、それを「規制改革」と「総合特区制度」で後押しして、具体化する方針である。
これを受けて、政府の行政刷新会議「規制・制度改革分科会」は1月26日、米国などから「非関税障壁との指摘を受けている分野の対応を盛り込んだ」(日経新聞1月26日)、「規制改革」の中間取りまとめを了承した。
「事前規制から事後チェック行政への転換を図る」ことを求め、「改革の方向性」として、「公的保険の適用範囲を再定義することが必要」とし、「国際医療交流による外国人患者・従事者の受け入れ」などを挙げ、個別項目では、一定の条件下で、医療法人への剰余金配当や営利企業の役職員が医療法人役員となることを認める、一般用医薬品のインターネット等販売規制の撤廃、などを挙げている。
公的保険の適用範囲と混合診療の拡大については、同分科会の第一次報告書にも、「事前規制から事後チェックへ転換し、実施する保険外併用療養費の一部を届出制に変更すべき」とあった。これは、医療の安全性、有効性の確認を事後にチェックすれば良いという意見であり、高度医療評価制度の緩和・拡大とも連動する形で、なし崩し的に混合診療を拡大しようとする方向である。
また、国際交流=医療ツーリズムが広がり、公的保険外で高額な治療を支払う外国人富裕層の受け入れが拡大・定着するならば、受け入れ医療機関において利益追求のための患者の選別や、医師、看護師の過度な確保・集中によって、地域医療崩壊の現状に拍車がかかることになる。
さらに、営利資本が医療法人経営に参画し、配当を認めるならば、医療の非営利性は損なわれ、配当を目的とする医療へ変質するおそれがある。
2009年6月施行の薬事法は、副作用リスクが高い医薬品のインターネット販売を禁止し、薬剤師等が常駐する対面販売を義務付けているが、こうした規制を撤廃することは、医薬品の安全な使用よりも、利益の追求を優先するものである。
海外から「人」や「経営資源」が国内に参入することで、我が国の医療に市場原理が持ち込まれ、外国資本が経営に参画した医療法人・医療機関が広がり、原則禁止の混合診療が拡大・解禁されるという事態が想定される。一層の公的医療費抑制と医療の市場化拡大を狙い、国民皆保険制度を崩壊へ向かわせるTPPへの参加は、断じて容認できるものではない。
以上