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なし崩し的に混合診療を拡大する高度医療評価制度の
見直し中止を求めます

2011年2月4日
全国保険医団体連合会
政策部長 三浦 清春

厚労省は2010年11月、中医協に高度医療評価制度を見直し、実施手続きを大幅に緩和させる提案を行いました。現在は、実施計画書と実施技術、実施医療機関について、高度医療評価会議で審査し、その後に先進医療専門家会議で審査し、それぞれ厚労大臣が承認しています。しかし、この個別の審査・承認を省略し、未承認薬・適応外薬検討会議で、「医療上の必要性が高い」と認められた未承認薬等について、予め登録した実施可能医療機関群から申請があれば、実施計画書の適否のみを判断し承認することや、この適否判断について研究施設機能を持つ医療機関に委ねる、という内容です。また、未承認薬等や未承認の医療機器等を用いた技術を、先進医療として申請する前であっても、実施医療機関を限定して、保険外併用療養を認めることも提案しています。

我が国の臨床試験は、薬事法に則りGCP(1997年3月27日制定の医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)という厳しい基準のもとで行われる臨床試験(治験)と、そのGCPの適用を受けない臨床試験とがあって、二重基準になっています。後者の臨床試験で集積されたデータは、治験データとして活用できないため、未承認薬の承認や公的医療保険の適用にはつながりません。

ところが、厚生労働省は2008年4月、未承認の医薬・医療機器を使った治験以外の臨床試験に対しても保険外併用療養費制度の適用を可能とする高度医療評価制度を創設しました。このことは、安全性、有効性の確立していない研究段階の医療、いわば実験的医療に対しても公的な医療保険財源が投入されることを意味します。

このような高度医療評価制度によって、大学病院や研究機関などを中心に、高度医療や未承認薬開発の名のもとに有効性・安全性が担保されていない混合診療が拡大されてきています。また、この混合診療のなし崩し的な拡大は倫理的な問題も引き起こしています。2008年には大学病院での倫理委員会の虚偽承認が明るみになり、2010年には東大医科学研究所での臨床試験において、有害事象が関係者に周知されなかったという倫理上の問題及び、混合診療が原則に反して行われていたことが報じられています。同じ臨床試験でも治験とそれ以外の臨床試験とで規制が異なるという二重基準問題を解消し、被験者保護のヘルシンキ宣言に則った臨床試験の在り方を確立すべきです。

厚労省の今回の提案は、原則禁止の混合診療をなし崩し的に拡大するだけでなく、治験を空洞化させ、被験者保護を謳うヘルシンキ宣言からの逸脱の危険があります。被験者の人権と安全性を最優先する観点から、医の倫理にそむき、研究的医療に保険財源を投入するなどの問題を内包する高度医療評価制度の見直しは中止し、制度は廃止すべきです。そして、▽すべての臨床試験に薬事法を適用し、国の責任を明確にし、医薬品医療機器総合機構の審査体制を増員・充実する▽先進医療を含む高度医療で安全性・有効性が未だ確立されきれていない研究的な医療については、国費の科学研究費等を投入する▽安全性・有効性が確立している医療技術、医薬品等は、速やかに公的医療保険の対象とする、などについて要望するものです。     

以上